slot 5 NOW LOADING②
《……ロードが完了しました。》
「……うぅ?」
やけに長い夢を見ていた気がする。それも悪夢。しかも、兄の。
「……おぇ、クソヒキコモリの夢みてたんだけど私」
やだ、やだ。なんだって私があのヒキコモリの夢見なきゃなんないの。
あっちが謝らないから、悪いんじゃない。
「……はぁ」
時刻は丑三つ時。
こんな時間に起きてしまうなんて、クソヒキコモリじゃないんだから。
でも、起きてしまったものは仕方ない。
リビングにでも行って、夜食でも食べなきゃやってらんない。
ひとまず一階に降りる。
「え?……電気ついてる?」
リビングにつくと、人影が二つ。
父親と母親だ。
「……あら?朝食には早くない?」
「な、んだ、なんだ、ナルも、よっ、食いにきたかカップ麺シーフード!」
母親はもう食べた後なのか、ソファに座って愛用の焼酎を嗜みながら本を読んでおり。
父親は何かと待ってられない性格なので、カップ麺が出来上がる3分間を筋トレで時間をつぶしていた。
「ま。そんなとこ、チリトマトある?」
「母さんが食べちまったよ」
「ママ!あれ私のだったのに……」
「我が娘、思ひも入れず。敢へ無し」
「それ、なに?ムカつくんだけど」
私はカップ麺がないことを知ると、近くにあったインスタントのあさりの味噌汁を手に取る。
「これだから私の親はぁ……」
「ため息はいかん、運動後、タンパク質を摂って汗を育みストレスを無くすといい。
タンパク質は偉大だ」
「はいはい。毎度のことで」
「なー、母さーん!娘が冷たーい」
「ぶりっこやめな、気色悪い」
母がマジのトーンで父に言った。表情は見えなかったが、至って真顔だろうと考察する。
「……ごめんなさい。自重します」
……謝れてえらい。
けど、その謝罪に合ってないキモイテヘペロを私に見せるな。
背筋が凍る。
「それで、二人はなんで起きてんの?」
あさりの味噌汁を作りながら、私は気になったことを口にした。
珍しいのだ。両親がこぞって深夜にリビングにいることが。
「私たち、そろって怖い夢を見たの。もう朧気なものだけど」
「うむ……たいていの怖いことを経験した母さんが怖いと言う夢だ。母さん親衛隊の僕としては寝てもたってもいられない。
だからこうして、今も眠れるまで傍にいる約束をした」
「あら?貴方が提案しなかったっけ?」
「なんのことかな?父の威厳なんて僕は気にしてないよ、全然」
見栄っ張りの私の父のことだ。母に泣きつきでもして一緒にいてと懇願したのだろう。
それと、仕事で忙しい自分へのご褒美に妻とイチャイチャしたかったに違いない。
いつも冷静沈着だが、家族のことになると情にあつくなる私の母のことだ。
父に頼まれてこのままじゃ夫が心配だと、もう眠れるけど起きているに違いない。
「できた!ナル、母さん、一緒に食べないか、よし食べようね」
「もうお腹いっぱいなのだけど……しかたないわね」
「……そんなこと言って、私の分なかったら許さないよ」
「なぁこたぁない。現に僕は既にプロテインを飲んだせいで腹いっぱいなのだ」
母と一緒に呆れる。なら、食うなよ。
私のカップ麺返せ。
✕
結局、私が大半食べた。その間、父は母にべったりとくっつき、あーんをしていた。
子供の身にもなってほしい。いい年齢なのに、勘弁して。
せめて、私のいないところでして。私の尊敬する両親像が崩れる。
「貴方、白髪が見えてる。しっかり染めないと」
「だから、白髪じゃない。これは地毛だよ、地毛」
「……若白髪」
ボソリと言ってやった。
「なにかなー?ナル?お父さんにもう一回寸分たがわず今言ったこと言ってごらん。ほらどうぞーこのやろー」
「なんで、染めてんの。白髪でもかっこいいのに」
「かっこいい……!聞いたか、母さん。ナルが僕を褒めて……って白髪じゃないから、これ地毛だって!」
父がうるさい。あと、絶対地毛じゃない。
「お母さんが若々しいからって、合わせなくてもいいんだよお父さん」
すごく優しく言ってやった。お父さんは今にも抑えられない感情が発露しそうだ。
いや、これみよがしに母に抱きついた。
だから、ぶりっ子気持ち悪いんだよ。
……でもこんなんでも、社会では優秀な部類なんだよね私の父親。
