6本目(2)真のチャラ男へ
「は? なんやねん、急に?」
「いや、ちょっと都合が……」
「都合ってなんやねん」
「危篤で……」
「誰が?」
「俺が……」
「アンタかい!」
「と、とにかく、漫才はやっぱナシという方向で……」
「アンタから言い出したんやろ、今さらナシは無しやで」
「そ、そんな……」
倉橋は困った顔になる。笑美が腕を組む。
「そない困った顔されても、こっちが困るっちゅうねん……」
「教えてあげようか?」
「!」
「その豹変の理由……」
「知っているんか、礼……明ちゃん⁉」
「知っているよ」
「よっしゃ、当たってた……」
笑美が小声で呟く。礼明が声を上げる。
「いや、当てずっぽうだったの⁉」
「まだなかなか見分けが……」
「髪の分け目で覚えてよ!」
「難易度高いな」
「やれば出来る!」
「礼明ちゃん、それはとりあえず良いから、話を進めたら?」
礼明に続いて部室に入ってきた礼光が呟く。
「それもそうね……あのね、笑美ちゃん」
「うん」
「倉橋ちゃんは極度のビビりなの」
「ビビり?」
「そうよ」
礼明が頷く。
「お客さんが一杯になるだろうって司っちの言葉を聞いてビビったんでしょう? どうせお客は少ないはずだって舐めてたのよ」
「ぐっ……」
礼光の言葉に倉橋が俯く。
「そうなんか?」
「まあ、当たってるよ……」
笑美の問いかけに倉橋は頷く。礼光が冷ややかな視線を向ける。
「おいしいところだけちょっと持っていって、自分が人気者だって触れ回るつもりだったんでしょ? 話を大げさに膨らまして」
「……」
「ろくにサークルにも出ていないのに、調子良すぎじゃない?」
「そうよそうよ」
「……違う」
「ん?」
「違う!」
「!」
倉橋の突然の大声に礼光たちが驚く。
「あ、わ、悪いね……大声出しちゃって……」
「……なにが違うんや?」
「え?」
笑美が重ねて問う。
「なにが違うかを聞いているんや」
「あ、ああ……俺はこのビビりをなんとかしたいんだよ」
「ほう……」
「人前で漫才を一度でも成功させたらなんとかなるかなと思ってさ、最近はこのサークル結構評判が良いみたいだから……」
「ふむ……」
「そしたら、ツカサンが、講堂が一杯になりそうだって言うから、これはちょっと話が違うぞってなって……」
「人の入りはそこそこやろうと思ったんやな?」
「ああ」
「そういう段階から徐々に慣らしていこうと思ったと……」
「そ、そうだよ」
「なるほどね……礼明ちゃん、礼光ちゃん……」
「はい?」
「なに、笑美っち……?」
「そういう決めつけは良くないな。この子に謝り」
「え……ご、ごめんなさい」
「ごめんなさい……」
礼明と礼光が揃って頭を下げる。倉橋が戸惑う。
「い、いや、俺も調子良いことを言ったから……」
笑美が首を捻る。
「ビビりねえ……無理になんとかせんでもええんちゃうん?」
「ほら俺ってさ、こういうキャラじゃん、周囲からもなんというかこう……期待されているというかさ……」
「期待?」
笑美が首を傾げる。
「いや、なんていうの、ムードメーカー的な役割?」
「なんやその役割……」
「体育祭とか文化祭でクラスを盛り上げる役割だよ」
「昨年度はどうしたんや?」
「知恵熱出して休みがちだった……」
「どんだけ悩んでねん……」
「大変なんだよ、キャラを維持するのも」
「キャラ変したら楽になるんちゃう?」
「そういうわけにはいかない」
「なんでや?」
「俺はチャラ男っていうことに誇りを持っている……!」
倉橋は胸を張る。
「妙なところに誇りを持っているな……」
笑美が目を細める。
「と、とにかく、なんとかしたいんだ! 力を貸してくれないかな?」
倉橋が頭を下げる。
「僕の方からもよろしくお願いします。倉橋くんはサークルの勧誘ビラ配りの時も結構手伝ってくれたし……」
「司くん……そう言われてもな……」
笑美が後頭部を掻く。
「笑美さんしかいないんです」
「ウチをセラピストかなんかと勘違いしとらんか?」
「……偽物を本物にする」
「! む……」
「それもまた舞台の持つ力であり、魅力なのかなって……」
司の言葉に笑美が笑う。
「……ははっ、チャラ男を真のチャラ男にするってか……ええよ、倉橋くんとコンビを組んだろうやんけ!」
笑美が頼もしい声を上げる。
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