第18話 伯爵夫人の独白6



 ザックは私が綺麗だからって妬まないし、私に歪んだ目を向けている人特有の振舞いもしない。ザックは花や蝶の標本、絵や動物の置物といった「美しいもの」を、丁寧に丁寧に扱うのだ。


 私の容姿も同じで、ザックにとっては大切に称賛されるべきもののようだった。多分それが常識的なことなんだろうけど、悪意に晒されてきた私はザックが神様みたいに思えていた。ザックが親だったら、絶対私のこと軟禁しないのに。


「ザックはほんとに綺麗よね」


 思わず本心が口から飛び出した。


 ザックは脈絡のない褒め言葉に戸惑ったのか、みるみるうちに顔を赤くして目をぱちぱちしだす。


「きゅ、うですね」

「脈絡なくてごめんなさい」

「いやそれは……その、ありがとうございます。こんなこと言われたの初めてです」


 え、そうなの?という疑問は飲み込んだ。ザックは心が綺麗で、しかも本人はどうやらコンプレックスのようだけど、顔だって私はすごく綺麗だと思ってたから。


「うそ。すごく綺麗なのに」

「ええ……」


 大したことないと思いますけど、とネガティブなことを言い出すので睨んでやった。


「私のこと散々綺麗って褒めるのに、自分はダメなの?」

「だってルナさんは本当に綺麗なんですよ」

「本当も嘘もないでしょ。ザックは綺麗なの。私が言うんだからそう」

「う、はい」


 ルナさんが綺麗なのと俺が綺麗かは別問題なのに、とぶつぶつ呟いているザックを見ながら、私は上機嫌になっていた。


 私がザックを綺麗だって言った初めての人だということが、とても嬉しかったのだ。綺麗だ綺麗だと言われ慣れている身からすると、他人を綺麗だと発見してそれを口に出すのはとても新鮮で幸せなことだったし、それが相手にとって初めてのことだというならもっと嬉しい。


 これからもザックが来たら綺麗だと言ってやろう、と私は勝手に決めていた。



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