3年間年中無休で眠らず働き続け、労基侵害?で会社の信用を奪い倒産させ。
けど、さすがに3年間はきつかったのか、代償に3日間母にめっちゃ抱きついたまま離れなかったらしい。
私が運動会で親と一緒に競技に臨んだ際。圧倒的一位となってしまい。
それが3年間続いたことにより、出禁になった。
しかも、早朝から運動会の前準備も先生方と共同でやり。
なおかつ、他の親御さんたちの運動会休憩用のテント、1年生から6年生の分全てを手伝っていたらしい。
それも、6年間ずっと。会社に務めながら。
で、会社に勤めているのにも関わらず。塾の講師もやっている。
いわゆる、体力オバケ。
最近はパソコンを使って塾にこれない子にも教えていた。
教え方はとても上手いそうで、大学の教授をしてくれないかと国立大学?の人事って言うんだっけ、そんな人からスカウトされていたらしい。
父はこのとき、これ以上家族との時間を奪われたくないもので。と言い断ったそう。
まだまだ、父の話しはあるが。ここまでにしとおこう。
今のイチャイチャしている父とのギャップで風邪ひきそうだから。
「……ナルも来ていいのよ」
父の髭がある頬をすりすりされながら、満更でもなさそうに微笑む母。
私にもやってきてほしいのか、どこかソワソワしている。
いや、この年齢で親に抱きつくとか。
……ないない。
こういうのは、信頼関係が大事なのだ。
ましてや、私は年頃。
母親の胸に抱かれるほど、無駄に反抗期をやっているつもりはない。
懐柔されるのはまだ早い。
私の周りや世界の人たちのように。
毒舌なのに、妙に確信をつき、決して相談した人を見放さないところに惹かれたと、ある担任は言っていた。
翻訳家、兼、小説家でもある私の母は人と分け隔てなく交流できる。
担任の先生談だけど、これが一番難しいらしい。
そして、それぞれの人に合った話題作り、振りへの研究は欠かさない。
いつの時代、どこの国の人でも詰まることなく話せるように頑張っている。
この頑張りのせいで、中学のALTと仲良くなりすぎて求婚されたらしいことは聞いてる。
特に大人の人と仲良くなれるらしく。
確かお茶会なんか開いて、ママ友間で今日は誰が母と話すか綿密に計画されていた。
結果、諍いも生じず。
母が気に入らない人も骨抜きになって返ってきており、母とのツーショット写真をSNSにあげられていたそうな。
国の重鎮とも接したことがあるらしく。どこのお偉いさんか知らないけど、母との駆け落ち覚悟で近づいてきた人がいたとも聞いた。
おそろしい。計算され尽くした絶世の人たらしだ。
あと、生まれてこの方大怪我をしたことも病気にもかかったことがないとのこと。
そんなスペックがつよつよの二人。
容姿も中々によい。
その二人の子どもである私が半年間で37回告白されたから、まぁ納得であると言えるほど。
中身は……ごく普通の女子ですが。
父は純正の日本人の癖に白人のような白い肌をしており、顔はイギリス人みたいだ。
母はクォーターで薄い金髪で茶髪、顔はフランス人形のようだ。
天は二物も与える。傍から見たら、完璧究極の夫婦である。
その二人から生まれた私と兄。
両親がコンプレックスになることは明白だった。
今ではこんなだが、当時は両親も私たちを厳しくしつけていた。
人付き合いが苦手でよく喧嘩して、見栄を張ってよく風邪をひいたのが私。
人とちょうどよく関わり、ときには人をたて、料理や運動、勉学とそつ無くこなしたのが兄。
両親よりも距離が近かったせいか、兄と私の……。
私の一方的な兄に対する衝突は頻繁に起こった。
その度兄は、私を遠ざけることはなく。
決して非難することもなく、私に寄り添った。
だから、憧れた。父も母も兄に期待した。
……しすぎた。
だから、兄は理想に押しつぶされた。父と母の期待を私の分まで抱えたせいで。
壊れてしまった。
「はぁ……私もう寝るよ」
「そう、おやすみなさい」
母たちに告げて、二階に行く。自室に行く途中兄の部屋を目にする。
薄く開いているドア。いつもは閉めっきりなのに今日だけ異様だ。
つい、ドアノブに手をかけそうになる。今なら話せるんじゃないかって
「──?」
直後、首に蚊でも止まっているような違和感が生じた。
思わず首へ手をかざす。
なんとも──ない?
