第23話

 こそこそ学校に行く。

 さすがに昨日は塾を休んだ。

 学校の前にはもう人はいない。

 野次馬は河原で歌ってた超絶美少女タレントを探しに。

 プロはプロダクション所属と弁護士の力で。

 とにかく散ってしまった。

 三日天下もいいところである。

 その代わりに……。


「いやあ……相変らずお美しい……」


「まったくお変わりありませんね」


 教室に入ると担任が思いっきりテレビをつけていた。

 どうりでおっさんの声だと思ったわ。

 遠くから親父を撮影した映像が流れている。

 テロップは「伝説のアイドル復活か!?」


「せ、せんせー!」


「あ、ああ、すまん。先生、昔ファンでなあ」


 おい担任。

 お前三者面談で……あ、そうか、この間のしか知らんのか。

 普段短髪で死んだ魚の目で目の下にクマだしな。

 撮影の時はメイクしてクマ消してたっぽいが。

 それがリアルな20年後の姿に見えるらしい。

 生活に疲れた感よ。


「あの失踪事件から十数年なにがあったんでしょうね?」


「事務所とのトラブル説や妊娠説などがありますが真偽は不明です」


 いや普通に就職しただけだが。

 事務所には半年以上前から伝えてたっていう話だが。

 またテレビの解説者の声が聞こえる。


「いままで何をされていたんでしょうね?」


「さあ、誰にもわかりません」


 観光協会に出向する前提で信金に入って、そのまま協会に転籍したって言ってたが。

 地元議員の後援会で手伝いしまくってる爺ちゃんの権力しゅごい……。

 まー、就職するのに髪の毛スキンヘッド近くまで刈ったらしいけど。

 酸欠で人相が変わりすぎたせいか、爺ちゃんが申し訳ないことをしたって勝手に萎縮してあまり会いに来ないらしいけど。

 人相変わりすぎて把握できなかっただけじゃ……。

 するとスマホを見てたやつが大きな声を上げる。


「うひょー! おい、この娘かわいくね!!!」


 屋形船の動画か。

 ほぼ毎日見てる顔なんだが。


「やだー! 蘭童くんもかわいいけど、この娘すごくかわいいー!」


 本人ですが!

 ……待てよ。

 もしかして同一人物だと思われてない?

 俺は席に着く。

 オーケーオーケー。

 バレてない。


「にしてもこのピンク髪……」


 男子の一人が俺を見た。

 俺は三つ編みを持ち上げる。

 毛が細くて邪魔くせえから学校では三つ編みにしてるのだ。


「違うな。賢太郎と違って色が派手だしな」


 すまんな。

 三つ編みほどくと少し色が変わるんだわ。

 たぶん光の反射とかそんな感じだろう。

 そう思いたい。

 こりゃバレるの時間の問題かな。

 そう、ロリ系VTuber事務所所属のロリ系アイドル菅原晶ちゃん(出身地、千代田区から埼玉県に変更)だとは感づかれてないはずだ。

 ……つうか属性盛りすだろが!!!

 歯ぎしりしているとまた男子二人がバカ話をする。


「お前、少し前まで晶ちゃんかわいいって言ってただろが!」


「うるせえ! どっちもかわいいだろが! く、どうして同じ時代に二人も……いや蘭童入れて三人も才能あるやつがいるなんて」


 三人は同一人物、俺である。

 ていうかお前、俺のこと好きすぎだろ。


「そうだよ! それに比べて私たちは……」


「いや、別に今すぐ何者になろうとせんでも……」


 思わず突っ込んでしまうとクラスがお通夜状態に。


「蘭童はいいよな……キャラ立ってるし……頭も顔もいいし……」


「うちらは頭いいか運動できるかしないと人格否定されるし……」


「高校受からなかったらどうしよう……」


 さすが受験生である。

 かなり精神状態が悪い。

 するとクラスの地味系女子が俺を見つめる。


「なんだ清水?」


 清水小春。

 眼鏡に困り眉。

 眼鏡の名にかけて学年三位という学力。

 性格は陰キャで口下手。

 小鳥のようなか細い声でボソボソ話す。

 やたらフレンドリーな連中ばかりのこのクラスでも少し浮いた存在だ。


「……なん……でもない」


「お、おう、悪かったな」


 あまり会話が成立しないので俺も得意ではない子だ。


「ふふ……視線に……気づいて……くれた」


「なんか言ったか?」


 ふるふると顔を振った。

 よくわからん。

 で、放課後。

 いつものように真田と……と思ったら風紀委員の会議だって。

 俺は一人で帰る。

 もうマスコミもおもしろ半分の連中もいない。

 完全に河川敷の新人タレントを追いかけるので忙しいわけだ。

 まあ中身は俺なのだが。

 しばらく歩くと視線を感じる。

 後ろを振り返ると清水がいた。


「おっす清水」


 コクンとうなずいた。

 嫌われてはなさそうである。


「ついでだし一緒に帰るか?」


 コクン。

 俺の家は駅近く。学校からは20分くらい。

 学校が受け持つ区域から一番遠い場所だ。

 その点、清水の家は歩いて10分。

 俺が少し遠回りすれば送っていける。

 女の子を一人にするのはよくないだろう。

 送っていくか。

 二人で歩いて行く。


「そんでさー、俺の髪の毛こんな色だろ。切れって教師がうるさくてさあ。そんな妥協案の三つ編みってわけよ」


 コクン。

 反応が薄い。

 ウホ、俺カナシイ。

 しかたない。

 受験生にありがちな会話をするか。


「清水はどこの高校志望?」


「……近い……ところ」


「近いところか……そうかー!」


 近いところだけでも三つくらいあります!!!

 助けて! 会話の神様!!!


「あ、そうそう。騒がせて悪かったな。なんかの勘違いで学校に人が押し寄せたみたいでさ。あははははは!」


「……勘違い……じゃない」


「え? 勘違いじゃないって」


 清水はふるふると首を振った。

 そのまま下を向く。

 会話テーブルこれにて消滅!!!

 いつものマシンガントークはどうした俺!!!

 結局、会話をせずに清水の家に到着。

 築年数それなりの小さなマンションだ。

 そのまま別れる。

 さーて、遠回りしたけどさっさと帰るベ。

 と背中を見ながら伸びをしたところ、清水が振り返った。


「……今日は……楽しかった……また……帰ろ?」


「お、おう! またな!」


「……私だけしか……気づいてない……」


「うん? なんだ?」


「……なんでも……ない」


 そのまま帰る。

 なんか今日はおかしな日だ。

 家に帰ると紫苑が待っていた。


「あのね、あのね、けんちゃん! オリジナル曲の製作が決まったよ!!!」


「はい?」


 はやくね?

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