第154話 微妙に気まずい空気の昼食
俺が永久先輩から妙な忠告を受けた翌日。
いつもならいつメンで昼食を取っている頃だが、今日は大地が別の友達と一緒に食べる約束をしているらしく、それにかこつけて俺も一人で昼食を取ることにした。
ここ最近は怒涛の勢いで色々なことがあり、たまには一人で穏やかな時間を過ごしたいのだ。
いつぞやの昔では不良グループから逃げるために一人の環境を求めていたというのに、今度は俺を取り巻くわちゃわちゃ展開から一旦距離を取るために行動するとはなんとも不思議だ。
「でもまぁ、友達がいないよりかは贅沢な悩みだと思うけど」
あの頃は助けを求める相手すらいなかった。そう考えればもう俺の周りは友達だらけだ。
ただ、人間関係がここまで複雑化するとは微塵も思ってなかったけど。
いや~、全く......ハァ、やっぱ疲れるものは疲れるな。
そんなわけで俺は現在、普段なら向かうことのない屋上に向かってる。
いつもの東屋でも良かったが誰かと被る可能性があったから避けた。
今日は一人で食べたい気分なのだ。誰かに干渉されては困る。
「ふぅー、やっぱり誰もいないな」
屋上に出れば人気は無し。
少しぐらいは誰かいてもいいんじゃないかと思うほどにはスッカスカ。
まぁ、それを望んでたんだからいいんだけどね。
俺は入り口ドアのすぐ近くに腰を下ろし、弁当を広げる。
「いただきま――」
―――ガチャ
「......ハァ、嘘ついてまで一人で食うとか何してんだ俺......」
独り言を呟きながら屋上にやってきた大地と目が合う。
なんというかとても気まずい時間が流れた。
俺はそっと一人分のスペースを開けると、大地は無言のままそこに座る。
な、なんでだろう、なぜか今日は異常に会話に詰まるっていうか言葉に出来ない。
なんか隣に座ったしなんか喋らないととは思うけど、何も話題が出て来ない。
だったら、大地から話しかけて欲しいが、どうやら隣も似たような心境みたいだ......そんな顔してる。
とりあえず、弁当を食べ始めよう。うん、食事で気分を紛らわすんだ。
これといって待ちの姿勢でいても大地が話しかけてくる様子はないし。
そして、大地が手を合わせて食事の挨拶を始めようとした時、二度あることは三度起こった。
「いただきま――」
―――ガチャ
「......ハァ、まさか顔合わせづらいって理由で逃げてくるとか。何やってんだろあたし.....」
そんなことを独り言で呟きながらゲンキングがやってきた。
当然ながら、先客である俺達と無言で視線が合う。めっちゃ見て来る。
俺がまた一人分移動すれば、大地がさらに移動し、そこにゲンキングが座る。
さっきも思ったけど、気まずそうな顔する割にその場に留まるのね。
「「「......」」」
さて、どうしたものか。まさかこのメンツでここまで沈黙な時間が流れるとは。
普段のこの時間なら何かと大地とは話している。発言数的にはツートップだろう。
そして、ゲンキングとはサシで昼食を取ったことは無いが、少なからずしゃべらない彼女ではない。
特に、ゲンキングは大地の前では未だいつも明るい元気さんで通ってるはず。
となれば、陽キャモードのゲンキングはコミュ強のはずなので積極的に会話するはず。
されど、無い。何も無い。本当に無い。会話の“か”の字も発生しない。
だ、誰か話してくれ~~~~! とは思うが、きっとそれは二人も思ってるだろうな。
だって、無言で昼食取ってるせいか全員して妙に弁当の中身の減りが早いもの。
中途半端に口の中に残ってる状態で次のおかずに手を付けてリスみたいになってるもの。
くっ、まるで仲が良くも悪くもないコミュ障の陰キャ同士が集まったみたいになってる。
天気はいいのに雰囲気が完全にお通夜。気まずすぎる!
し、仕方ない。誰かが行動せねば状況は変わらないままだ。
「そ、その二人は......どうしてここに?」
俺は意を決して話しかけた。
心穏やかな時間を過ごしていたいのは山々だが、さすがにこんな空気は放置できない。
つーか、ケンカしたわけでもないのにこの空気はかえって心労を抱えるってものだ。
「お、俺は......その何となくそういう気分になって......」
「わ、わたしも......」
めっちゃ気まずそうに頬をかいたり、口角をヒクヒクと動かしたりして答える二人。
全っ然目が合わない。普段ならあっちから合わせてくるような二人なのに。
にしても、この異様な空気感はなんだ? 何もしてないはずなのに息苦しい。
「そ、そういや、大地はまさかの主役だよな!
頑張れよ、今やお前はクラスの顔になるんだからな!」
「そ、そうだな......俺がクラスの顔か......」
どこか微妙に乗り気じゃないというか乗り切れないというかそんな顔をする大地。
も、もしかして、玲子さんが意図的に大地を選んでることに気付いてる?
いやいやいや、それはさすがに無い......はず、恐らく、たぶん。
いかんいかん、また空気が淀み始めた。話を続けなければ。
「ゲンキングは? 何か役決まった?」
「え!?」
「東大寺さんから俺が作業班を割り振ってる時にメイン以外の役も決めたって言ってたから」
「あ、あぁ......そういえば、そうだったね。
わたしはヒロイン役の姉の一人になったよ。で、もう一人がレイちゃん」
そういえば、台本にはヒロインには二人の姉がいるって話だったな。
にしても、ヒロイン役の姉がまさかこうも女子陣のクラスの顔である二人になるとは。
あれ? でも、前に作戦立てた時に玲子さんは前に出ないつもりだったような?
「それって抽選箱で決めたんだよね?」
そんな質問をするとゲンキングは顔を横に振る。おっと?
「わたしとレイちゃんは言うなれば民意かな。
ほら、琴ちゃんもイメチェンしてかなり目立つようになったし、主役は薊君だしで、どうせだったらキレイどころで集めたらいいんじゃないかって話になったらしくて」
「......なるほど」
「それに美人な姉妹がヒロイン役をいびったりした方が雰囲気出るとかで。
あ、皆もちろん悪気があって言ってたわけじゃないよ!
割と本気になって意見言ってた感じだったし。
で、レイちゃんとわたしはその熱意に押されたというか」
ゲンキングは強めに行けば意外と押されるってのはイメージ付くが、まさか玲子さんまでが圧に負けたとは意外......もしかして演劇のキャスト決めで負い目とかあったのかな? だとしたら、悪いことしたな。
ちなみに、ヒロインの父親役は抽選で空太だ。
アイツにどちらかと言うと
もしかしたら、現時点でアイツが一番の癒しなのでは?
「ってことは、隼人以外はなんだかんだで全員役を演じることになったんだな」
そんなことを呟くと大地が思い出したように言った。
「あ、そういや、昼休み始まってお前が教室から出て行った後、隼人が自らナレーション役を立候補してたぜ?」
「マジで?」
あの面倒くさがりな隼人が? いよいよ永久先輩の言葉に信憑性出てきちゃったじゃん。
「あれ? 俺達のクラスに放送部の人居なかったっけ?」
「いるはいるけど、別にその人は立候補してるわけじゃないし。
やりたい人がいたらその人に任せるって話になるだろ?」
「そりゃ......まぁ、そうだな」
しかし、抽選箱での件があったのと先輩からの助言のでいやに勘ぐっちまうな。
ここは少しだけ探ってみるか? ただ、アイツが俺相手にボロ出すとは思えないんだがな。
そんなことを思っていると何やら視線を向けて来る大地が口を開いた。
「なぁ、拓海......お前って主役――」
「え?」
「......あ、いや、なんでもねぇ。聞こえてないならそれでいい」
やっべ、考え耽ってて聞いてなかった。
でも、言いたくなかったことっぽいし別にいいか。
なんか妙にゲンキングが横目で大地のことを見てるけど。
それから、俺達はポツリポツリとぎこちない会話テンポを刻みながら予鈴が鳴るまで話し続けた
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