宮沢賢治について

 おとなはすこしもそこらあたりに居なかった。

 なぜならペムペルとネリの兄妹の二人はたった二人だけずゐぶん愉快にくらしてたから。


(引用/宮沢賢治の童話『黄いろのトマト』蜂雀)




 一般的にハイカルチャーの文脈から語られるようなお偉い作品であっても、常にサブカルチャーのレベルに矮小化わいしょうかして(ネタとして)読んでしまうという悪い癖が僕にはあるようです。


 煩悩具足のキモオタは、たぶん一生、そういう「ヨム」によってしか「カク」ことのできない偽物なのだと思います。


 宮沢賢治に関するエピソードで意外と見落としがちな点、それは彼の一見、悲壮に見える決意とは裏腹に、その行動がまったく「すえとおっていない」ことです(ADHD?)。


 一九二一年、父親に日蓮宗への改宗を迫って拒否されたことへの反抗か、突如、無断で上京した宮沢賢治は、国柱会東京本部での活動を開始します。


 しかし、四ヶ月後に上京した父親との関西旅行で説得されたことが効いたのか、旅行からさらに四ヶ月後、妹の病気の知らせを受けるとすぐに帰郷。


 意外なほど、なさけない反抗に終わります。


 ちなみに賢治先生はこの時、帰郷することで関東大震災(一九二三年)を回避していますが、僕は帰郷しないことで東日本大震災(二〇一一年)を回避しています(汗)。


 また、農学研修の屠殺とさつ実験で動物の悲鳴を聞いたことがきっかけで、「私は春から生物のからだを食うのをやめました」と菜食主義を宣言するものの、何度も言い訳して肉食をしており、これもまた残念な話です。


 ここからいつものように、「何もかもがすえとおらない彼にとって『妹萌え』のみぞ、すゑとほりたる大慈悲心」だったのではないか、と付会していきたいわけです。


 勿論、「萌え」と言っても、キャラクター文化の類型を共有していない賢治童話の登場人物と、我々がイメージするキャラクターとの間には、相違があります。


 どんなに心象をスケッチしても(感性は類似していても)、萌えキャラが生得観念的に出てくるわけがありません。


 しかし、そういう(セカイ系的な)想像力自体は、エロゲやラノベを知っている人にはよくわかる話だと思います。


 こんなことを言うと、誰かを聖人やカリスマとして崇拝したがる信者サンたちから批判されるかもしれませんが、宮沢賢治がただの「キモち悪いオナニスト」であることは、むしろ好ましいことだと僕は考えます(キモオタに言わせれば、批判者の方が冒涜ですらあります)。




 けれども、あなたは、高く光のそらにかゝります。

 すべて草や花や鳥は、みなあなたをほめて歌ひます。


 わたくしはたれにも知られずおおきな森のなかで朽ちてしまふのです。


(引用/宮沢賢治の童話『マリヴロンと少女』ギルダ)




 つまるところ、僕が魅力を感じるのは「たれにも知られず巨きな森のなかで朽ちてしまふ」ような、しかしそれでも「風を切って翔けるときなどは、まるで鷹のやうに見え」るような非凡な小市民、市井しせいのオタクとしての親鸞しんらんであり、宮沢賢治であり、本田透であって、聖人だのカリスマだのというお偉い文脈は理解できないし、理解する気もないのであります。


 法華経の常不軽じょうふきょう菩薩をモデルにした「デクノボー」という理想形をもっていた宮沢賢治ですが、もしも天才なんていうものがあるとすれば、それは皆から注目されるようなカッコいい(勘違いした)存在じゃなくて、もっと童貞的でなさけない小市民的なものなんじゃないかと、僕なんかは思うんですけどね。


 冒頭に引用した『黄いろのトマト』には、「何だ。この餓鬼がきめ。人をばかにしやがるな。トマト二つで、この大入の中へおまえたちを押し込んでやってたまるか。失せやがれ、畜生」という台詞が出てきます。


 僕はこの「大入おおいり」の部分を、何度読んでも「大人おとな」と誤読してしまうのですが、例えばこの台詞を以下のように書き換えると、萌え・セカイ系批判的な感じになって素敵です。


 ――何だ。この餓鬼め。人をばかにしやがるな。「エロゲとラノベ」二つで、この「大人ハイカルチャー」の中へ汝たちを押し込んでやってたまるか。失せやがれ、畜生!


 ……ひぅっ!? なっ、何かすみませんっっ(笑)。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

アスペル奇譚 鬼ヶ原大@歌ってみた新作UPしました🎤 @daionigahara

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