第3話応援部②

 並木紬なみきつむぎ

 それがこの女子生徒の名前だ。

 それに、2年生で先輩だというのも驚きだ。

 身長的に、同級生だと思った。

 まあ、それは言わないんだが。

 「紬先輩、ちっちゃいな」

 ぼそっと、津成さんが呟いた。

 並木先輩は、はにかむように笑うと。

 「お恥ずかしい。友達にもよく言われるんだ。えへへ」

 特に、気にするよ様子はない並木先輩。


 「ここだよ」

 部室棟の、一番端の小さな部室。

 中は一つの机に、[応援]と白い生地に墨で書かれた横断幕が飾ってあるだけの部室。

 「机に置きますね」

 そろそろ、腕が限界で降ろす。

 手を見てみると、指の節々が真っ赤になっていた。

 「ありがとう、助かったよ。これ良かったら二人で食べて」

 並木先輩は、俺たちに飴を渡した。

 「おー!!ありがとうございます。今日二回目だ」

 津成さんは、目を輝かせながら飴を受け取った。

 「ありがとうございます」

 俺も受け取り、教室内を見渡した。

 応援部。

 斎藤先生のくれた中にあった部活だ。

 「この部活って、何してるんですか?」

 津成さんが聞くと、並木先輩が説明してくれた。

 「応援部はね、学校生活を良くするための部活。困ったことや、助けてほしいことなんかを聞いて手伝うの」

 「雑用?」

 津成さんは、オブラートに包むことなく放った。

 「確かに、みんな雑用部だの洗濯部なんか言われるけど」

 並木先輩は、とほほ。と、げんなりがすぐに。

 「でも、みんなが楽しく。高校生活がいい思い出になって欲しいから。しょげません。なんてか、語っちゃた恥ずかしい」

 顔を紅くして、頭を掻く並木先輩。

 その姿は他の人はダサいと、感じるかもしれないが俺の目にかっこよく見えた。

 「まあ、数日で廃部になるんだけどね」

 「え?」

 思わず声が出た。

 「なんで?」

 「部員が足りないんだよ。この部は去年私が立ち上げた部活でね。夏の終わり、前所属してた部活の先輩達と立ち上げて。卒業しちゃって」

 どうやら、新入生が入ってこなかったらしい。

 それもそうだろう。

 今日見た部活は、ほとんどが3−4人程度の部員しかいない。

 いくら、部下がうりの学校でも学生と部活の数が釣り合っていないのだろう。

 部活は3人以上で認められる。

 応援部は今は並木先輩しか部員がいない。

 部活勧誘期間を過ぎると条件を満たしていない部活は廃部となる。

 それは応援部もだ。

 「なんか、暗い話ししちゃってごめんね」

 並木先輩は笑ってみせたが、先程の笑顔とはまるで違った。

 「じゃあ、私入部します」

 「え?」

 並木先輩は目を見開く。

 「いいの?私が言うのはおかしいけど、雑用ばっかだよ」

 「はい。お菓子くれたんで。それに」

 津成さんは、並木先輩の後ろに回ると抱きしめて。

 「こんな、にかわいい先輩がいるので」

 「えへへ。なにそれ」

 並木先輩は、くすぐったそうに笑った。

 「黒瀬君は?どうするの?」

 「え?俺は・・・・・」

 「黒瀬君もどうですか?」

 並木先輩は、キラキラとした目でこちらをこちらを見つめる。

 「俺は・・・考えときます」

 「そっか」

 並木先輩は肩を落とした。

 「入りたくなったら、いつでも言ってね入部届けはいつでも用意しとくから」

 が、すぐに笑顔を取り戻した。



 「じゃあ、私駅だから」

 俺たちは、ユニホームをサッカー部に届けて帰路に着いた。

 「バイバイ、先輩」

 津成さんは、小さく手を振っていた。

 「明日、放課後部室でね」

 並木先輩は、駅に向った。

 ここからは、津成さん二人きりだ。

 特に会話はない。

 津成さんがどこまで一緒かもわからない。

 ただ、黙って夕日とは逆の方に歩く。

 子供の声が聞こえる、住宅街を歩く。

 すると。

 「黒瀬君はなんで、入部しなかったんだろう?」

 と、呟いた。

 「なんでって」

 あの時、俺は必要とされていたのか分からなった。

 また、カン違いなんじゃないか。

 馬鹿みたいな、妄想なんじゃないかと思ってしまった。

 自分が傷つくのを嫌った。

 脳裏には、杏花姉さんの言葉がチラつく。

 「津成さんは、なんで入部したんだ?」

 津成さんは、急に振られたかのように驚くと少し考え込むようにして。

 「何となくかな。なんか楽しそうだし」

 津成さんの頬が少し緩んだ。

 「黒瀬君は、なんで入部しなかったの?」

 再び問われ、答えを捻り出す。

 「なんとなく」

 俺の答えに、退屈そうに。

 「そっか」

 津成さんはそれだけで呟いた。



おまけ

津成「そう言えば、顧問って誰ですか?」

並木「ああ。斎藤先生だよ。いい先生なんだ」

津成「わかります。今日飴をもらいました」

並木「良かったね」

津成「はい。えへへへ」

黒瀬(この空間に、俺はいていいのだろうか) 

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