第11話 伯爵の供述11

  



「ねえ、ザック?聞いてる?」

「あ、すみません、何か言いました……?」


 やばい、何も聞いてなかった。頭が真っ白になった俺を安心させるように、ルナさんのおかしそうな笑い声が響いた。


「別に大したことは言ってないから大丈夫。今度、私たちが開くパーティーの招待客リスト、できたら早く欲しいの。名前と顔を覚えるのがほんとに嫌いで」

「ああ、後で渡そうと思ってたんですけど……俺も覚えるの苦手なので、早めに作りました」

「ふふ、一緒」


 ちょっと嬉しそうにくすくす笑うのが本当にかわいいなあと思う。あの絶世の美女がけっこう笑い上戸とか、知らない人も多いんだろうな。小さな優越感に浸れて、なんか良い。


「着替えたわ。出てもいい?」


 あれこれ考えているうちに、ルナさんは着替え終わったようだった。なんだか嬉しそうな声から察するに、どうやらドレスを気に入ったようだ。……ファッションセンスが暴走していないといいのだが。


「いつでもどうぞ」

「はいっ」


 じゃん、と自分で効果音をつけて出てきたルナさんを見て、俺は声を失った。


「めちゃくちゃお綺麗です」

「ふふ、それは知ってる。このデザインが良いかしら?おかしいところない?」


 馬子にも衣裳の反対と言うか、真に美しい人ならぼろきれだって着こなせちゃうんだなあと思う。


 ルナさんが着ているドレスは、ゴテゴテしておらず、かといって露出しすぎたり薄すぎたりするわけでもなく、華奢な彼女のボディラインを生かしたデザインだった。流行の型の1つらしい。もちろん今身に着けているのは型を決めるためのものなので真っ白だが、もう充分美しかった。普通にこれがウェディングドレスでも違和感はなかっただろう。


 ルナさんはそれとは別に何枚か布を持っていた。水色、藍色、紺色、青系統の布だ。


「仕立てる布は、こういう青色がいいんじゃないかしらって、彼女が仰るの」


 ちらりと仕立て屋の方を見ると、ウンウンと頷いている。青は彼女の金髪を引き立てるし、すごく良いチョイスだ。さすがプロ、と頷き返してから、ルナさんに向き直った。


「良いと思います。今のデザインが今日着た中では一番だと思います、……色は青系で賛成です。ルナさんの金髪に良く合いますし。アクセサリーは何色にするつもりですか?」

「…………シルバーだけど」

「ああ、なら青は青でも……濃い青が良いんじゃないですかね。そこの紺色とか」


 綺麗だろうな、金髪をなびかせて紺色のドレスを身にまとって、シルバーのアクセサリーをつけたルナさん。夜の女神とか月の女神とか、そういう感じになるんだろう。絶対最高の美しさだ、いやルナさんなら何したって最高なんだけど……。ふわふわと空想の世界に旅立っていた俺は、ルナさんが頬を膨らませて拗ねているのを見逃していた。


「……信じられない……」

「え、何がですか?」


 呆れた、と言わんばかりの声に思わず肩を跳ねさせると、ルナさんの不満げな目とぶつかった。……何か失言をしただろうか。冷や汗がものすごい勢いで滲み出て、背中を伝っていく。頭が真っ白になりそうになったところで、ルナさんの「なんでもない」という声が響いた。


「その、……えっと」

「ザックは」


 気まずい雰囲気を打破しようと口を開いた瞬間、ルナさんの淡々とした声に遮られた。


「私と結婚するの、嫌だった?私のこと妻として見てる?」


 

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