おかしい──私は──
……なにかひっかかる。
それとともに、ドアノブに近づいた手が震えはじめた。
嫌な予感。
このドアに入ってしまえば生きて戻れないような、そんな感じ。
怖い夢を見たせいだ。
夢の内容と、どこがとかは分からないが似ている。
記憶はないが、心が恐怖を覚えている。
だって──この部屋に入った私はきっと……
そこで恐怖に背を向けた。
おとなしく、自室で眠りにつくことを決心した。
自室のドアを開き、ベッドに目を向けとぼとぼと向かう。
布団に手をかけ、横になろうとする。
だが、硬いなにかが布団の上にあった。
暗いのでよく見えない。
やけに……大きなものだ。
妙にがっしりしている。
暖かい、関節がある。
鍛え抜かれた体だ。
骨も強靭そう。
目が会う。
一歩、後ろに下がる。
一歩、一歩、徐々に速く後退していく。
そうして漸く照明のスイッチまでたどり着いた。
スイッチを入れる。
よく見る。ベッドには見知らぬ男性が腰をかけている。
「……すぅ。ぎゃああああ!!」
怖すぎて腰が抜ける。
触ったときからおかしかった、だって呼吸音聞こえたもん。
絶対生きてるなにか居るって分かったから。
それが、本当だったなんてオチ。
誰であっても心臓止まる!
「……ごほん。やあ!」
「いやいや、なに普通に挨拶してんの?おかしいんじゃない?アナタ」
「おかしいのは君のほうだ。入ってくるなり、オレの体をペタペタと。
もしかして、誘われてた?」
見当違い。
掴みどころがない。
なにより、揺るがない平常心。こちらが絶叫している間も表情を崩さなかった。
これほどおかしな人物と会うのは初めてだ。
そもそも、ここで知らない人と会うこと自体がおかしい。
「不法侵入ですか!警察に通報しますよ、いや、します!」
急いでポッケに閉まっていたスマホを取り出す。
……取り出せない。というか、スマホがそもそもない。
「……あっ、これ?」
「いつの間に!」
スマホが盗まれていた。あの一瞬に盗られたのか、では強盗だ。
絶対。
スマホがないなら、ここから出て駆け込むまで。下には両親もいる。
すぐさまドアから出ていこうとして、して、し……て。
……ドアが開かなかった。
「あっ……これ?」
「カードキー?」
内側からの鍵穴がなくなっている。そのかわり、庶民の家に似つかわしくないパスワード式の鍵がかかっていた。
改造?なんで、さっきまでこんなのなかった。
「そろそろ、話しをしてもいいかな?」
「嫌です。アナタからは嫌な気配がします」
まあ、不法侵入したらそうなる。
ましてや、強盗で閉じ込められたのだ。
警戒しないわけはない。
こんなときのために護身術学んどいてよかった。
いや、習わされたか。不審者との心構えとかも。
とにかく、冷静になれ。
──私!
「じゃ、言い方を変えよう」
男は私の首元を指さすと、そのまま横にスライドした。
「君ら家族、このままなら仲良くお陀仏だよ」
半笑いでそんな信じられないよく分からないことを言われた。
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