第14話 ■番外編2 メインヒロインは……

 幼馴染みの蘭童賢太郎はやたら顔がいい。

 わたし佐久間紫苑は賢太郎の顔を見るとため息が出そうになる。

 常に目の下にあるクマと死んだ魚の目という短所すらマイナスにならない。

 これでモテないはずがない。

 だがわたしは知っている。

 賢太郎は「みんなのけんちゃん」なのだ。

 独り占めは死を意味する。

 去年、中学3年生のころは危なかった。

 だって「幼馴染みの友だちだもん」ではすまされない年齢になったのだから。

 同級生、下級生、とにかく女子の視線は冷たかった。


「紫苑ちゃんと遊んじゃダメだって」はよくあること。


「あんた、ちょっと来いよ」なんて呼び出されて「あんたちょっと調子にのってない?」なんて言われる。


「紫苑先輩には蘭童くんはふさわしくありません」なんて後輩から言われる始末。


 いま思い出しても少しムカッとするが、相手の言葉にも一理ある。

 賢太郎は成績が良くて顔がよくて運動神経がいい。

 背が小さいから威圧感もないし、基本的には優しい。

 小さいが、頼りにならないわけじゃない。

 彼はうちの武術教室の古参メンバー。

 強くて頼りがいもある。

 多少口が悪いのは頭の良さから来てるのだろう。


 そう、完璧すぎるのだ。


 それが問題だ。

 賢太郎と自分を比べると釣り合ってないことは明白だ。

 普通の女子高生だし、なにか特技があるわけでもない。

 あせってバンドでもやろうかとギターに手を出したが……断念した。

 冷静に考えたら賢太郎と通っていた音楽教室を途中で挫折したのだ。

 後に残ったのは激怒する両親だった。

 春休みに黙って金髪にしたのも悪かったかもしれない。

 結局、髪の毛を黒に染め直され叔父が経営する電気店にアルバイトに出された。

 おかげでエアコンのクリーニングと設置はできるようになった。

 モールカッターも使いこなすようになった……って違う!

 女子高生が工事できるのはすごいけど、賢太郎との未来のためじゃない!!!

 そのことを事務の女性社員に言うとあるサイトを教えてくれた。


『株式会社スターライト。二期生オーディション参加募集中!!!』


 これだ!!!

 わたしはすぐに応募した。

 書類選考は合格。

 リモートオーディションを受けた。


「佐久間紫苑です! 15歳高校一年生。志望動機は幼馴染みに負けたくないから。特技はエアコン工事とインドの武術カラリパヤットです!」


 なんかウケた。想像以上にウケた。

 そしてわたしは『水沢・エカテリーナ・鏡花』になったのである。

 それからはたいへんだった。

 打ち合わせでいつも学校では猫を被っていることを事務所に言った。

 するとお嬢さまキャラの設定が生えていた。

 だが事務所はさすがプロ。

 お嬢さまキャラは大当たり。

 すぐにおバズりあそばせた。

 グッズが販売されるころには人気は爆発。

 テレビCMも決まった。

 キャラグッズが店頭に並ぶと、あの賢太郎も買いに行ったのだ。

 それもレイクタウンまで行って!

 ニヤニヤが止まらない。

 いや待てよ……これは利用できるのではないだろうか?

 賢太郎をこちら側にしてしまえばいいのではないだろうか?

 賢太郎の成績から考えて同じ高校になることはないだろう。

 全国で上から3桁。いや2桁の成績だ。

 このままでは東京の私立に行ってしまい繋がりがなくなってしまうだろう。

 ああ……ありありと想像できる。

 駅でばったり会った賢太郎。

 傍らには品の良さそうな女子が。

 声をかけるも賢太郎は会釈して通り過ぎる。


「賢太郎、あの人誰?」


「むかし隣に住んでた人」


 ……それだけはダメだ。

 どうにかしないと。

 どうにか繋がりを維持せねば!!!


 ふとパソコンを見る。

 そうだ……いまのわたしは水沢・エカテリーナ・鏡花。

 これを利用し倒せばいい。

 わたしは計画を練った。


 二週間ほど経っただろうか。

 準備は整った。

 社長には「知り合いにとんでもない美少年がいる」と言ってある。

 写真を渡したら「CGじゃなくて?」だって。


「事務所のさらなる飛躍のためにも仲間に引き入れましょう」


「会ってみないと約束できないわよ」


 と事実上の約束を取り付けた。

 あとは言うだけだ。


「あのね、けんちゃん」


 こうしてわたしは勝利した。

 賢太郎は菅原晶になったのだ。

 これで賢太郎が高校進学後もつながりができた。

 とりあえずは第一段階。

 繋がりさえ維持できれば……あとは外堀を埋めていく。

 わたしはほくそ笑んだ。


 ……と思うじゃん。


 ある日、その出来事は起こった。

 賢太郎が美少女になった。

 髪の毛の色を変えただけでこれだ。

 変わりすぎだろ!!!


 わたしはその日、内心動揺していた。

 動揺しまくっていた!

 なんだあの美少女! 変身するにしても反則だろ!

 しかも漫画ならさらにもう一段階は変身を残してる展開のはずだ。

 そして……わたしはマネージャーに丸投げした。

 社長には「賢太郎が美少女になった」とメッセージを送る。

 隠し撮りした写真を添えて。


「またまたー嘘でしょ?」


 社長も信じてなかった。

 だがこれは真実である。


「ピンクの地毛?」


「先祖に外国人がいたらしいですよ」


「外国人? え? 嘘」


「お父さんも地毛は同じ色らしいですよ」


「いっそお父さんもデビューさせる?」


「嫌がると思いますよ。昔それで苦労したらしいんで」


「残念。でも大至急マネージャーに面談させるわ。えっと担当は……」


「鈴木さんです」


「あー……あの引きこもりか。まずい! 晶ちゃん中学生だから営業できなくてもいいかなと押しつけてしまった……」


「いまからでも遅くないのでお願いします! 本当にまずいんです! いままではギリギリ男の子にしか見えなかったんです! でもいまは……男女関係なく落とす怪物が誕生してしまったんです! ヘタすると他の事務所に引き抜かれるかも!」


「それはまずい! 了解!」


 ふう……わたしはため息をついた。

 次なる作戦を考えねば。

 そう、わたしと彼の未来のために!

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