6本目(3)ネタ『チャラチャラ』

「はい、どーも~2年の凸込笑美で~す」


「2年の倉橋孝太郎で~す!」


「『セトワラ』、今回はこの二人でお届けします、よろしくお願いしま~す」


「よろしくお願いしま~す!」


 借りた講堂内に拍手が起こる。ひと呼吸おいてから笑美が話し出す。


「え~まあね……」


「へい! そこの彼女!」


 倉橋が客席を指差す。笑美が首を傾げる。


「おっ、なんやなんや……?」


「俺と一緒にパイレーツしない?」


「……ど、どういうこと⁉」


「めんご、めんご、瀬戸内海ジョーク出ちゃった」


「瀬戸内海ジョーク⁉」


「笑美ちゃん、話は変わるんだけどさ……」


 倉橋が真面目な顔つきになる。


「急やな!」


「俺さ~悩みあんのよ……」


「悩みとは無縁そうやけどね」


「俺、周りからチャラ男だと思われがちなんだよね~」


「……がちって言うか、実際ガチでそうやろ⁉」


「ええ?」


「いきなり女の子に対して瀬戸内海ジョークかます奴がチャラ男でなくてなんなのよ?」


「いや~俺って結構真面目なんだよ」


「そうなん?」


「マジよ、バイトとかちゃんとやるもん」


「ホンマ?」


「ホンマ、ホンマ」


「じゃあ、ちょっとやってみせてよ、ウチがお客やるから」


「ああ、いいよ」


 笑美が少し後退し、自動ドアが開く様子を手で再現する。


「ウィーン」


「あ、いらっチャラいませ~」


「チャラいませ⁉ な、なんか気になるけど、えっとこれとこれ下さい」


「あ、こちら、あチャラめますか?」


「チャ〇メラ買ったみたいになってるな! え、ええ、温めお願いします」


「ビニール袋、お付けしますか?」


「ああ、はい、一枚お願いします」


「はい、チャラ枚ですね」


「チャラ枚⁉ い、一枚で良いですから……」


「お会計……チャラで良いです」


「良くはないやろ! しかもその感じだとなんやこっちが悪いみたいやし!」


「ありがとうございました!」


「聞けや!」


「またお越しくだチャラいませ~」


「アカン! アカン!」


「え?」


「え?って、こっちの台詞やから」


「なんか問題あったかな?」


「問題しかないよ」


「ええ?」


「チャラをどれだけ挿し込めるか選手権みたいになってたやん」


「コンビニがちょっとあれだったかな~」


「他なら行けんの?」


「めんご、じゃあ、ファミレスで! ワンチャンお願い!」


 倉橋が両手を合わせて笑美に頼む。笑美がため息をついてから頷く。


「……ファミレスのお客さんをやればええんやな?」


「そうそう!」


「分かった」


「お願い」


「チャラーン! いや、自動ドアの音がもう……」


「お客様、何名でしょうか?」


「あ、三名です」


「あ~ちょっと今満席で……」


「あ~待ちますよ」


「あ、大丈夫っす! お客様、相席よろしいでしょうか?」


「え? ファミレスで相席ってあんま聞いたことないけど……」


「ここだけの話なんすけど……」


「急に小声になったな……」


「あっち、男の子三人、こっち、女の子三人……」


「はあ……」


「……恋芽生えちゃいましょうよ!」


「芽生えるか! 嫌やろ、出会いのきっかけ、ファミレスで相席って……」


「あ~でも、君カワイイね!」


「友達をナンパしようとすんな! 何を自分も参加しようとしてんねん!」


「あ~それじゃあ、ご注文は?」


「カレーライス下さい」


「辛さが調節できますが」


「ああ、そういうのがあんねや」


「はい、『甘口』、『普通』、『チャラ辛』から選べます!」


「チャラ辛? チャラ推してくるな~」


「どうします?」


「う、う~ん、チャラ辛頼んでみようかな~」


「はいよ、チャラ辛一丁!」


「ラーメン屋のノリなんよね……」


「はい、お待たせしました!」


「おっ、きた」


「どうぞお召し上がりください!」


「……うん」


「いかがでしょう?」


「こ、これは……」


「味よりもチャラい感じを再現することを優先したっす」


「味を優先しろや!」


 笑美が詰め寄る。


「あ、落ち着いて。お口直しにスイーツなんてどうでしょう?」


「スイーツ?」


「はい」


「……おススメとかあんの?」


「はい! 『ストロベリーとチャラレートパフェ』です!」


「チャラレートってなんやねん!」


「めぼしい、カワイイイチゴは皆、つまみ食いしちゃっていますね~ただのパフェです」


「そんなもん出すな!」


 笑美が激高する。


「あ、落ち着いて下さい、お客さん……」


「うん?」


「お詫びと言ってはなんですが、本日のお代……3800円です!」


「そこはチャラじゃないんかい! もうええわ!」


「「どうも、ありがとうございました!」」


 笑美と倉橋がステージ中央で揃って頭を下げる。

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