第21話 伯爵夫人の独白9
私は気を失った、らしい。気が付いた時には両親とお医者様らしき人が心配そうに私が寝かせられたソファの周りで話し合っているところだった。
「ルナ、気がついたかい」
父の顔色は大層悪く、母は気つけ薬にウイスキーを持っている。お医者様はしばらく私が両親と言葉を交わすのを見守っていたが、ひと段落ついて、私の精神状態に確信が持てたところで咳払いして話し始めた。
「ご令嬢の今宵のことは……魔力が発現したことによるものですな」
怪奇現象とか毒の混入とかではなかったのか、とぼんやり突拍子もないことを考えた。いまいち現実味がない。魔力なんてめんどくさい、というザックの声が思い出された。
「恐らく……侯爵にはお心当たりがあるようですが」
父を見ると、父は顔色をさらに悪くしながら頷いた。
「ルナの、曾祖母上……私のおばあさまは、周囲の人間の気を惹く魔力の持ち主だった。といっても微弱な作用しかなかったが」
「恐らくルナ様もそのような魔力をお持ちかと思われます。加えて、そのう」
お医者様は言いづらそうに告げる。
「ルナ様の生来のお美しさと増幅し合っていると言いますか、……非常に強力な魔力と思われます。こればかりは詳しく検査しない限りなんとも言えませぬが……」
やっぱりと呟いてしくしくと泣き出す母と項垂れる父を見ながら、私は周りに立ち込める暗い雲に耐えていた。
ザックなら絶対、私が周囲を惹きつける魔力を持っていようと気にしないのに。ザックなら、じゃあ俺の魔力を使えばいいんじゃないですか、って閃いた!って顔をしながら興奮してまくし立ててくるのに。
私の美しさは、どうも悪い方向にしか行かないらしい。ザックがいれば違うのに。ザックさえいれば。
その時、私の願いはただひとつになったのだ。
これまでは、刺繍の先生を代えてほしいとか、甘ったるくて本心か嘘かわからない恋愛の詩なんて読まないで済みますようにとか、早く軟禁を辞めてほしいとか、学校に通いたいとか、色々あったのだけれど。
ザックとずっと一緒にいられるなら、他のことなんてどうでもいい。ザックのそばにいたい。
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