地味な竜とパリピ冒険者パーティー

 椅子ごとひっくり返って、ハトムギ茶を頭から浴びて、顔も背中もびしょびしょ。

 健康に良いお茶は、お肌にも良いのだろうか?

 グラスはどこだ? 割れていないか?


 大丈夫だ。パリピのメンバーの、盗賊っぽい格好の少年がキャッチしている。

 なかなか素早い。あの格好は伊達じゃないわけだな。


「なぁに? このオジサン。地元の人ぉ?」


 魔法使い風の女が口をとがらす。

 パリピどもがオレを取り囲んでジロジロと値踏みする。


「なぁんてゆっかぁ、モブ? って感じぃー」


 うん。まあ。

 薄茶の髪に、薄茶の瞳。

 こっちの世界にきて、この姿になったばかりのころには、染めてないのに茶髪だなんてと、はしゃいだりもしたけれど。

 人里を訪れてみれば・・・・・・・・・、ありきたりな色だった。


 おじさん呼ばわりは仕方ない。

 パーティーのメンバーの平均よりも五歳ぐらい上に見える・・・からね。


 ほかにもまた「背だけは高いけど、ひょろい」だの「目つきが鋭いのかと思ったら単に目が細いだけ」だの「表情に覇気がない」だのと、思い思いの感想をぶつけられ。

 さすがに同情したリーダーに「荷物持ちならさせてやる」と言われて、おじさんは腰が痛いからと丁重にお断りしたのでした。


 いやいやいや! 腰痛はウソだから! まだそこまでのトシじゃないから!







 翌日。

 朝早くからセレソ山に登り始めたパリピパーティーが岩だらけの山頂にたどり着いたころには、周囲は夕日で染まっていた。

 古い伝承によれば、ドラゴンは鱗の隙間に砂が入るのを防ぐため、床一面に金貨を敷きつめた上で眠ると云う。

 その話を忠実に守った寝床でオレは・・・、体を丸めてタヌキ寝入りを決め込んでいた。


 はて? パリピパーティーが一向に襲いかかってこない。 

 いかに巨体とはいえ砂ぼこりのような地味な色のドラゴンが、こんなにも隙だらけの姿を見せているのに、これでもまだビビっているのだろうか?


 ちょっと昔ならいざ知らず、今どきはドラゴンに対抗できる武器なんてそこら中に出回っている。

 人間が作る武器ではドラゴンの鱗に傷一つつけられなかった時代は終わっているのに、どうしてそこまで慎重なんだ?


 薄茶の砂塵ドラゴンといえば狩られやすいので有名で、倒されるのと同時にお宝だけ残して砂になって風に散るからハンターの服が汚れる心配もない、最弱のドラゴンだぞ?

 それがこうして目を閉じて、寝息っぽい音を立てているのに、どうしてさっさと襲いかかってこないんだ?

 寝たふりしてるだけだって気づかれたのか?

 だったらこのままじゃらちが明かないな。


 薄目を開ける。

 あー。パリピども、酒場で見たのより人数が少ないや。

 途中で逃げ帰ってしまったわけか。

 しょうがない。こっちから仕掛けて、初撃を大振りにしてわざと外せば、連中も安心して攻めてくるはず――



 首の後ろに痛みが走り、オレは反射的にソイツを弾き飛ばした。


「ッ!」


 首をなでた前足の指に、血がついている。

 ダガーを構えた盗賊ジョブの少年は、鮮やかに着地を決め、次の攻撃の構えに入っている。

 ドラゴンの爪から創られたダガー。

 ドラゴンを傷つけられるのはドラゴンだけだ。


 パーティーの面々がオレを取り囲む。

 ドラゴンの角の槍。

 ドラゴンの牙の剣。

 そこまで金がありそうには見えなかったのに、全員がしっかりとドラゴン素材の武具で身を固めている。


 リーダーの女戦士の号令で、パーティーの全員が一斉にオレに飛びかかってきた。

 人数が増えてる。隠れていたんだ。

 統制が良く取れている。

 なるほど。これはもうパリピなんて呼べないな。


 オレとしてはとある目的・・・・・のためにしてることだから、本当は人間相手に手荒な真似はしたくないけど仕方ない。

 やや深めに息を吸ってぇ……

 ファイアブレス!


「吹雪よ!!」

「!?」


 炎の轟音と女魔道士の呪文の声とが重なった。

 まさか! その若さでそんな高度な呪文が使えるのか!?

 くそっ。牽制用じゃなく本気のブレスでいくべきだった。

 炎と氷が押し合い、湯気で辺りが真っ白になる……

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