第10話 伯爵の供述10




 次の日から俺の恥ずかしくて死ぬんじゃないかという努力が始まった。


 まず、朝食は必ずルナさんと話しながら二人でとることにした。仕事は効率を今一度確認し、手早く終わらせられるようにしておく。朝は庭師にルナさん用の花束を作らせて届けるようにもした。


 ルナさんの予定が合えば街の方でカフェや美術館やブティックを訪れて、屋敷の庭園や近くの森へピクニックに出かけた。夕食を一緒にとることは前からしていたが、その後も仕事場に行くのはやめて、二人で本を読んだり様々な話題を議論したりする時間を確保した。


 ルナさんがこれから困ることのないように色々なことを話して、一緒の時間を過ごすようにし始めたのだ。


 ユーリさんに見られたらガキがおままごとでもしてんのか?とか言われそうな気もするが、今の俺にはこれが精いっぱいだったのである。


「ザック、最近たくさん私と過ごしてくれてるけど……大丈夫なの?」


 試着室の向こうから心配そうな声が聞こえた。思わず焦った声が出る。


「え、もしかして嫌でしたか……?」

「そうじゃないんだけど、ラングランって忙しいでしょう?貴方のお父様もすごく働いてたみたいだし……隣国とのお付き合いとか、色々」

「この前仕事内容を見直して、各所に連絡したので……父が頑張ったおかげで、作業量もだいぶ減ってるんですよ。だから大丈夫です」

「そうなの?一緒にいられるのは嬉しいんだけど、負担だったら私のことは気にしないで、ね?」


 ルナさん、俺と一緒にいられて嬉しいのか。衝撃と歓喜で茫然とした。


 今、次の社交シーズン用のドレスの型を相談しに、仕立て屋を屋敷のルナさんの仕事場へ招き、試着をしている真っ最中である。


 ルナさんは本当にファッションに疎いらしく、彼女が血迷った判断をしないように俺も試着に付き合うことになったのだが、こうしているとサニーのドレスを注文しに行くフローリアン侯爵に同行した時のことを思い出す。ユーリさんと侯爵の趣味が合わなさ過ぎて修羅場だったのだ。ここに侯爵がいなくてよかった。


 ……俺のアプローチ、嫌とか効果なしとかってことじゃないんだよな?一緒にいられて嬉しいって言ってたし……。このままルナさんのことをもっと知って、向こうにも俺のことを知ってもらって、頃合いを見て……できれば結婚記念日前までには気持ちを伝えたい。「一緒にいられて嬉しい」は、もしかしたらまだ「弟分と平和な結婚生活を送れて」という意味かもしれない、し。油断はできない。


 もともと伝える気なんて微塵もなかった、永遠に消えない瘡蓋のような想いだと決めつけていたけれど、ユーリさんの言葉のおかげで少しずつ前向きに過ごせている。ルナさんが嫌じゃないなら、ゆっくり頑張ってみよう。俺が思っていたより、勝率、あるのかもしれない。

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