2章

第11話 特命は突然に

「うぇーい!タダノー!今日も昼から酒を煽ってるのかー?」


「うぇーい、ダーウィン、君こそ憲兵なのにエールに誘われて酒場の警備かい?」

お互いニカッと笑い合うと肩を組み声を上げる。

「今日もエールがうめぇ!」

と陽気でダメ人間ぶりを発揮する。

エールが注がれた木製のジョッキを力強くかち合わせ、景気よく乾杯する。


それを見てため息を吐く


「よぉー、サトルも飲みに来たのか、シトリーちゃん、猫用ミルクを頼むよ!」

「はーい!」

シトリーと呼ばれた給仕係の女性は猫を一撫ですると皿に猫の絵が描かれたミルクを注ぎテーブルに置く。


サトルと呼ばれた猫は、テーブルにタンと飛び上がりタダノの腕に顔を擦り付け、ミルクをちびちびと飲み始める。


「サトルは名前もだが、不思議な猫だよなー。テーブルに肉やら魚もあるのに手を出さねぇ。毛並みも良いし、気品を感じるんだよなー。」

ダーウィンは黒猫を撫でようと手を近付けるのだが、サトルの尻尾でペシッと叩き落される。

「サトルは賢いから、誰かさんみたいな税金泥棒は嫌いなんだよ!」

と空いていた椅子に飛び乗る少年。

「エータ、母さんが待ってるから、早く帰ろ?」

エータと呼ばれた少年の袖を引く少女。

「ミヤコ、大丈夫だよ、兵隊様が昼から出来上がってるんだ、少し位遅れたって」

「ダメだよ、待ってるよ?母さん。」

ミヤコが目を潤ませ今にも泣きそうになると、サトルが長い尻尾でミヤコの頬をなぞる様にあやし始める。

頬を紅潮させ喜ぶミヤコを尻目にエータはテーブルに突っぷす。

「ミヤコを困らせちゃダメだぞ?エータ?」

ダーウィンの照れ隠しのような粗雑な愛情、エータの頭をガシガシと強めに撫でるのだが、「痛いから止めろ!」と怒鳴られる始末。

心の弱いダーウィンは涙目になるのだが、おじさんを慰めるような物好きはそこにはいなかった。

「エータくんさ、平和なんだから高級取りの憲兵様が酒場にお金を落とすのはとても良いことなんだよ?」

それを聞いて鼻を鳴らすエータはミヤコの方を向き席を立つ。

「またね、ミヤコ、エータ!」とサトルの肉球、右手を掴み手を振る真似事をすると、エータは片手を上げ、ミヤコは嬉しそう頷いて帰路に着く。

「ちぇっ、タダノはズルいよなー。俺は嫌われ過ぎてて心が痛いぜ。」


「何言ってんだよ。逆になんとも思われてないから俺は愛想良くされてんのさ。」


「そうかー?」


「そうだよ。子供は素直でわかりやすいんだよ。って、そろそろ、か?儀式で宣託があるとかなんとか?」


「あ?あー、あの二人はもうすぐだな。宣託の儀式で、人生を左右するが決まる。」

それを聞きながら、遠くに見えるエータとミヤコを視界に入れつつ、エールで喉を潤す。


(ジョブねぇ。この国に伝わる儀式の調査とは、勇者様も面倒な事を調べさせるもんだなぁ。)

それを察してか黒猫も同意するように「にゃー。」と鳴くのだった。

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