第3話 伯爵の供述3
ことの発端はこうである。
先日のパーティーで、ルナさんの魔力が暴走した。ドラティア国では、3人に1人ほどが魔力を持って生まれるのだが、そのほとんどがちょっとした力な一方、極稀に物凄く危険な力を持つ人が生まれるのだ。詳しくは知らないが、どうやらルナさんはその類だったらしい。
そこで何があったかは聞いても教えてもらえず、またサニーも辛そうにしていたので聞くのを辞めた。とにかく、どうやらその一件からルナさんの力が不安定らしい。
そこで、俺に白羽の矢が立ったというわけだった。俺と言うより、祈ると相手の魔力を一日消せる、俺の魔力に。結婚して、毎朝魔力を使えば、ルナさんは安定するからだ。
珍しくもなんともない。よくある魔力婚というやつだ。
俺が肩を落としたのがわかったのか、ふざけ半分だったサニーが目に見えてオロオロし出した。ごめんね言い過ぎた?と顔色を窺ってくるものだから、大丈夫だよと苦笑する。ただそんなサニーを見ていたら虚勢を張って応酬するのも馬鹿らしくなってきて、俺は素直に口を開いた。
「……俺が承諾しなきゃいけないのはわかってる。他にこういう魔力を持ってる男が都合よくいないのもわかってる……。でも、ルナさんは本当にそれでいいのか?結婚だぞ。人生が変わるんだ。赤の他人とこれから何十年も暮らさなきゃいけない」
「赤の他人じゃないからザックに頼んでるんだよ。むしろ、ザックと結婚しなかった場合本当にどうなるかわからない。それこそ顔も見たことのない年の離れた遠い国の人と結婚しなきゃいけないかもしれない、同性だったら結婚すら難しい」
ルナさんはこの国一番、いや俺に言わせれば世界中探しても比肩する人間がいないくらいの美人だった。なまじ綺麗だと、危険のないように早急に、極秘に物事を運ぶほかない。勝算がある人間に最初に声がかかるのは当然だった。
先ほどまで騒いでいたサニーの顔が悲しそうに歪んだ。俯いてティーカップを手に取り、ごめんなさいと小さな声で呟く。
「ごめんね。この話をする役を引き受けたのも、軽い感じで言ったのも、ザックがこれで恋を叶えられたら良いなって、姉さんが早く楽になれば良いなって……ザック、本当に姉さんのことが好きなんだね。こんなチャンスに飛びつけないくらい」
好きだよ。そう心の中で答えてため息をつく。もう何年も会っていないルナさんの笑い声が思い出された。
ルナさんは俺の初恋の人だった。サニーが王太子妃候補として忙しくなり始めた頃に出会った、1つ年上の憧れの人。思い出の人。
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