第4話 レベルアップは突然に
「え?ヒ、ヒカリくん、いないんですか?え?討伐遠征?魔物退治ですか、、、。」
あれから数日たった。ヒカリくんの魔力で無理のない体捌きを学習(力をいれず、なすがまま)にも慣れきった我儘さがまだまだ残る我がボディ。
ヒカリくんの全自動アシストなしで目の前にいるレオハルド氏の訓練。
もう絶望しかない。
「タダノさん、さぁ木剣を手に取って撃ち込んで来て下さい!さぁ!さぁ!さぁ!」
なんというやる気か。
恐らくは全自動アシストによる奇跡の一本、その記憶が彼の心を蝕んでいると考えられる。
今日の朝食はほっとする美味しいものだった。
だし巻き玉子と味付け海苔、お新香がご飯を華麗にバックアップして、白髪葱をふんだんに使用した味噌汁が淡い余韻を塩分でバシッと締めてくれる。
この城の料理長、個人的に日本食マスターである。
欲を言うなら納豆なのだが、この世界の人でも好き嫌いが激しい。基本は辛子がないと無理という方が多い。
確言う私もそうなのだが。
「おい、おじさん。」
納豆には卵と葱と思うのだが、卵と分けるべき派とは舌戦を繰り広げた事が記憶に新しい。
「ぼーっとしてんなよ。お、じ、さ、ん!」
「おじさん違うわ!納豆を愛する紳士的お兄さんだわ!」
声の主を見ると十代前半かな?という見た目の少年?いや、少女?短髪で綺麗に刈り揃えた前髪を弄りながら、日焼けしたその顔は俺をジト目で下に見ている。気がする。
「食べたばかりなのにもう食事を考えてるから、ジャージから腹がはみ出てるんだよ!」
とお茶目したツッコミのつもりだった俺に突き刺さる言葉の暴力。
ヒキニートから抜け出す精神には程遠いというか、今の大ダメージで更に引き篭もり根性再燃なのである。
「レオハルドさんと模擬戦したいからどいてくんない?ヒカリさんいないから、あんたすぐその辺転がるでしょ?」
一言多過ぎて俺は意識を失いかけるが、なんとか踏み留まり二人から離れる。
「風音(かぜのね)さん、今日は君からかい?さぁ、打ち込んでおいで!」
「ふん、昨日のようにはいかないよ!」
その言葉が耳に入ると二人が激しい打ち合いが始まった。
「タダノ殿、酷い謂れ用でしたな。わははは!」
と近くに佇むデューク氏からお声がかかる。
「あ、あの。ご存知なので?」
二人の打ち合いは更に激しさを増している。
「ええ。というかヒカリ殿が先日お連れになった方ではないですか。あー、タダノ殿はヒカリ殿の訓練後、その辺で体力回復の為か気を失われるのでしたな。」
このダンディ騎士も一言が多いのである。
気持ち「むっ」とすると「失礼、失礼。」と笑顔で返してくるので、陽の力に已む無く屈する俺。
「あの方は、風音響(かぜのねひびき)殿です。成長という能力をお持ちだとか?」
顎に手を当てダンディな笑顔を見せるデューク氏。
すると打ち合いをしていたカゼノネ氏から声が上がる。
「キタキター!レベルアップ!」
その直後から受け手として徹していたレオハルド氏から余裕が消えた。
気がする。わかんないけど。
「おお、もしかして、俺もその内レベルアップしたり?」
「いえ、タダノ殿はしませんぞ?レベルアップ。」
と絶望を賜る、小鳥囀る晴天の午前でした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます