第2話 伯爵の供述2


「お願い!ほんとにザックしか頼れる人がいなくて……それにザックにとっても悪い話じゃないでしょ、ね?」

 

 幼馴染に半泣きで懇願されて断れる人って、多分いないよな。そんなことを思いながら、俺は遠い目になった。


「いや、その……悪い話じゃないって言っても。お互い心の準備とかあるだろ?」

「大丈夫だよ!この期に及んで選り好みなんてしないって結論になったし、どんな相手でも喜んで結婚するって覚悟決めてたから」

「それはそれで傷つく」

「なんで!?」


 複雑な心境すぎる、と何だか聞き捨てならない言葉が聞こえた。こいつ、俺が片想い拗らせてるのも何もかもお見通しだからって……。いや実際、俺は何も言えない。怖い。


 首都も涼しくなってきた秋の日。北の地はもう魔石が煌々とストーブを照らしていて、テーブルに置かれた紅茶から湯気が立っている。ゆらゆら不安定に立ち昇る湯気は、俺の心情のようだった。


 今なすすべなくしどろもどろの俺はイザーク・ラングラン、23歳、一応伯爵。よくあるくすんだ銀髪で、お世辞にも美しいとは言い難い鋭すぎる目。ドラティア国のはずれもはずれ、北方に住むしがない外交官である。


 対して目の前で顔を顰めながら紅茶を啜っているかわいらしい女性はサニー・フローリアン・ドラティア。赤毛にくりくりした目は小動物みたいだった。俺の幼馴染で、現王太子妃殿下である。


 彼女は今、とある相談をしに俺のところに来ていた。いや相談も何も、向こうは俺の弱みも何もかも握っているので、半ば脅迫のようなものなのだけれど。


「ザック、そんなに姉さんと結婚したくないの……?片想い歴ウン十年のくせに、これ逃したら寂しく独身のままのくせに……」

「あのな……」


 とある相談。すなわち結婚の相談である。彼女の姉、この国一番の美女、ルナ・フローリアン侯爵令嬢の。

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