第22話

 屋形船の撮影に出発。

 例のごとく観光協会の案件なので親父に送ってもらう。

 さていつものザウルス着ぐるみを……と思ったら河原の桟橋に止めた屋形船でマネちゃんが待っていた。


「あー、ここでザウルスになれと」


 部屋に通される。親父は打ち合わせで別の部屋に。

 着ぐるみの中は蒸れるからなあなるべく薄い格好で……。


「紫苑悪い着替えるわ」


「じゃあ一緒に」


「殴るよ」


 紫苑とマネちゃんを追い出す。

 ふすま閉めたし、よーしパンイチになって……。

 着替えようとするとスパーンと屋形船のふすまが開いて若い女性に止められる。


「それ以上はいけない」


 え? なに?


「先輩! 聞いてた以上じゃないですか! この顔で男の子ぉ!?」


「でしょでしょ。案件が来るのもわかるでしょ」


 マネちゃんもいた。

 マネちゃんの後輩!?


「えっと……」


「晶ちゃん。こちらはメイクの小林さん」


「え……メイク?」


「晶ちゃんを美しくしてくれるお姉さんですよ」


「いや俺をメイクするとアメリカのジュニアミスコンみたいな気持ち悪い感じの出来に……」


 紫苑にメイクされたら残念な感じになったのである。

 こう写真撮ったら逮捕されそうな感じに。

 もうやらね。


「それは無理に大人にしようとしたからですね。晶ちゃんの場合、普段が過剰に幼いので年齢相応の感じにすれば最大武力になるかと」


「お、おう」


 そのまま化粧を施される。

 やだかわいい……と自分の顔を見て言い出したら殺してください。

 と言いたくなるような美少女がそこにいた。

 年齢相応になってる!


「で、これが衣装です」


 和服。

 派手な柄なのは外で撮影するせいか。


「き、着方がわからねえ……」


 さすがにわかる人いねえと思う。


「着付けできますので、はい脱いで」


 脱がされ着付け。

 ほとんど鎧ですな。

 髪もセッティング。


「本当に地毛なんですねえ」


「先祖がシベリアあたりの出身らしく……」


「ちょっとあの辺の人とは髪質が違うようですね」


 髪だけでわかるんかい!


「三代日本人ですので~」


「なるほど」


 で、最後に冠につけた透けた布が顔にかかる感じにセッティング。

 呪術師的な感じ?

 陰陽師とか?


「これで大丈夫ですね。はーい入っていいよ」


「うわー、けんちゃんキレイ!!!」


 紫苑が大喜びする。

 なお同じ格好である。

 紫苑……元気いっぱいの美少女じゃん。


「紫苑もキレイだな」


 ふふっと笑う。

 なぜ俺が大人しいか。

 衣装が苦しいからだ。


「で、マネちゃんなにすればいいの?」


「あ、今日は実験を兼ねてますので屋形船で歌ってください」


「はい?」


 有名アニメの歌詞カードを渡される。


「場所も近所に迷惑にならない場所ですし。伴奏なしでお願いします」


「えーと……どういうこと?」


「エカちゃんと歌唱ユニットを組んでもらいます」


「えーっといつ決まったの?」


「この間の騒ぎから問い合わせが殺到してるんです!」


「VTuberなのに貫通していいんかい!」


 するとがっしり肩をつかまれる。


「あんたらの顔なら大丈夫です。二人ともね、自覚が薄すぎるんですよ。二人とも異常なほど顔がいいんですから!」


「いやでも貫通は……」


「だからその布です!」


「見えるんじゃ……」


「ハッキリ見えないようにしました……が、話題になるかと」


 もうこうなったらヤケである。

 歌うぞー!!!

 桟橋から少し移動して収録スタート。

 カメラマンに撮影されながら屋形船で歌う。

 周りで紫苑がダンスする。

 待って、紫苑は何日も前から知ってたんじゃ……。

 いや紫苑のことだ。

 俺のいまの状況に助け船を出してくれたのだろう。

 さすが幼馴染みだぜ!

 なので俺は全力で歌う。


「さ、さすが! 音響兵器!」


 マネちゃんひどい。

 小林さんはなぜかケミカルライトを両手に持って踊っている。

 慣れた動きだ。

 さぞ名の知れたドルオタに違いない。

 しばらく歌うと撮影していた河原に人が集まってきた。


「おいすげえ! なんかの撮影か!?」


「すげえ美少女」


「踊ってる子もかわいいー!」


 観光協会のスタッフ腕章をつけた親父たちがギャラリーを誘導していた。

 なぜか親父は黒髪ロングのかつらを被っていた。


「あれ……ちょっとあの人。20年くらい前にアイドルやってた人じゃ……」


「ああ! あの伝説の!? いきなり引退して行方不明になったっていう……」


「嘘だろ! 20年前から全然変わってねえ……」


 ぶッ!

 ふきそうになったがなんとか堪えた。

 これ親父を見たギャラリーの感想だぞ!

 なんだよ伝説のアイドルって。


「メイド喫茶からアイドルデビュー、だがわずか一年で引退したという……」


 ぶッ!!!

 完全に一致!!!

 お、親父! アイドルなんてやってたのか!!!

 あいつなにやってんだよ!!!

 歌い終わった。

 俺の目はかっ開いていた。

 待て待て待て、聞いてない。

 終わって中に戻ると親父も乗り込んで来た。


「すまない賢太郎。いつか言おうと思ってたんだが……就職氷河期で就職できずに性別を偽ってメイド喫茶で働いていたことは知ってるな」


「時代背景が生々しいのやめて」


「そのときアイドルとしてデビューの話があってな。働いていたメイド喫茶からどうしてもって言われて社畜の父さんは断れずに……」


「なにやってんのアンタ!!!」


「幸い一年後……母さんと入籍してな、母さんの実家から観光協会への就職を紹介されて……」


「もうやめてー!!!」


 もう俺の正気度はゼロよー!!!

 そして次の日……。


『伝説のアイドルの娘がデビューか!? その背景に迫る!!!』


『スターライトから実写アイドルデビューか!? あの伝説のアイドルの娘との情報も!!!』


「けんちゃん、強く生きて」


 紫苑……そういう慰めいらないから。

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