メール1通で済ます彼②

 帰宅する生徒たちの視線は感じるけれど、不審者を見るように疑ってる感じじゃないし、僕とは気付かれてない。

 たんに見慣れない制服がずっと立ってるせいで目立っているのだろう。


 気になるのは仕方ない。

 なんせユキナはいつにも増してパーフェクトな美少女だから。


 姉さんの高校時代の制服を借りて、いつもより丁寧に印象が変わるようなメイクをしてきた。

 化粧は女の戦装束だって姉さんたちも言っていた。ぱっちりメイクの今の僕の攻撃力は53万だ。


 見た目通りのふわふわした高い声は出ないけれど、秀次様に散々表を連れ回されたせいで地声よりは女の子らしく聞こえる声の出し方も覚えた。

 怒っているのだから多少低い方がそれっぽいのもあってパーフェクト。

 迎え討つ準備は完璧ってわけ。


 一Aの教室はついさっき電気が消えた。寄り道さえしなければもう直ぐ出てくるはずだ。

 通用門の方に逃げるにしろ、下駄箱は正門側。ここを通らずには帰れない。


 不自然に思われない程度に校舎を監視していると、何人かの男子に囲まれた秀次様が出てきた。


 開戦のコングが鳴る。


 僕はユキナがいっとう可愛く見える笑顔で道を塞いだ。


「待ってたよ、秀次さん」

「……は? ユキナ……なんで」

「なんでって、本気で言ってる? あんなメール送っておいて」


 流石の秀次様も僕がユキナで乗り込んでくるとは予想していなかったらしい。

 状況を飲み込めていない表情は本物っぽい。

 この人の意表を突けたことだけでも多少気分が上がる。


「だからって学校まで来るなんて思わないだろ。お前、目立つの嫌いだし」

「ご理解どうも。それくらい怒ってるってこと。––––ねえ、秀次さんを借りてもいいかしら」


 優等生モードでも素でもシャキシャキ話す秀次様にしては珍しく歯切れが悪い。


 これは埒があかないなと秀次様のツレに水を向ける。

 目を細めて小首を傾げると、面白いくらいこくこく頷いてくれた。

 うんうん。ユキナにお願いされたら許しちゃうよねわかる。


「ありがとう。明日返すね」


 綻ぶような純な笑顔、下の姉さんが得意な服従したくなる笑顔でお礼を言いつつ宣戦布告。


 目を白黒させたまま何か言っている秀次様の腕をとって、半ば引き摺るような気分で無理やり連れていく。


 単純な力比べでは勝てないけれど、仮にも彼女と知られているのだ。

 力任せに抵抗したら優等生のレッテルが剥がれてしまう。

 知り合いの目があるところに乗り込まれた時点で秀次様の完勝は望めないのだよ。


 僕の作戦勝ちってわけさ。


 ひとまず同じ土俵に立てただけでも御の字。もちろん第二ラウンドも僕が勝つんだけれど

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