第11話 測れあなたの心の距離!神業測定士ハカリマ!5
がれきが空中へと舞い上がった。
それは余波。激しい戦闘により、そして熱いラブラブっぷりに、空気が鳴動し破裂する残響。
そして戦い続ける、巻き尺を振るうハカリマ!
「滑稽ですな! 愛、友情、正義に義憤、そこに定量可能な数値はありますかな?
個々人の感情と観測でブレるものを支えにして、そんな先に安寧などありはしませんぞ!」
「そうかい」
桃色オーラの余韻がまたたいて、社交ダンスのように、バカップルは駆け抜けた。
「つまらないね。きみが語る未来予測は」
激戦。激戦。激戦!
縦横無尽に駆けめぐるバカップル、そのさなかにも二人はくっつき、キスをし、髪をなで、笑い合い、イチャイチャし、そうしながら自由自在に戦場を駆け回る、その軽快さはまさしく天にも昇る浮かれた恋心の具現。
その動きに対応しながら、ハカリマは巻き尺を振るう。測定する。
二人の距離感。ポーズ。視線の動き、脈拍、瞳孔の収縮具合、データを蓄積する。
どんな動きがどれほどの桃色オーラを生み、加速度と変わるか、測定し計算し対応していく。
対応していく……しきれない!?
「バカな! 行動と結果の相関性が安定しないですと!?」
桃色オーラが、巻きつこうとする巻き尺をはじき飛ばし。
コイチローは、静かに尋ねた。
「きみはさ。ハカリマ。
ドキドキしたことは、あるかい?」
桃色のラブラブ壁ドンアタックが迫り、ハカリマはかろうじて巻き尺で反らし回避した。
回避しながら、背筋は冷えた。
ツッコが救助活動をしながら、戦いを見て理解した。
「たとえばカップルが同じ距離感でくっついたとして、もしそれを何度も繰り返してたら、慣れてドキドキが薄れてしまう。
逆に愛のささやきを何度も何度も繰り返して、やがてその言葉に月日や思い出が積み重なることで、初めて聞くよりもときめいてしまうことがある!
ずっとくっついていたカップルがふと距離感を離してみたら、物足りなさを感じてかえって愛が燃え上がったり……!
そうか、そういうことか! 愛のときめきは、『同じことを繰り返しても同じときめきではありえない』!」
桃色オーラ一閃!
バカップルのイチャイチャ傍若無人タックルが、ハカリマの体をとらえた!
「ぬぅッ……!」
ハカリマは巻き尺で受け身を取り後退! 袖口のボタンが余波ではじけ飛び、筋張った手首があらわになった!
「くっ、攻め手を……新しい攻め口をつかまねばなりませんな……! しかし……!」
ハカリマは視線を飛ばす。巻き尺を伸ばす。
測定を。測ることで見つけられる
「壊せるものを探しているのかい?」
桃色オーラの上をフィギュアスケートのように滑り来たったコイチローが、ハカリマの背後から問いかけた。
「ないよ。もう壊され尽くした。
きみが壊したんだろう。きみが、この街を! 壊したんだろう!」
コイチローとアイリが向かい合い、同時にエビ反り!
俗に言うイナバウアーのスタイル、それが左右対称に配置されることで!
「あ、あれは! 二人のシルエットが、『ハート型』に!!」
愛のラブラブスケートハート光線が、ハカリマに襲いかかる!
「ぬうぅぅッ……!!」
ハカリマはこらえる。巻き尺を体に巻いて耐える。
膝をつく。まだ戦える。
そして、何か虫の予感がした。この場所は、なんだ。
「ハカリマ。きみの技は、測定は、すごいものだと僕は思う。
けれどきみはそれを、破壊の技術として使った」
バカップルは滑る。円を描く。
ハカリマの周囲、足元のがれきごと囲むように、広く、桃色に、円を描く。
この場所はなんだ。ハカリマは考える。
足元のこのがれきは、なんだった。
「愛の力はね。生み出すことができるんだ」
ツッコが、王国兵士であるツッコが、その場所に気づいた。
「あの場所は! かつて戦争時代の物見やぐらとして機能し、今は改装してこの街の観光名所となった場所!
戦いの遺物がラブアンドピースの象徴として生まれ変わり、カップルで飛び降りれば一生を添い遂げられるといわれる場所!
百メートルの高さをほこる展望台、『シーンデモイーワ展望台』!!」
コイチローはアイリを抱きしめ、アホ毛を絡めてハートマークにし、唱えた。
「街よ! 今こそ愛を取り戻せ! 愛の力で空をも削れ!」
バカップルの愛に、展望台の残骸が共鳴!
愛の力を取り戻したがれきたちは愛の万有引力により接合! 接合!
本来の姿へと生まれ変わり立ち上がりゆく、その愛の
「突き上げろ愛の
「ぐわあああァァーーッ!?」
急直立した愛の展望台に、ハカリマは突き上げられた!
ツッコが歓声を上げる!
「か、勝った!? コイチローとアイリが勝った!」
「……いや、まだだ!」
コイチローたちが見上げる先、ハカリマは空中へ投げ出されて舞った。
全身を打ちつけられ、血ヘドを吐き、伸びた巻き尺がひらひらとたなびきながら……ちらりと見えた目、そこに闘志は、まだ、ある!
「破壊の起点……ありました、なッ!」
巻き尺が屹立したばかりの展望台に巻きつく!
破壊的測定拘束により、展望台が根本から折り取られ、宙に持ち上げられ、そして振り下ろされる!
「潰れろッ! 我らが大義の妨害者めぇェーーッ!!」
迫る展望台ハンマーに、アイリはうろたえた。
「どどどどうしようどうしようコイチロー!? あんなの叩きつけられたら死んじゃうよ! ぺらぺらのぺっしゃんこ〜だよー!!」
「何をおびえてるんだいアイリ? 僕にはあれは、紙風船みたいに軽いものに見えるよ」
「えっそんな!? あんな大きくて太い展望台の塔が!?」
困惑するアイリのほおをコイチローは優しくなでて、甘い声でささやいた。
「だってアイリ、僕らは何よりも重いお互いの愛をかかえているんだから。
こんなに胸いっぱいの愛に押し潰されていて、今さら他のどんなものが重みになるっていうんだい?」
「コイチローっ♡♡♡ そうだよねっわたしたちの愛は何よりも重い! あんな展望台なんかよりも!
その愛に比べたらなんだってふわふわのぷーだよねっ!」
ひしっ。バカップルは抱き合った。
桃色オーラがあふれ、急拡大し、愛のラブラブ熱波が吹き荒れた。
ツッコは見上げ、つぶやいた。
「熱膨張……」
ラブラブ熱波にさらされた展望台が発熱! 膨張!
その急激な変化に耐えられず、崩壊!
熱エネルギーはバカップルに近い方から遠い方へ、下から上へと駆け上がり、塔の上端で爆発! 噴火! 天へと向けてラブラブエネルギー大噴火!
「ぐわあああァァーーッ!?」
噴火エネルギーがハカリマに、直撃!
ラブラブ大打撃!
――――――
・ラブバカ豆知識
俗に言うイナバウアーはエビ反りのポーズだと思われているが、本来は脚技のこと。
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