第8話
「さあ、もう一度!!!」
目が血走ってやがる!
「お姉様ぁ!!!」
「いま録音しましたわ! じゃあ、みなさんにもお聞き頂きますわー!!!」
『お姉様ぁ!!!』
『やーんえっち!』
『えちえち』
『メスの声で草』
「てめえらぶっ殺しますわよ!」
『罵・倒♪ 罵・倒♪ 罵・倒♪ 罵・倒♪』
『罵倒浴助かる』
『ロリ声の罵倒を人類は求めてる……』
『草』
「こいつら喜んでやがりますわ……」
そのときだった。
「あッ!!!」
紫苑が変な声を出した。
これは、小学生のころサマーキャンプで「面白そうだからこっち行こう!」って森に突撃して班の子を道連れに迷子になったときの声だった。
やばい!
「な、なにをしたんですの?」
そのとき俺は見た。
会議用のウェブカメラがONになっているのを。
それが思いっきり放送されたことを。
ちょ、おま、紫苑!
声を再生しようとして画面切り替えやがったな!
「お姉様ぁッ! なにしてやがりますの!!!」
『事故ったw』
『なんだ顔は映ってない』
『ちょ、エカちゃんスタイル凄くね?』
『グラビアアイドルよりすげえ!』
『乳圧!』
直球でセクハラやんけ。
そして俺に関するコメントが滝のように流れ始める。
『ちょw リアル小学生w』
『天使!!!』
『足細そして足長! 顔写ってないけど絶対美少女だよ!』
『ふぅ……』
『そのネタシャレにならんからやめろw ふぅ』
『うそだろ……リアル小学生だったのか……』
「小学生じゃねえよ!!! ですわ!!!」
とギリギリキャラを保って怒鳴った瞬間、滝のように投げ銭が。
『う○い棒代』
『ヨー○ル代』
『ココアシ○レット代』
駄菓子の名前、それに駄菓子代が降ってくる。
「ありがとうですわ! でも無理しないで!!!」
『やさしい』
『罵倒してくれえええええええ!!!』
『オラオラもっと罵倒しろよ! 俺らをよ!』
「このドアホどもがー!!!」
その瞬間だった。
「ピピピピピピ!」
なにかのアラームが鳴り響く。
な、なに?
マジでなに?
「はーい、配信終了のお時間になりました。晶ちゃんはリアル受験生なので17時まで。ここで終わりですわー! オーッホッホッホ!!!」
『な、マジで女子小学生だと!!!』
『ま、まて、女子小学生に罵倒してもらえるだと!!!』
『応援してるよ!!!』
「では、さらばですわー!!!」
そして配信は終わった。
マイクの切り忘れがないかチェック。
会社のマニュアルどおりに終了処理をしていく。
「晶ちゃん、配信サイトのサインアウトするよー」
「ヨシですわー!」
サインアウトまでキャラは崩さない。
これもマニュアルどおりだ。
サインアウトしパソコンをシャットダウン。
ふう、終わった。
「えっと、俺、配信17時までなの?」
「そうだよ」
お、おう。
「あとは勉強だね」
「教えてくれますかね。紫苑パイセン」
「無理だねえ。けんちゃん後輩。キミの偏差値帯じゃ、わたしよりも先やってるでしょ?」
たしかに高一の範囲はある程度やった後だ。
「了解ッス。んじゃ、またな」
「うん、またね」
そんな俺が女装して帰ったことに気づいたのは俺の姿を見た母親が大喜びしてからだ。
ガッデム!!!
誰にも見られなくてよかったぜ!
勉強してたら目から汗が出た。
ふええええええええええん!!!
次の日。
校門の前で真田が俺を待っていた。
「おいっす!」
手を振ると俺を見た真田がぎょっとした。
なにその態度?
「な、な、なに! なにがあったの!?」
「え? なにが?」
「そ、その、あの……アワワワワ、だ、だからなんなのそのけしからん顔!!!」
「寝癖でもついてるか?」
「ち、違う! そうじゃなくて! 顔がきれいに!」
あん?
もしかして……毛染めの効力切れたか?
ピンク髪になってるんじゃ!?
「え? あ、悪い先行くわ。ちょっと身だしなみ整えてくる!」
「え!? そうじゃなくて……その顔が……すごく色っぽく」
俺はトイレにかけ込んで髪を見た。
この中学校の教師って、髪の色に異常なこだわりがあるんだよな。
そして顔を見た。
いつものうぜえ美少女顔だ。
髪の毛は……黒髪だ。
ああん? なんだ毛染め大丈夫じゃん。
次に目を確認する。
そういや目の周りのクマがない。
目も死んだ魚ではない。
ああん? なにがあった?
「まあ、でも、いいか」
そのまま俺は教室に行く。
入ると歓声が上がった。
「あ、本当だ! 賢太郎くん美少女になってる!!!」
「本当! アイドルみたい!」
「完全に負けた……」
クラスの女子がはやし立てる。
「俺は男なんですが」
「男でも女でも美形見てるだけで癒やされるの」
左様か。
なおクラスの男子は。
「おまえらなに言ってるんだ! 賢太郎は最初から美ロリだ!!!」
「そうだそうだ! 美ロリだぞ! すね毛も生えてないんだぞ!」
「目の保養だぞ!!! おまえらよりキレイなんだぞ!」
もう手遅れだった。
だめだこいつら。
「おまえらなあ……」
一人が俺を見ながら親指上げてウインク。
ムカついたので親指をつかんで曲げる。
「ぎゃあああああああああああああッ!」
悪は滅んだ。大げさに転んで。
もちろん手加減ありの茶番である。
そんな俺にクラスのギャル系女子が質問する。
「でもさあ、なにかあった? 急に目がきれいになったけどさ」
「昨日疲れて早く寝たくらいじゃないかな」
本当にそれくらいしか思いつかない。
「恋ね」
なんか物知り顔の女子に言われる。
「それだけはない」
「さーやといい感じだったじゃん」
「俺の顔見て驚いただけだって」
「ねえねえ、ウィッグつけて!!!」
物知り顔の女子が持ってきたのはドピンクのウィッグ。
コスプレ用か!
「ま、待て! やめろピンクはやめろ!」
「えー……なんでよー」
ぶーっっとふくれる。
しかたねえな、教えたくねえんだけど。
「地毛の色だからやだ」
実際はもうちょっと自然な色だけどな。
するとクラス全体が「はぁッ!?」と声を上げた。
こんなときだけ一致団結するな。
「地毛って何よ」
「だから前に言ったろ。ひいひいじいさんが不法入国の外国人だったらしくてさ、地毛が黒じゃねえんだって。親父と一緒に髪染めてるんだっての」
がたん。
なぜかクラス一同が立ち上がった。
「んだよ。おまえら」
「抗議してくる」
眼鏡のクラス委員が当たり前のように言い放った。
「は?」
「教師どもに抗議してくるぜ!!! 見てろ賢太郎! 目の保養……じゃなくて! 自由のために!!!」
なぜかクラスメイトたちの背中は哀愁を漂わせていた。
なんなのおまえら。
そうそう。
結局、保護者案件にまで火がついた。
裁定は黒に髪染める方がダメだって。
次から地毛登校だってさ。
地毛で登校すんなって言ったの担任じゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます