第4話 伯爵の供述4
俺は幼少期と現在でこそ北の地に住んでいるが、小学校から大学までは首都にいた。そこでサニーと、ルナさんと知り合ったのだ。ルナさんはなぜかフローリアン家の屋敷に籠っていて、放課後暇をしている俺が訪ねていくといつも相手をしてくれた。俺が勉強や課外活動で忙しくなったあたりから少しずつ疎遠になっていったのだが、今でもよく覚えているくらい大好きな人。
サニーは俺たちのことをよく知らない。俺の気持ちとサニーが考える俺の気持ちには明確な乖離がある。今言うことでもないから口を閉じておくが。
とにかく、俺は彼女が初恋で、今でも彼女が好きだった。彼女の幸せが俺の幸せだった。だから結婚に乗り気になれなかったのだ。もしかしたら俺より何倍も良い相手がいるかもしれないのに、俺と結婚、だなんて。もう何年も思いは降り積もって、初々しさも激しさも鳴りを潜めた。これを機に振り向いて欲しい、夫の座を得たいだなんて下心すら生まれなかった。ただ彼女を思いやりたかった。
彼女の笑い声、好きだったな、なんてぼんやりと考える俺に、ねえ、と小さな声でサニーが言った。
「……姉さんの、覚悟はできてるんだよ。だから……ザック次第なんだ」
それは静かな声だったけれど、飛び回る俺の思考を固める最後の一押しとしては十分だった。もし俺が、後悔じゃなくて助けになれるのなら。もし、年月に埋もれすぎた初恋が少しでも報われるなら。
もともとこの話は受ける気で、押し問答もすぐ引き上げるつもりだった。顔も見たことのない誰かに賭けるより、関わりのある俺と結婚した方が、ルナさんにとってもご両親にとっても一番マシだろう。それでもグズグズしたのは、情けない俺はサニーから保証してもらわないと自信が持てなかったからなのだが、それについては何も口に出さないでおく。
「ルナさんに覚悟があって、選択肢の中で俺が一番マシだって言うなら引き受ける。彼女が絶対平穏に暮らせるようにするよ」
「いいの?」
「ルナさんが本当にそれでいいならな。彼女が少しでも嫌だって思うことはしたくない。もし本当にそれでいいなら、俺も覚悟を決める。彼女が魔力のことなんて忘れるくらい平和な暮らしを作るって」
「……ありがとう」
とうとうぼろぼろ泣き出したサニーに慌ててハンカチを差し出す。途端に背中を丸めてわんわん声を出し始めた彼女の赤毛を撫でながら、ルナさんの天使のような金髪を思い出していた。
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