地球にいたのにドラゴンに喰われたので腹いせに転生先のドラゴンを滅ぼします
ヤミヲミルメ
砂塵ドラゴンの思惑
地味な男と占い師の少女
小さな酒場と提携している、田舎の小さな冒険者ギルド。
丸太をちょっと加工しただけの椅子は、寄った勢いで店の備品を壊すような荒くれた客が多い証なのだろう。
安酒のニオイでムセ返るようないつもの夜。
地味な服に薄茶の髪の二十代半ばの男……つまりオレは、一人きりで酒に似た色の健康茶のグラスをかたむけていた。
近くの席では、二十歳になったか、なってないかのガキンチョばかりの冒険者パーティーが、奇声を上げて、はしゃいでいる。
オレがこっちに転生してくる前の言葉でいえばパリピって奴らだ。
前世でもあまり縁がなかった。
……自分もあんな風にならないと人生を楽しめないみたいな謎の焦燥に駆られて、仲間になろうと無駄な努力をしてみた時期もあったけど……
忘れよう。
思い出す価値のある記憶なんて“あの人”にまつわることだけだから……
「あなた、悩みがおありですね」
いきなり耳もとで声がして、椅子に座ったまま振り向く。
ザ・占い師って感じの紫のヴェールをかぶった女の子が、水晶玉をなで回しながら突っ立っていた。
……ニヤニヤ笑ってて、気味が悪かった。
「悩みのない人間なんているかな?」
気のない返事をして、お茶をグビリ。
茶葉とか全然詳しくないけど、この村のはウマイ。
少女は水晶玉をじっと見つめた。
「あなたの悩みはズバリ! お金にまつわること!」
「ブッブー。はずれ」
「ウソ!? お金に困ってるわけでもない人が、何でこんな安酒と危険な依頼しかないような店になんか来てるのよ!?」
「キミ、それは……」
占いじゃなくて推理なんだけど……
「ミルヤよ! 見通しのミルヤ! あなたの運命、当ててみせるから、見通しのミルヤはすごい占い師だって宣伝してよね!」
「……ほかの人にしてもらえないかな?」
「このお店に下品じゃないお客が、あなたのほかにいるとでも?」
「……居ないね」
キミも含めて、ね。
「あなた、名前は?」
「……リューイ」
「姓名判断によると異世界の人ね」
「!?」
まじか?
わかるのか?
この名前は、前世での本名から取ったものだ。
竜一と書いて“りゅうい”と読む、ちょっとだけキラキラさせようとして、恥ずかしがり屋がガンバったみたいな名前。
じゃあ、これもわかるか?
「前世では、地球ってところにいた。日本の、東京」
「おもしろい響きね。今、考えたの?」
苦笑いで返して、お茶をチビリ。
この世界の生き物は、人間に限らずだいたいみんな、別の世界からの生まれ変わり。
五歳未満の子供には前世の記憶が残っていたりもするけれど、それを大人になってからも覚えていられるやつは滅多に居ない。
余談だが、地球で死んだジャガイモがこっちの世界で別の植物に転生する際に、チートで突然変異を起こしてジャガイモとして生まれてきたりするもんだから、こっちの世界の植生は、地球のものにやたら似ている。
「リューイさん、前世ではドラゴンに食べられて死んでいますね」
オレはハトムギ茶を噴いた。
「なっ、なっ……」
何でわかった!? と、驚きすぎて声を出せなかった一瞬のうちに、近くの席から爆笑が上がった。
パリピ冒険者のパーティーだ。
そうだった、と、改めて思い出す。
この世界ではドラゴンに食われるなんてのは、車にひかれるぐらいにメジャーな死因
いや、そもそも外れてても証明のしようがないんだよな。
地球においてはおそらくオレが人類初なんだろうけれどね。
ミルヤはしばらくジ〜っとパリピパーティーを見つめたあと、何やら意を決したような面持ちで、一団にズンズンと近づいていった。
「……あなたたち」
「何?」
リーダーだろうか、やたら目立つショッキングピンクのビキニアーマー……を、長袖長ズボンをきっちり着込んだ上から装着した女戦士が、半笑いでミルヤを睨み返す。
オレはケンカが始まる前にと、慌ててハトムギ茶をあおった。
ついさっき噴き散らかしておいていうのもナンだが、格闘の果てにテーブルにぶつかるとかでこぼされると厄介だ。
「あなたたち、冒険者よね。セレソ山のドラゴンを退治しにきたの?」
「そーだよ。明日の今ごろは、アタシらはこの村の英雄サ」
良かった。ミルヤは占いをバカにされて怒ってるわけじゃないみたいだ。
じゃあハトムギ茶はゆっくり味わって飲もう。
「この人、リューイっていうんだけど、ぼっちのくせにドラゴンに挑むつもりだって占いに出てるから、あなたたちのパーティーに入れてあげてくれない?」
オレは椅子ごとひっくり返って、グラスが宙に舞い、ハトムギ茶を頭から浴びてしまった。
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