第7話 伯爵の供述7



「サニーから、私の魔力の話はされた?」


 式が終わって、俺は屋敷をルナさんに案内したところだった。初恋の人が自分の家にいる状況はふわふわと現実味がなかったが、それでも式の時よりは落ち着いてきた。手持ち無沙汰に向かい合うのもなんだしお茶でもと紅茶を入れたところで、彼女が小さい声で尋ねる。

 

 慌てて言葉をひねり出した。


「いえ、その……話したくないようでした」

「気、遣われちゃったかな」


 俺の声は震えてたりどもってたりしなかっただろうか。必死で今の場面を脳内巻き戻ししていたせいで、俺の名前を呼んだルナさんに返事するのがワンテンポ遅れた。


「あ、はい」

「ふふ、何か懐かしいね。昔もザックがぼーっとしてたり本読んでたりしたとき、私何回も声掛けたもの」

「えっ……すみません……」


 それは普通に、考え事や読書に集中しすぎていたからだ。今みたいに処理落ち寸前だからではない。……俺、昔の方がスペック高かったんだろうか。


 ショックを受ける俺をよそに、ルナさんがふっと息をつく。


「それでね、あの……私の魔力のことなんだけど。けっこう、言いにくいというか」

「それは、察してます。言いたくないなら全然大丈夫ですから」

「そうじゃなくて。……引かない?」


 ……上目遣いがやばい。俺は思いきりぶんぶんと首を横に振り、思念ごと吹き飛ばそうとする。


「引きません。でも、今日無理して話すことでもないと思いますし、いくらでも待つので!ルナさんが話しやすい時で大丈夫ですよ」


 なるべくルナさんがプレッシャーを感じないように言ったつもりだ。でも挙動がおかしかった気がする、手も首と一緒に揺れてたし。


 ルナさんはほっとしたようだった。強張っていた口元が緩んで、ありがとう、と呟く。


 そのまま機嫌よさそうにニコニコ紅茶を飲むルナさんに、俺の方こそ安堵のため息をつきたかった。良かった。ここ、多分答え間違えてたら不味い方向に進んでたよな。


 俺はそのままごくりと唾を飲み、意を決してルナさんに話しかけた。


「る、ルナさん?」

「ん?」


 どうしたの、とこてんと首を傾げる仕草が本当に無理だった。悪い方じゃなくて良い方で。俺のキャパシティが無理。ふらつかないように拳をセルフ粉砕しそうな強さで握りこんだ。


「不束者ですが、どうぞよろしくお願いします。その、絶対不幸にはさせません、幸せにします」


 あわや嚙むか否かという瀬戸際で耐えた。背中を冷や汗が伝っていく。全身冷たいのに、顔はめちゃくちゃ熱い。


 ルナさんはきょとんとした後、その女神もかくやという微笑みで頷いた。


「こちらこそ。末永くよろしくお願いします」


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