6本目(1)チャラい遭遇
6
「こんにちは~」
笑美が部室に入る。
「ウェーイ!」
「え⁉」
短すぎず長すぎずの茶髪で両耳にピアスをした派手な男子生徒が笑美にいきなり声をかけてきたため、笑美は面喰らう。
「噂のツッコミちゃん、カワイイね~♪」
「ウチは凸込ですけど……」
男子の言葉に笑美はややムッとする。
「あれ~? ツッコミちゃんって呼び名、気に食わない系~?」
「そうですね」
「そう? 良い感じだと思うんだけどな~」
「良くないです」
「特徴をよく捉えているじゃん」
「……ウチはあくまでも役割としてツッコミをこなしているわけで、性格的特徴というわけではありません」
「それじゃあ身体的特徴?」
「……ツッコミの身体的特徴ってなんですか」
「例えば右手の手の甲が異様に発達しているとか……」
「仮に発達しとったらヤバいでしょ、ツッコミ食らうた人が」
「あ~それもそうか……」
「それもそうかって……」
「あれ? 右手の一振りでロウソクの火を消せるんだっけ?」
「武道の達人の域に到達しとるやないですか」
「え? 到達していないの?」
「目指してもいないです」
「……来いよ、高みへ」
男子が手招きをする。
「お断りです」
「ノリ悪いな~」
「……っていうか、どちら様ですか?」
「あ、俺のこと?」
「他におらんでしょ」
「いや、名乗るほどのものでもないよ」
「ほんならいいです……」
「い、いや、ちょっと待ってよ!」
「なんですか?」
「興味失うの早すぎっしょ!」
「失ってはいないです」
「え?」
「もともと興味を持っていないですから」
「ひ、酷くない⁉」
「練習をしたいので、特に用事がないようでしたらお帰り下さい……」
笑美がドアを指し示す。
「練習って何をするの?」
「……」
「いやいや、無視しないでよ」
「漫才の練習ですよ」
「あ~そうなんだ。やる気十分だね~」
「十分もなにも……それが目的のサークルですから」
「俺もなんだかテンション上がってきたよ!」
「え?」
「バイブスが爆アゲって感じ!」
「は、はあ……」
「ババッとやって、ガンガンと行こうぜ! その結果、ドカーンっしょ⁉」
「いや、擬音だらけで訳分からんねん!」
「まあ、その辺はさ、フィーリングでいこうよ」
「フィーリングが全然合うてへんねん」
男子が自身の胸を右手の親指でつつく。
「……ソウル共鳴していこうよ」
「魂でええやろ」
「う~ん……」
「なんやねん、さっきから……」
「とりま……俺たち付き合っちゃう?」
「なんでやねん!」
笑美が声を上げる。男子が笑みを浮かべる。
「……はい、『なんでやねん!』頂きました~」
「は?」
「ウォーミングアップはこんなもんかな~ツカサン」
男子が司に声をかける。席に座り、ノートを眺めている司が応える。
「そう……」
「ちょ、ちょっと待って、司くん!」
「はい、なんですか?」
「なんですか?って、もしかしてこのチャラ男……」
「はい、セトワラの会員です。僕らと同じ2年生の
「あ、ああ、名前は知っておったけど……」
笑美が倉橋に視線を戻す。倉橋はウインクしながら、右手の人差し指と中指を額につけて、軽く一振りする。
「シクヨロ~」
「……名は体を表さずって感じやな」
「え? それ酷くない?」
「素直な感想を述べたまでや」
「素直過ぎるのもどうかと……」
「……司くん、ひょっとして……」
「ええ、今度のネタライブは倉橋くんとやってもらおうかなと……」
「……嫌やな」
「ちょっと、ちょっと、そんな言い方ないっしょ~」
笑美の反応に倉橋は苦笑する。司が尋ねる。
「どうしてですか?」
「なんか合わん気がすんねん」
「いやいや、俺が全然合わせるからさ~」
「なんでちょっと上からやねん」
笑美が倉橋に対し冷めた視線を向ける。
「他の皆は一緒に漫才してたじゃん、俺だけやってくれないのは不公平だよ~」
「む……」
「笑美さん、なんとかお願い出来ませんか? 倉橋くんもずっとこのサークルのメンバーを続けてきてくれたので……せっかくならステージに立って欲しいんです」
「……しゃあないなあ」
笑美が頭を掻く。倉橋が笑ってガッツポーズを取る。。
「ははっ、やった! 俺も笑いをとるぞ~」
「……まあ、場慣れはしてそうやな」
「そうでしょう? 今度は恐らく講堂も満杯になるでしょうから」
「え?」
司の言葉に倉橋の動きが止まる。笑美が尋ねる。
「どないしたんや?」
「や、やっぱ俺、辞めようかな……」
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