本性をあらわした彼②
辿り着いたのは駅から少し離れたカラオケ店だった。
「なんで、ここ……?」
「人目を気にしなくていいからね」
好きなだけお前を苛められるという副音声が聞こえたのは気のせいだろうか。……気のせいだといいなあ。
「ぼーっとしてないでついてきて」
「ごめん」
秀次様の呼ぶ声に、短く謝ってから追いかけた。
ドアの前でいきなり立ち止まった秀次様にぶつかってしまい、蔑みの目で見られるというアクシデントがあったものの、まだ身体的ダメージは負っていない。
精神のことは言わないでくれ。心が折れるから。
ドアを閉めて二人きりになった途端、秀次様は優しげな外面をかなぐり捨てた。
が、僕に何かを命じる様子もない。
そのまま十分が経過した。体感は倍以上だ。
沈黙と恐怖に耐えられなくなった僕は、ついに口火を切ってしまった。
「あのー……僕はいったい何をすればいいのかなー…………なんて……」
ギロリと視線がこちらを向く。
とっさに短い悲鳴を上げて後ずさる。
「ふーん、ユキナちゃんはそんなに俺にご奉仕したいわけ」
「いや、その……」
この空気がいたたまれなかっただけなんだけど、そんなことを言う度胸はない。
きっとそれもわかったうえでなんだろう。
秀次様はサディスティックに笑った。
「そっかそっか。主人思いなオモチャで嬉しいな。--じゃあそこで這いつくばって」
「はい?」
「聞こえなかった? 俺の前で四つん這いになって」
聞き間違いじゃなかった。
突拍子もないことを言い出すから僕の耳がおかしくなったのかと。
マジかという思いを込めて目を見たが、あの目は一部の曇りもなくマジだ。なんの疑問も抱いていない。
さっさとしろと有無を言わせぬオーラが言っている。
しぶしぶ探るように膝をつく。続いて手も。
上から衝撃が降ってきて崩れ落ちそうになるのを耐える。
見ると、僕の上に乱暴に投げ出された足があるではないか。僕は足置きですかそうですか。
この状態のまま何事もなかったかのように秀次様の愚痴大会が始まった。
秀次様の愚痴内容は多岐に渡る。
僕も知っているクラスメイトや先生だけでなく、名前も聞いたことのないおそらく先輩や他のクラスの生徒のこと。
さすがは優等生様と言いたくなるような広い交友関係である。
その分言っていることも過激で、白熱すると足置きこと僕をげしげし蹴ってきて痛い。
優等生の面影のかけらもない。
「そんなにストレスならなんで優等生なんかやってるのさ」
「はぁ?」
意図せずこぼれた僕の単純な感想に、秀次様は理解できないものを見るような視線を寄越す。
「クズは社会に要らないだろうが」
さも当然といったていで続けられた言葉に僕は面食らう。
クラスメイトを平然と足蹴にしているこの男がクズ以外のなんだというのか。
仁科幸成と宮下秀次は、きっと、本来交わるはずのない人生を持っていたんだろう。
分かり合える未来など微塵も見えなかった。
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