第12話 伯爵の供述12
予想外の唐突な質問に息を呑んだ。気を利かせたのかそっと仕立て屋が隣室の荷物を確認しに出ていく。その気遣いが今は重い。
ルナさんは腕を組むでもなく目を伏せるでもなく、こちらを見つめて突っ立っていた。真剣な目に気圧される。彼女は本気でこの質問をしたようだ。
「嫌なわけ、ないでしょう」
「どういう意味?」
緊張して思わず「好感度を下げたくない」という悪い癖が出た俺は、初手から躓いた。これじゃ、ルナさんに好意があると伝えているも同然だ。顔は真顔なのに内心百面相という事態に、ますますパニックになる。
「その、……お、俺はルナさんとは小さいころからの付き合いで、今回の結婚だって、ルナさんのことを知ってて、素敵な人だって知ってたから受けて……俺、ルナさんと結婚したことを嫌だなんて思ってません」
必死に言葉を紡いで軌道修正を図った。正直何の解決にもなっていない。
ルナさんは何秒か黙って、その後ハァとため息を吐いた。
「嫌じゃないなら別にいいけど。……その言い方、私のことを『及第点』って言ってるみたい。素敵な人ってつまり、『嫌な人じゃない人』ってこと?」
「違います、」
「違わないでしょ」
ルナさんの瞳はまっすぐで、でも寂しさが見え隠れしていた。
「私達夫婦になって、たぶん死ぬまでそうなのに……私、もっとザックと仲良くなりたいし、夫婦として、家族としてお互いを大切にできる関係になりたい。このドレスも、アクセサリーも、何も思わなかったんだ」
俺の今までのアプローチ全部ルナさんの中ではアプローチとも思われてなかったのか、とか、俺だってそんな関係になりたいと思ってるのに、とか、そんな思いは全部吹き飛ばされた。
ドレス。青い布地サンプル。銀色のアクセサリー。パーティー。夫婦。
俺の髪の色は銀で、俺の目の色は……。
「す、」
「す?」
すみませんでした。そう叫んで頭を下げようとした、俺だったが。
「好きです。ルナさんのことが、ずっと前から」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます