第18話

 マネちゃんに相談するとリンクが送られてきた。

 本当にあの人コミュニケーション苦手だな。

 相談した俺がバカだった。

 リンク先を見ると動画配信サイト。

 紫苑のチャンネルだった。

 ああん? そういや昨日見てないな。

 眺めてると雑談枠の新規動画があった。

 ポチッとな。


「あの映ってた人? うーん、晶ちゃんのお姉さんかな」


 お姉さん|(40歳既婚男性15歳の子持ち)。


「姉ちゃんのお姉さんにプレゼントあげたい? だめだよー」


 お姉さん|(リスナーの性癖をねじ曲げる40歳既婚男性)。


「え? 結婚してくれ? だめだよ~。人妻だよ」


 お姉さん|(人妻呼ばわりされる40歳既婚男性)。

 最後まで見てからマネちゃんに連絡。


『助けて』


『あきらめてください』


 あっさり見捨てやがった!

 と思った瞬間、写真が送られてくる。

 そこには大量の段ボールの山。


『ぜんぶお父さん宛のプレゼントです』


『嘘やろ……』


『いまから片っ端から開けて金属探知機にかけます』


『なぜに?』


『GPSトラッカーが仕掛けられてるかもしれませんので』


『なにそれ怖い』


『前にミランダさん宛てのプレゼントに仕掛けられてましたよ。それから事前チェックするようになったんです』


 ミランダさん……苦労人なんだな。

 そりゃチューハイキメてから配信するようになるわ。


『やはりそういうのっておじさんなんですか?』


『だったら楽なんですけどね。弊社が危険人物としてマークしている人物の半分は女性です』


 聞かなきゃよかった……。


『残念ですが食料品は捨てるしかなく……』


『ですよねー!』


 なに入ってるかわからなんからな……。

 新品未開封のパッケージ品しか信用できない。


『で、親父はなんて?』


『職務で得たものなので観光協会を通して寄付すると仰ってました』


 アイドルにあげるようなものをもらっても40歳既婚男性は使い道ないからな……。

 そこで話は終了。

 要するに、あきらめろと。

 オレ、カナシイ。うほッ!

 だが俺の心配と相反するように、学校でなにも起こらなかった。

 女子は遠巻きに俺を眺め、たまに呼び出されて手紙を渡されるだけ。

 中身を見ても「つきあってください」というのはなし。

「仲良くしたいな」という穏やかなものであった。

 なにも起きないって逆に怖くない?

 真田も何事もなかったような顔してる。

 逆にちょっと大人しくなった。

 いつものように塾の前にいた真田に思い切って聞いてみる。


「真田、みんなおかしんだが?」


「あんた知らないの? 受験終わるまで休戦になったの」


「休戦? なんだよそれ」


「発端はエリちゃんとあっくんが別れたこと」


 エリちゃん、女子バレー部のギャルだ。

 あっくんは男子バレー部のゴリマッチョ。


「別れたのかあいつら!」


 二人はつき合ってたはずだ。


「あんたが原因。あんたになんのコスプレさせたいかでもめたのよ」


「なに一つ意味がわからないのだが?」


「あっくんはエロ水着のメイドさん」


「その時点で意味がわからんのだが」


 あっくん殴っておこう。


「エリちゃんは大正時代浪漫風着物だったらしいの」


「まったく理解できん。つか俺になにを着せたいかで喧嘩すんな」


「二人ともヒートアップして取っ組み合いの大げんか。先生に受験に響くぞって怒られたらしいよ」


「バカなのかな?」


 女子と物理で喧嘩すんなって。

 頭悪い以前の問題だろ。


「それで受験終わるまで『みんなの賢太郎』でいようって」


「なんで俺がみんなのものになってるのかな?」


「とにかく抜け駆け禁止」


「真田はいいのか? いじめられない?」


 すると真田の顔が真っ赤になっていく。


「あ、あ、あ、あ、あ、わ、わたしはいいって!」


「そうなの?」


「いままでなにもなかったからでしょ! このヘタレ!!!」


 どういう意味よ……。

 女の子難しい。

 で、帰ると紫苑がいた。


「やっほー!」


 バリバリと俺のお菓子を食っている。

 いいけどさー。


「どうしたん? 夜だぞ。そっちの親も心配するだろ」


「けんちゃん家行くって言ったら許可でた」


 おじさんさあ、ゆるすぎるだろ。

 やれやれ。

 ジャケットを脱いでっと。


「で、なに?」


「けんちゃんさー、最近モテるでしょ」


 ばさッ。

 思わずジャケットを落とした。


「な、なんのことやら」


「けんちゃんのこと教えてくれる子いるんだよねえ。ねー『みんなのけんちゃん』」


 知っていやがった!

 だれだ密告したの!?


「あ、あはははは……からかわれてるだけだと思うんだけど」


「うーん、マネちゃんに聞いてない? 晶ちゃんこと」


「は? 親父宛てのプレゼントの話なら……」


「ぬいぐるみの話聞いてない?」


「なにそれ?」


「けんちゃん宛てのぬいぐるみが届いて検査したら、中からGPSトラッカーが出てきてさー」


「それ俺のことだったのか! ミランダさんじゃないの!?」


「うんそれは半年前。けんちゃんのは二日前」


「嘘……だろ……」


「あとね爪送ってきた人がいたって」


「爪? ギターのピック?」


「生爪が瓶の中にぎっしり」


「怖ぁーッ! いや怖すぎるだろ!!!」


 いくらファンでもそれはないだろが!


「わたしのとこにも送ってきたんだけどさー、晶ちゃんに乗り換えたみたい」


「嘘だろ……」


「うーん、おばさんの言ったことが現実になってきたね」


「ストーカーバトルか……」


 うーん、自分がモテる姿が思い浮かばない。

 なんだか変な気分だ。


「あ、そうそう、ミランダさんがさあコラボしようって」


「俺と?」


「けんちゃんとわたし。スタジオでってさ」


「紫苑がいいならやるけど」


「よっしゃー。じゃあやろう」


 不安がってもしかたない。

 前に進もう。

 紫苑が帰った後、俺は勉強のノルマを終え、ギターを手に取る。

 教則動画を見つつこっちも練習。

 人に聞かせるレベルには……ない。

 ふと練習動画をショートでアップロードする。

 アバターがぴょこぴょこ揺れながらギターを弾く。

 決して上手ではない。

 たどたどしく練習してるだけ。

 正直言って俺は運がいいだけだ。

 先人たちが整地した道を通っただけ。

 自分ではなにもしてない。

 自覚さえしてればいい。

 ミランダとのやり方を見て技術を盗もう。

 そう、俺以外のものはすべて先生なのだ。


 ……と思っていた時代が俺にもありました。

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