第10話 勇者の帰還は突然に
あれから数日、個人的には格闘ゲームで遊ぶ日々を過ごし、どうしても型が決まった攻撃の組み立てから一部の技を警戒されるようになり、勝ち筋が限定されてきた感がある。
『タダノくん、その格闘家っぽいキャラクター好きなの?その子だけ使用率高いけど?』
そういう彼はサトル氏。筐体が現れてから急に現れた彼を何故か風音氏とレオハルド氏は受け入れている。
サトル氏はコロコロと顔が変わる不思議な体質なのだが、今は風音氏の2Pキャラ絵?であり、服や髪の色などダーク感を醸し出すのだが、不思議に愛嬌があるので嫌われていないと思う。
「失礼な、サトル氏。これはキャラを極める行程の一つでして、推しとは貫くものなのです。」
そう力説すると『ふーん。』と少しつまらなそうであったのだが、『その格闘家は崩しや直線的だけど出の早い打撃で後手になりながらも強威力のダメージ判定で押し返していくじゃない?』そう身振り手振りで説明が入るのだが、『例えば、この崩しの後で女性拳法家の身のこなしで背後を取って連撃で攻めるとか、プロレスラーの彼で渾身のドロップキックなり体当たりカマスとか、投げ技から寝技に持ち込むとかわからん殺しじゃないけどかなり驚異じゃない?』とルール無用な説明を始める。
それを受けて少し考えた俺は一言。
「出来るの?そんなの。」
『出来るよ?モーションデータは君の身体に宿るんだから。』
それは所謂革命である。確かにとある格闘ゲームにおいて、様々なキャラの技を間瀬湖是にしている玄人キャラが存在するが、それが出来たらとりあえず各キャラの強い技擦れば嫌がらせになる的なアレである。
とは言っても、痒いところに手が届くとは良いもので、誘いやら読み合いを更に楽しめるだろう。
そんな事を考えていると風音氏とサトル氏の手合わせが始まる。
サトル氏は距離を取りつつ、軸足を切り替えジリジリと近付く。
風音氏はスピードのある突きの構えから様子を見る。
風音氏の木剣の範囲をぎりぎり掠る間合いから二人が動く。
サトル氏の頭部を狙う鋭い突きが繰り出されると間合いを見切るサトル氏は木剣の戻りに合わせ、打撃の間合いに潜り込む。
サトル氏の横腹を狙う打撃を風音氏は木剣の柄で合わせる。打撃と打撃による衝突により、改めて間合いが生まれ風音氏の横薙による太刀がサトル氏の肩口を狙う。
その時、サトル氏の右手から墨のような線が生まれ、黒い剣が自身を狙う太刀を受け止める。
「えー!何それ!カッコいい!ズルい!」
と風音氏の気の抜けた声が響く。
「まだ途中ですよ。気を抜きませぬように!」とレオハルド氏の警告が入るが、サトル氏の持つ剣が形を変え風音氏の身体に巻き付こうと蠢く。
「サトル氏、それは流石に、やり過ぎでは?」
自身で考えた進化?なのだろうか。墨の剣が無作為に風音氏を襲うも、墨の色が薄い部分を木剣で切り裂かれ風音氏が喉元を捉え勝負が決まる。
『うーん、可能性を示して見たんだけど、詰めが甘かったみたい。』
「でも、それカッコイイ!どうやるの!?」と同じ顔の二人はまるで師弟のように自身の輝く可能性に夢を見ている。そんな雰囲気であった。
「タダノくん、凄いね!あれって君の能力かい?」
そんな爽やかな声で話しかけてきた勇者は旅の疲れを感じさせず、少し逞しさを備えた表情は、何やら頬が赤い?
「おかえり、火狩氏。あれは俺の能力というかなんというか、サトル氏です!」
「うーん、よくわからないけど、頼もしい仲間が増えたって事だね!」
屈託のないその笑顔はまさに光の勇者そのものと思わせる。
のだが、
「タダノくん!あ、あんまり僕を見つめないでくれたまえ!」
と世界の勇者が狼狽えていることに俺も狼狽えてしまうのだった。
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