第17話

 ジャンプ。


「あ、あれ……イ○ンにいますわ!」


「いい。晶ちゃん。なにもなかったの。おわかりですわね? なんとかパークまで行ったのに使用できる素材を撮れなかった……じゃないの」


 ふるふると紫苑が首を横にふった。

 うん……なにもなかったね。

 地産マ○シェとあまり変わらなかったね。

 いま俺たちは道の駅などをまわりボツの山を積み上げて意味もなくイ○ンをうろついていた。

 なお、よく特撮番組の撮影やってるあの施設は別の回らしい。

 俺たちは普通の格好に仮装用のマスクといった出で立ちである。ひどい絵面だ。


「グルメリポートで入ったお店が豊洲市場から仕入れたこだわりの料理なのに醤油が西○のプライベートブランドをパッケージのままで使っていたからカットとかシラナイ。う、頭が! 頭が痛いですわ!」


 魔界都市埼玉あるある。

 産地直送の厳選素材のはずなのにプライベートブランドの調味料使ってるので最終的に味が普通に落ち着く。

 いやプライベートブランドは悪くないんだけどさ。


「いい、晶ちゃん。イ○ンにはすべてがあるのですわ。都内の味。都内のチェーン店。映画館にカ○ディと久○福、そして数多の名前を聞いても覚えられないアパレルが!」


「お姉様! アパレルが頭から抜けていくのは末期症状ですわー!」


「晶ちゃん……もう……し○むらがあればいいのです。そう思いませんか?」


「お姉様、この間ワー○マンの宇宙柄の防水ジャケット着てましたよね?」


「あれ……お気に入りですの」


「正直すまんかったですわ、お姉様。あ、お姉様のお好きなプロレスラーのフィギュアがありますわ!」


 ガチャガチャのコーナー前である。


「筋肉って本当にいいものですわね」


「お姉様、美形好きなのに筋肉もお好きですわね?」


「晶ちゃん……美少年と筋肉は別腹でしてよ」


「深く追求するのはやめますわ」


 と後半はさらにグッダグダ。

 はっきり言おう。

 なぜに地元でロケをした?


「次は……足立市場の解放日に海鮮丼でも食べましょうか、お姉様?」


 と口にした瞬間、すッぱーんっと紙で頭を叩かれる。

 え? と思って振り返ると丸めた雑誌を持って仁王立ちする親父が。


「ジーク埼玉!!!」


「さいたまー!!!」


 埼玉ポーズ。

 そう、映ってしまったのだ。

 背広姿の美ロリ(40代既婚中年男性)の姿が。

 最近冷え性で腹巻きが手放せなくなったおっさんが!

 缶チューハイ片手に野球中継見てるおっさんが!!!

「おれ老眼始まったかも」とうるさいおっさんが!!!

 お笑い芸人見てケツかきながらゲラゲラ笑ってるおっさんが!!!


 そう、編集で消してもらえばよかった。

 ひとこと言えばよかっただけなのだ。

 だがその一言を忘れてしまったのだ。


 ……配信で思いっきり映ってたよ。

 ぜったいわざとだよね。

 俺シラネ。


 次の日。


「けんちゃん! 凄い数のコメントだよ!!!」


 紫苑にたたき起こされてスマホを見る。

 生配信でもないのに恐ろしいPVになっていた。


『誰このかわいい子?』

『新たなロリ登場!!!』

『ロリのおつかい助かる』


 いつもの面々だけだと思うだろ?

 外国語でも異常な数のコメントが書込まれてた。


「……うそだろ。あんな汚いおっさんがこんなにウケるなんて!」


「けんちゃん……現実を直視して。せっかくだから言うね。普通の40代男性はロリの姿してない」


「俺が15年間必死に目をそらし続けたことを言うか……おまえが言うのか!」


「けんちゃんだって! そんなピンク髪の男子中学生なんていないよー! ニキビ一つないキレイな肌でいい匂いのする男子なんていないんだよー!」


「違うもん……身長180センチになるもん。筋トレの効果が出て腹筋が割れて髭が生えて胸毛生えるもん。髭生やしてアメリカ海兵隊みたいな髪型にするんだもん!」


「幼児退行した!」


 もはや現実を見ぬためだったら手段は選ばぬ!


「けんちゃん、現実を見て。あなたの一族は人類を超越してるの。おじさんがよく言ってる宇宙人説。信じられないけど本当なんでしょ」


「ぷぷーッ! 宇宙人なんて信じてるやんの! いるわけねえじゃん!」


 さすがにそれだけはない。


「けんちゃん、なんでそこまで頑ななの?」


「俺は科学で解明されてるものしか信じない。お化けも妖怪も宇宙人も存在しない」


 すると紫苑は「ふっ」と笑った。

 あ、負けた。

 いま俺負けた。


「宇宙人説は根拠出せないからいいけどさあ、おじさんの造形が美しいのはわかるでしょ?」


「わかるけどさー。自分の父親が若いころアキバのメイド喫茶でメイドさんとして働いていたことを知ったときの息子の気持ちを答えよ。|(20点)」


「殴りながらスポーツ強要する親よりマシさ?」


「やめてそういう生々しいの。とにかく俺は、親父が、人気者になるのを認めな……い。って冷静に考えたら特に被害はないな」


 たいへんうざいだけである。

 俺は着替えて学校へ。

 紫苑が持ってきたパンで朝食終了。


「うん考えるのやめよう」


 と思うじゃん。

 学校に行くと小学校から同じだった連中がスマホを持って俺に見せてくる。


「なあ、おじさんが映って……」


「知らないロリですな!」


 すると女子たちがやってくる。


「ちょっと男子ぃ~! 女の子いじめてんなよ~!」


「いや俺は男……」


 すると女子の一人が俺に詰め寄る。


「ニキビの一つもないいい匂いがする美ロリが男子のはずないの」


「いや男だから」


「女子よりかわいい男なんているはずないから!」


 げ、現実を見ようとしない。

 俺は……女子たちの性癖を曲げてしまったのか?

 だがそのせいで親父という俺を特定するターゲットが外れている。


「賢太郎くんは、そのままでいて」


「ううん?」


「もし賢太郎くんが就職できなくてもわたしが養うから!」


 うううううううん?

 待てよ……親父が言ってたのってこれか?

 ストーカーバトルが起こったのってこれか?

 俺、いまヤバいんじゃね?

 急に自覚したせいでぶるっと震えた。

 どうしよう?

 紫苑に相談しても解決しないだろ?

 母親に相談したら美ロリ育成計画になるだろ?

 父親はゲラゲラ笑われてムカつくから除外。

 マネちゃんは……そうだマネちゃんだ!

 マネちゃんに相談してみよう!

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