第22話 伯爵夫人の独白10



 そこから、私は機会をうかがうようになった。


 両親はすぐ私の検査を進めて、私は正式に「魅了」という有難くない名前の魔力を診断された。これでめでたく今までは「ただ容姿が良かっただけ」という免罪符で免れていた公序良俗違反決定である。


 私の周りは魔力コントロールの専門家やイリス大学の教授、セラピスト、自己啓発本、地味なドレスでいっぱいになり始めた。私は文句を言わず静かに黙々と魔力のコントロールの訓練を進めた。屋敷とドラティア宮殿とイリス大学を行き来する毎日は、軟禁されていた頃よりマシだったともいえるし、もっと悪いともいえる。ある程度の自由はあるけど、ザックはいない。


 私はどうしてもザックに会いたくて、何度か手紙を出したり会う機会を作ろうとしたり努力したけど、両親は成人するまで殿方と会うなと言ってきた。


 反抗してドラティア宮殿でユーリに会いに行った。ユーリは呆れ顔で、「イザークに取り次ぐのはナシだぞ。あいつの親父さんは早期譲位する気満々で、あいつに勉強ばっかさせてんだ。会う暇ねえよ」とのことだった。それなら仕方ないと他の方法を模索しつつ、私はユーリに泣きついた。頼むからザックの情報をくれ、というか愚痴を聞いてくれ、と。


 婚約者でもない未婚男性と密会なんて何考えてんだとユーリは激怒したが、そこは幼馴染パワー、というかなんだかんだユーリは私に甘いので、手紙なら……と渋々引き受けてくれた。


 そうしてユーリからザックの頑張りを聞いて、私も頑張らないと、と気合を入れた。サニーは私がユーリと文通しているのを不安に思っているようだったけど、中身がほとんど人に言えない愚痴やザックの話だと知ると首を傾げていた。


 そして、私は段々と、完璧に魔力をコントロールできるようになっていった。魅了というのは面白いもので、例えば私を恋愛対象として見ていない人には効かないし、誰か強く想う対象がいる人にも効かなかった(サニーとユーリ)。あと、魔力の効果をなくす魔力を持っている人にも効かない。


 私の指導をしてくれた専門家のおじいちゃんがまさしく、そのザックと同じ魔力の持ち主だった。彼は私の他にも魅了の魔力を持ってしまった人を指導していたけれど、中でも私が一番強力だったらしい。


「魔力を打ち消す魔力の持ち主と結婚するのって、良い考えですよね?」


 試しにそう聞いてみたところ、おじいちゃん専門家はもちろんと頷いた。


「一番合理的な解決方法だね。最も、ちゃんと想い合える相手なのが望ましいが」


 大丈夫です、それはクリアしてます。少なくとも私の方は。


 その言葉は飲み込んで、私は満足してお辞儀した。感謝と、あと謝罪を込めて。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る