勝手に「彼女」を仕立てた彼③

 お手本のような人間足置き。

 ただ、自分からは見えない反対側がどうなっているかわからず不安で仕方ない。


 どうしても気になって、片手を尻の方に持っていきスカートの裾を押さえた。


「そんなに気になるならそれでもいいけど、途中で潰れるなよ」

「わ、わかってるよ」


 前と同じように乱暴に投げ出された秀次様の両足が、不安定な僕に乗る。


 崩れそうになるのをぐっと耐えて、僕は話を促した。


「それで、当然説明してくれるんだよね、昨日のメールのこと」

「ああ、あれ。話の流れ」

「何がどうやったらああなるの!?」

「彼女がいるって告白断ったら、駅前で一緒に歩いてた子でしょう? って」

「……で、肯定したわけ?」

「俺は告白が減って助かるし、告白してきた子も先に付き合ってるのがいるなら当たり障りなく受けいれられるだろ?」


 勘定に僕が入っていないじゃないか。初めから期待はしていなかったけどさ。


「少しは僕のことも考えてほしい」

「俺のオモチャだから必要ないな」


 オモチャならオモチャでもっと大事に使ってくれないものか。ものは大切に!


 不満しかない僕を見て何かに思い至ったのか、秀次様はニヤリと笑いながら僕の背を足先でなぞった。


「もしかして、好きな男でもいた?」

「はぁああ?? 僕も男なのになんでまた」

「そのための女装かと思って」


 まさか、と短く否定する。


 女装を始めたきっかけにはかすりもしないが、こちらの方が幾分納得がいく理由のような気がした。


「違うならなんでそんなこと。服も化粧品も高いんだろ? クラスの女子が、欲しいけどお金ないーって騒いでた」

「服も化粧品もほとんど姉さんたちのお下がりだから」


 通称・幸くんどうにかしてボックス。

 ボックスと称しているのは本当に箱だった頃の名残りで、今ではクローゼット一つにまで拡張している。


 着飽きたり、買ったはいいけど着れない服や、新色が出たからと使い切らずにポイされた化粧品なんかがここにある。


 姉三人のうち二人はすでに社会人だし、下の姉も大学生。季節が変わるたびに服やら化粧品やらをとっかえひっかえする程度の財力はあるんだろう。


 そんなわけで、僕が用意したのはタイツとオールウィッグだけ。言うほど財布には響いていない。


「で、女装の理由は?」


 さくっと軌道修正する秀次様。意図的に無視したのに掘り返さないでほしい。


「……言わなきゃダメ?」

「うん、命令」


 珍しく、綺麗な笑顔でニコっと笑う。うん、これはこれで怖いわ。

 どうせ拒否はできないのだ、僕はゆっくり話し始めた。

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