1本目(3)ネタ『サークル活動説明会』

「はいどうも~♪」


「は、はいどうも……」


「ウチら、瀬戸内海学院お笑い研究サークル、略して……」


「「『セトワラ』で~す」」


「よろしくお願いしま~す」


 笑美の元気の良い挨拶にまばらではあるが、拍手が起こる。


「えっと……」


「……自己紹介」


 尚も緊張気味の司に笑美が囁く。


「あ、ぼ、僕は2年の細羽司です」


「ウチは2年の凸込笑美で~す。いや~司くんさ~」


「え?」


 司が戸惑う。笑美がいきなり台本にないことをやってきたからだ。


「袖からステージに出てくるまでの動きがぎこちないって!」


「そ、そうですか?」


「そうよ、アタシ、『生まれたての進撃の巨人かな?』って思ったもん」


「生まれたてって! せめて出来たてでしょう?」


「そんなんどっちでも一緒や!」


 一つ笑いが起こったことで、司にもわずかではあるが余裕が生まれた。


「い、一緒かな~?」


「まあ、そんなんはどうでもええんですよ! 今日は大事な日なんでしょ?」


「あ~近所の福田トメさんのお誕生日です」


「違う! アニバーサリーやけれども!」


「違うんですか?」


「違うでしょ。新入生歓迎会の部活動サークル活動説明会です! 君、なんていうサークルやったっけ?」


「セトワラです!」


「そう、そのセトワラ、ここに入るとね……なんや良いことがあるんやって?」


「そうなんですよ」


「ちょっとそれ、皆さんに教えてあげてよ」


「はい、こんな僕でもね、セトワラに入ったことによって……」


「よって?」


 司がピースサインをつくる。


「……2ミリ垢抜けたんです」


「たったの2ミリ⁉」


「『司の2ミリ』って、僕の島ではバズっています」


「それはバズるって言わんねん! ただの噂話や! まあまあ、こちらの1年生諸君に入ってきて欲しいんやろ?」


「それはそうですよ」


「だ~れも入らんかったら?」


「サークル存続の危機です!」


「あ~こりゃあ大変や!」


「大変なんですよ! でもね、皆さん考えてみて下さい」


「はい?」


 司がボソッと呟く。


「……今ならレギュラー確実ですよ」


「レギュラーってなんやねん⁉」


「なにもしなくてもこうしてステージ立てますよ」


「なんもせんのはマズいがな!」


「だって僕も現になにも覚えてきてないですからね」


「覚えてこいや! まあええわ、どんな人に入ってきて欲しいとかあるの?」


「え……まあ、面白い人」


「漠然としてるな……他には?」


「センスある人」


「その時点でセンスない気がするけど……他には?」


「えっと……僕とお付き合いしてもいいよって女子生徒の方、大歓迎です」


「そんなんおるか!」


「応募者多数の場合、厳正なオーディションを行います」


「行うな! 何様のつもりやねん!」


「なんですか、さっきから!」


 司が大声を出す。


「おっ、びっくりした……」


「誰も入ってこなかったらどうしてくれるんですか⁉」


「……どうなるの?」


「え?」


「サークルに誰も入らんかったらどうなるの?」


「そ、それはさっきも言ったように、サークル存続の危機ですよ!」


「そりゃ、エラいこっちゃ!」


「エラいことですよ。新鮮味が売りのウチのサークルが……」


「え? 今なんていうた?」


「はい? 新鮮味が売りの……」


「え、ちょっと待って、ちょっと待って……サークルが出来て何年目?」


「1年目ですよ」


「いや、生まれたてやん!」


 笑美が後方に下がりながら司の胸をビシっと指差す。


「伝統を受け継いでいかないと……」


「伝統ゼロやん!」


「で、でも、盛り上げていきたいんですよ! この瀬戸内海の小さな島から! 大きな笑いのムーブメントを巻き起こしていきたいんですよ!」


「ふ~ん、それじゃあ、なにか目標をここで言うてみてよ」


「え? 目標?」


「そう、セトワラとしての目標をブチ上げちゃってよ~」


「えっと……毎年夏に行われる『笑いの甲子園』……」


「あ~ありますね~」


「そこで優勝を目指します!」


「お~大きく出たね~」


「ブチ上げろって言ったじゃないですか」


「司くんは笑いの甲子園に出たいんや?」


「それは出たいですよ! 応援団で」


「いやいや、レギュラー落ちとるがな!」


「ちょっと髪の毛が長かかったかな~」


 司は髪の毛を触る。


「そこだけ昭和の高校球児⁉」


「『司の0.5ミリ』って言われて、島でバズって……」


「だから、それは噂話やねん!」


「ブオオオ~ン♪」


 司がサイレンの口真似をする。


「あ、これは笑いの甲子園の開幕を知らせるサイレンや! 皆さん! この夏、ウチらとともに夢を追いかけませんか?」


「え~福田さんのお宅のトメさん、祠の入り口のつっかえ棒を返して下さい……それは杖ではありませんよ……」


「しょうもない島内放送やった!」


「つっかえ棒を返して頂かないと……」


「頂かないと?」


「……島の結界が破られます」


「エラいことになる! 島存続の危機⁉ って話変わっているやんけ! もうええわ!」


「「どうも、ありがとうございました!」」


 笑美と司がステージ中央で揃って頭を下げる。

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