本性をあらわした彼①

 次の日、戦々恐々しながら学校に行ったけれど、不安に反して特に何もなかった。


 僕は相変わらず窓際の席で一人座ってる根暗だし、宮下……秀次様は相変わらず男女双方に囲まれる人気者な優等生。


 昨日のことは悪い夢だったのかもしれない、そうだったら良かったのになーと思いながら一日を過ごした。


 まあ、これで終わるわけがなかったのだけど。


 放課後、校門を出てすぐに携帯が短く鳴った。


 ディスプレイには本人が登録した「秀次様」の文字。

 恐る恐る開くと、わざわざ冒頭にはtoユキナとあった。


 準備ができしだい駅前に来るように、と。


 学校「での」関係は変わらないと言っていたのを思い出し、まさかとは思いつつも辺りを見回す。


 すると、一Aの教室の窓からひらひらと手を振る秀次様が見えた。


 自分でも表情が引きつっているのを感じる。

 なんの変哲もない校舎が魔王城のごとき何かのように思える。


 もう僕には即行で家に帰りユキナへと装うしか選択肢が残されていなかった。




 なんとか体裁を整えて駅前へ急ぐと、すでに人目を集めているイケメン様がいた。


 ヤバい、待たせてしまった。昨日の意地悪な笑顔が脳裏をかすめ身震いする。

 行きたくないけど、躊躇すればするだけ時は流れる。


 意を決して秀次様に駆け寄った。


「遅くなってごめん」

「大丈夫、全然待ってないから」


 僕の謝罪に気にしていないと笑うが、目は笑っていない。

 タレ目なのに柔らかさのカケラもない。怖い。


「オモチャの分際で待たせるとか何を考えてるんだい?」


 とでも思っているんじゃなかろうか。副音声が聞こえてきそうだ。


 怯える僕をよそに、秀次様は何も知らない女の子ならころっと惚れちゃいそうな甘い声で囁いた。


「昨日みたいに俺のこと呼んでみてよ、ユキナ」


 これが恋人に名前呼びをせがんでいるなら納得できるのに、現実はオモチャに主人を理解させようとしているだけ。甘さも何もない。


 誰もいない二人きりのときならともかく、こんな公共の場で様付けとかどんなプレイだ。


 周りの目が気になってなかなか言い出せないでいる僕を、秀次様は目で急かす。


「…………じ、さま」

「え、なんて?」

「…………ゅうじさま」

「聞こえないなあ」

「うぅ……秀次様! って呼べば満足か!」


 羞恥で顔が熱いし、視界が滲んでいる。相当酷い顔になってるだろう。


 なのに、秀次様は機嫌良さげによくできましたと僕の頭を撫でる。


 やめろ。ウイッグが崩れる。そもそも人前だぞこのサディストめ。僕を辱めてそんなに楽しいか。

 恨みがましい僕の視線など気にも止めやしない。


「じゃあ移動しようか」


 散々遊んで満足したのか、やはり僕のことなどお構いなくさっさと進んでいくのを慌てて追いかけた。

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