メール1通で済ます彼①

 翌朝。携帯を開けると秀次様からメールが届いていた。

 日を置かないのは珍しいなと寝ぼけ眼で本文を開き、眠気が吹き飛んだ。



to ユキナ 

クソ兄貴のことは誰にも言うなよ。

俺もお前の趣味は誰にも言わない。

お互いに秘密を握ったから契約は解消。

もう彼女でもオモチャでもない。別れよう。



 文字列の意味するところが飲み込めずに何度も繰り返し読んだ。やっと意味は理解できたけれど、なんでこんな事態になっているかは理解できなかった。


 何を言っているんだこの男は。

 これだけ人の精神かき乱しておいてメール1通で終わらせる気? はぁ? 正気か?

 勝手に始めたくせに。脅すみたいにして所有したくせに。有無を言わさずユキナを彼女にしたくせに。


 ふつふつと怒りが湧き上がってくる。

 僕がどんな思いで彼女扱い受けてたと思ってるんだ。

 それを言うに事欠いて別れようだって? ふざけないでいただきたい。


 ああ認めよう。潔く認めてしまおう。そうだよ、僕はたぶん、秀次様のことが好きなんだ。

 オモチャなんて言いつつもほとんど連れ回すだけで悪いことさせるわけでもなかったり、意外優等生は被った猫でも意外と根が真面目なのは本当だったり。––––僕にだけは、素を見せたり。


 弱みを握ってるから以外の理由はないんだろうけれど、思えばそれが特別な感じがしてちょっと気分が良かった。僕だけが許されているような心地にさせられた。


 それに秀次様も秀次様だ。僕が教室にいるのに気がついているくせに、平気で彼女の話をするから……。

 それも声音が楽しそうで、本当の彼女みたいに語るんだ。居た堪れない僕を見て嗤ってるんじゃないかなんて被害妄想じみたことを思いもした。


 でも昨日、震えるほど固く拳を握ったまま庇われて、彼女のことを話していた語り口は少しは本当だったのかも、だなんて……。それで僕までそんな気にさせられてしまったんだ。


 責任とってもらわなきゃ気が済まない。秀次様のせいでおかしくなった。せめて同じだけぐちゃぐちゃになってよ。


 湧き上がる怒りに反して僕の思考はとってもクリアだ。言い逃れできないように問い詰めてやる。


 幸い今日の7限は委員会。そんな面倒なもの入ってるわけがない僕は6限が終われば帰宅できる。でもファッション優等生の秀次様はクラス委員なので当然出席。

 よし、やれる。無理にでもやる。首を洗って待っておけよ優等生。絶対後悔させてやる。




 時刻は午後4時。7限終わりの生徒がちらほら帰宅し始める時間。

 僕は、いや、ユキナは、正門で出待ちしていた。

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