勝手に「彼女」を仕立てた彼④
「僕は昔から失言が多くて、いつも気付いたら一人になってたんだ。それで、違う自分になりたくて、女装を、始めた。ふわふわした女の子が頭小突いて『あ、いけない、言っちゃった』とか可愛く言ったら許しちゃうだろ? それで可愛いは正義な女の子みたいに許されたいなぁ、って」
姉三人も、母も、あけすけな物言いをする人だ。でも、姉さんたちはそれに見合った能力がある。
遠慮なく意見を言い合う習慣は小さい頃からで、染み付いてしまっているから簡単には消えない。
姉さんたちみたいに何か秀でたところがあれば良かったのだが、あいにくそんなものはなかった。
結果、できたのはズレてるくせにいらんことばかり言う嫌な奴。当然孤立するわけだ。
そんな状態でもなんとかやっていたのだけど、受験という存在自体がストレスな魔物のせいでタガが外れてしまった。
最初は部屋の中だけだったのが、外に行くようになって、ある日秀次様に見つかってしまった。あとは知っての通り。
「女装したら声でバレるから普通に話せないことに気付いたのは、かなり後になってからだったんだよね」
と茶化すように付け足し、話を括る。
別にたいそうな話ではないのだ。
深刻に受け取られては困る、と思っていたのだが、
「ありきたり。ボツ」
「ボツってなに!? 脚本じゃないんだから他はないよ!!」
この反応は流石におかしくないだろうか?
「新しい弱みが握れればと思ったんだがな。普通すぎてつまらん。女装してるときのが素に近いってのは笑えるけど」
「ドラマじゃないんだから全部に劇的な理由があるわけないじゃん」
「あったら楽しい。俺が」
「理不尽!!」
そんな理由で僕は話をさせられたのか……。
むすっとする僕を無視して秀次様は話をぶった切る。
「ま、これで何の問題がないことがわかったわけだ。説明終わり。愚痴らせろ」
そして愚痴大会再び。
感情が昂ぶって蹴りつけるだけだったのに、今度は確実にわざと蹴りつけている。
だって普通に蹴るだけじゃあ腹の方には来ないはずだろ!?
正直この状態で身体を支えるのはもう限界なわけで、手がぷるぷる震えている。
衝撃がくるたびに崩れ落ちそうになる。
「あのー、秀次様?」
「何、まだ話し足りないんだけど」
不機嫌も露わに見下ろされる。視線だけで射殺せそうだ。
「どうか足置きをやめさせてくれませんか、ね?」
精一杯へりくだってみるも秀次様の射殺せそうな視線は変わらない。
「俺、途中で潰れるなって言ったよな? で、おまえはわかってると答えた。なんの問題が?」
わざわざご丁寧に靴を脱いだおみ足で僕の脇腹をぐいぐい押す。明らかにわざとである。
僕を甚振ることに焦点を移したのか、バランスが取りにくい緩急つけた足使い。
しばらく攻防が続くが、当然力尽きたのは僕だった。
「ごめ……な、さい……も、げんかい……」
秀次様の攻撃に耐えられず、力尽きて転がるように崩れ落ちる。
疲れで息は荒いし、せっかく落ち着いた顔がまた赤くなっている。
咄嗟に手をつこうとしたせいで、スカートはノーガード。
僕の必死の努力はなんだったのか。
どこまで見えてしまっているかは正直考えたくない。
「無様だなーユキナちゃん」
秀次様はべたんと潰れた僕をぐりぐり踏みしだく。
悪い顔は健在でひどく楽しそうだ。
「うぅ……死体蹴りしなくたっていいじゃんか」
潰れたまま恨みがましく睨めつけると、秀次様は一瞬動きを止めた。そして悪化した。
長い足で器用に蹴り転がされてしまい、そのまま柔い腹をにじにじ踏みつけられた。
「オモチャのくせに生意気。大人しく遊ばれてろよ」
優等生仕草が刷り込まれた秀次様にしては珍しく、目線が合わなかった。
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