第7話

 お高い万円のパソコンに周辺機器。

 それと衛星通信アンテナ、さらに最新ゲーム機まで買って数日。

 俺、死ぬんじゃないかなと思った数日後。

 紫苑はセッティングのために俺の家に来てた。

 水色の作業着で。

 背中に『佐久間電器商会』って書いてある。うさんくせえ。


「なんで作業着?」


「気分! って言いたいとこだけど、工事できるし」


 工事ができるお嬢さま。ねーわ。

 ツッコミ入れつつ二人で作業。

 余計なものはすで片付けた。

 俺がパソコンデスクを組み立てる間、紫苑はケーブルの配線。

 ベランダに衛星アンテナを設置してケーブルをエアコンのパイプから通す。


「……って、なんで工事できるの?」


「最近までおじさんの電気屋さんでやってたから。電気工事士も取ったし」


 アルバイト先電気屋か!!!

 ケーブルを中に入れたら紫苑はパイプを元通りにする作業に入った。

 俺はパソコンデスクを組み終わって、パソコンの接続をする。

 ディスプレイとショップで組んでもらったパソコン、それにマウスとキーボードを接続する。

 その間に紫苑はパテで隙間を埋める。


「スマホ貸して」


 と勝手にスマホを持っていきロック解除。

 勝手知ったる幼馴染みのスマホである。

 アプリを入れて衛星アンテナをセッティング。


「はい、アンテナの設定完了」


 次に衛星アンテナの室内用無線LANアクセスポイントに有線ユニットを装着。


「ほいほい、LAN頼むね」


 後ろの有線LANにケーブルを挿してスイッチを入れる。

 初期設定画面で回線が使えるのを確認。

 セッティングする。

 その間、紫苑は配線を隠すためのモールをモールカッターで切って壁に貼り付ける。

 中に配線を通すとドヤ顔。


「ふふん!」


 シャフ度でキメポーズ。

 ホント、スタイルいいからこういうポーズ似合う。

 イラッとするけど。

 オフィスソフトの設定までやって紫苑にバトンタッチ。

 配信周りの機器をセッティングする。

 半日かけてセッティングしてようやく終了。

 何回ユーザー登録させられたかわからん。


「おしゃーできたー! けんちゃん、さっそく動画上げるよ!」


「紫苑、その前にマネちゃんのメッセージ確認だろ」


 ボイスチャットのソフトを立ち上げるとスターライトのマネージャーからメッセージが来ていた。

 数日中に会いたいので日時を指定してほしいこと。

 配信チャンネルのアカウントとパスワード。

 禁止事項の一覧。

 法律的な書類。

 なんかが書いてある書類も送られてきたのでダウンロードする。

 目を通したが半分くらいわからなかった。

 親父に紹介された弁護士さんに法律や禁止事項のファイルを送信。

 普通の日本語に翻訳してもらおう。法律用語ぜんぜんわからない。

 なお守秘契約には違反してない。

 こちらの弁護士さんはスターライトも知っている。

 というか俺が未成年なので弁護士いた方がむしろ安心なんだって。

 ファイルも送信していいってさ。

 一つ不満点があるとすれば、税理士とか弁護士なんかが使ってるチャットサービスで送信することだろう。

 すべて一つに統一してほしい……。めんどくさ。

 弁護士さんからあとで電話が来るだろう。親父のところに。

 リアル中学生の社会的信用の無さよ。


「なんだろう……幼馴染みの女子高生と一緒に作業したのにぜんぜんエロくない」


 思いっきり口に出してた。


「エロい……展開がお望みかね? 望むのなら脱ぐぞ」


 畳んだ脚立を肩にかけて紫苑は言った。


「うんないわ」


 もうね、拒否一択。

 エロいことしか考えてない中学生をドン引きさせるのだからすごい。


「ばかー!!!」


 俺に拒否された紫苑が叫んだ。

 いつもの茶番が繰り広げられたころ、配信ソフトの設定も終わった。

 配信用のアバターとかの設定もなんとか終わる。

 これが一番難しいじゃん。

 IDとパスワードでサイトに入りあらかじめ作成した動画をアップロード。

 来週デビューと。

 で、今度は紫苑の家に行ってコラボ配信だ。


「で、なぜ俺が女装させられてんだ? おい」


 しかもアイドル風の見た目重視のやつ。

 なんだこの不自然に広がったスカート。

 アニメかよ。


「ほら同じ格好だよ♪」


 紫苑を見て、己の姿を見ても「こ、これがわたし!!!」とはならない。

 黒色に髪を染めて目が死んでるロリと清楚系おっぱいがいるだけだ。

 生まれてからこのツラとつき合い続けてる。

 もう、とうに女装への羞恥心などない。


「はぁはぁ……しゅごくかわいいよ……けんちゃん、女装ってのは男の子にしかできない最高に男らしい趣味なんだよ♪」


「死ねよ」


 自然と冷たい罵倒がわき上がってきた。

「女の子には優しく」

 小さいころから繰り返し言われた言葉でした。

 お母さん、賢太郎は幼馴染みに自然と罵倒できる男になってしまいました。


「ああん♪ けんちゃんの罵倒。ちょっと気持ちいいかも♪」


 ……喜んでやがる。

 お母さん、賢太郎はまだ女の子がぜんぜんわかりません。


「というわけで、はいぽちー!」


 無理矢理はじめやがった。


「おーっほっほっほ! 庶民の皆様ぁー! 港区の燦然と輝く北極星! 水沢・エカテリーナ・鏡花ですっわー!!! おーっほっほっほ!!!」


「あい、埼玉のその辺の草。菅原晶ですわー」


「晶ちゃん……ずいぶん挨拶が適当ですわね?」


「お姉様のテンションが高すぎてついて行けませんでしたの」


「お……姉様。も、もう一度! もう一度プリーズ!!! 万券投げるからもう一度!!!」


『草』

『エカおじ草』

『変態で草』


「完全にキャラが崩れてますわ!」


「キャラなんてどうでもいいのですわ! さあ、晶ちゃん! お姉様アゲイン!!!」


「お、おねえさま……」


 改めて言うと恥ずかしいやん。


『てえてえ』

『えちえち』

『やだ清楚』


 って俺が清楚って、ねえよ!!!

 見本であるはずの自称清楚は鼻血流してるぞ。

 世の中の清楚の基準がわからんわ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る