第17話 伯爵夫人の独白5
ザックは本当に勉強や習い事がよくできるらしく、しょっちゅう「もう終わったから暇なんです」と言ってはフローリアンの屋敷にやってきた。
それに合わせて、私もザックに家の図書室を案内したり、ラングラン本家がある北方から届けられた品を物色したり、庭で話したりして過ごすようになった。サニーが中学に上がる頃には正式な王太子の婚約者として内定し、とてもじゃないが放課後ザックに構っている暇がなくなっていたのもあるが、第一に私はザックと過ごすのが好きだったのだ。
ザックは私が家に引きこもっているのを不審に思っていたようで、私が「私は治安を乱すから、外に出ちゃダメなんだって」と言うと傷ついた顔をした。
「ルナさん、イリス生だったんでしょう?学校で会えたのに残念です」
「そういえば、私、初等部の頃ザックに会ったことなかったな。会えてたらよかったね」
「無理もないですよ。サニーに話しかけてもらうまで、あんまり学校に馴染めなくて。上級生の知り合いもいなかったから、ルナさんのことも知らなかったですし……」
しょぼんと垂れる犬耳が見えるかのよう。ザックに早く会えていたらとは思うけど、一方でザックが私の噂を知らなくてよかった、とも思った。もし知られていたら、絶対あり得ないと思うけど、ザックも私の容姿に偏見を持ったかもしれない。
私たちはいつも通り、屋敷の書庫で各々ページをめくっていた。ザックは私が薦めた冒険小説を読んでいて、私はザックが持ってきたザックのおじいさまの手記を読んでいた。ザックのおじいさまは中々面白い人だった。
「意外。沢山友達いそうなのに」
「まさか!俺、地味ですしガリ勉タイプですし、最初の頃は北方訛りをからかわれるんじゃないかって不安で、まったく会話に参加できなくて……。魔力も地味だってことが発覚したし」
中等部の入学式で偶然他人の魔力にぶつかり、そこで何の影響も受けなかったザックは、「魔力無効」の魔力を発現したと診断されたらしい。
魔力の無効化なんて、なんの力もないじゃないですか。だって魔力って、誰も気づかないような、おまじないみたいなものばっかりで、無効化しようと思ってできるものじゃないし。地味です、地味。地味の極み。
とはザックの言葉である。
「ルナさんは魔力、まだ発現してないんですよね」
「ええ。魔力、持ってないかもしれないって思い始めてきた」
「それが良いですよ。検査受けるのめんどくさいし……」
魔力保持者は人口のおよそ3人に1人。魔力があるないで何かあるわけでもなし。とにかく私には、なんとか家から脱出したいということの方が現実味のある問題だった。
「ルナさん、何も悪いことしてないのに。治安を乱すって、意味わからないですよ」
ぽつりと呟くザックに、本題を思い出す。私の容姿のせいで私が軟禁されているなんて、ザックは夢にも思わないみたいだった。
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