第153話 もはや外野で何かが起きるのが定番になりつつある
―――琴波と莉子が話したその日の夜
『――ということよ。だから、なんとか最低限のキャスティングは出来たということね』
「な、なるほど......」
玲子さんと電話している俺は彼女からクラス会議での顛末を聞いた。
正直、玲子さんの推測から東大寺さんが抽選箱を持ってくる可能性は考慮して、それを踏まえてた作戦も用意してたけど......それは玲子さんがカバーしてくれたようだ。
というのも、東大寺さんが抽選箱を持ってきた場合、適当に理由をつけて俺がその抽選箱から引くことを考えていたのだ。
しかし、それを実行に移す直前で隼人が割り込んできて行動するタイミングを失い、なんとか巡ってきたかと思えば阻止され......そう考えると隼人がグルってのも納得だ。
「にしても、隼人の奴はなんで東大寺さんに加担してんだ?
二人には俺が見た感じだと接点なんてないはずだし、仮に接点があったとしたらいつの間にって感じだよ」
俺はゲンキングとの接触こそ避けていたが、隼人とはいつもの距離感だ。
で、ぶっちゃけ俺や大地、空太辺りにしか拠り所の無いアイツのことだし、ほぼずっと一緒に居たって言っても過言ではない。
『あの男は自分の面白いようにかき乱したいだけよ。
現にあの男の介入がなければこっちの作戦はほぼ上手く行ってた』
まぁ、隼人の属性は悪だしなぁ。そう言われると納得してしまう自分がいる。
しかし、アイツの目的が見えないな。
アイツは基本損得勘定で動くタイプの人間だし、ただかき乱したいだけの愉快犯とは考えづらい。
「今後も何かしてくることはあるかな~」
『あるでしょうね。ただ少なくとも今回のように直接何かをしてくることは無いんじゃないかしら』
「というと?」
『あの男は調子乗って出張ってきた所を私にやり返された。
であれば、私という天敵がいる以上、地上で絶対に尻尾は出さず、モグラのように地下で悪さするのがあの男よ』
「玲子さんはアイツのことをなんと思ってるのさ?」
『拓海君に憑りつく悪魔』
なんという端的でわかりやすい言葉だろうか。そこまで言わんでもとも思ってしまう。
相変わらずこの二人が仲良く手を取り合う未来は来ないのだろうか。
う~ん、仮に玲子さんが譲歩しても、隼人が今の状況を面白がってる可能性もあるしな~。
とりあえず、現時点では無理だろうな、うん。これだけは言える。
「にしても、なんか水面下でバチバチやってると思うとなんか頭脳バトル漫画みたいな展開で面白いね」
「余裕を持つのは大事だけど、現実から目を背けてはいけないわね」
「......はい」
玲子さんから叱られてしまった。
しかし、その意見はごもっとも。
というのも、ことが完全にこちらの有利に運んだわけではないからだ。
クラス会議ではとりあえずヒロイン役と獣役でそれぞれ東大寺さんと大地が選ばれるというのは、こちらとして理想的なキャスティングな結果となった。
なぜなら、この演劇を通じて二人の仲を深めようってのが作戦だから。
ただ、これには続きがある。
まずこちら側の考えとしては、その二人の仲を深める以上不安要素は出来る限り取り除きたい。
故に、その後の残り役であるヒロインの父親役並びに悪徳領主役に俺が選ばれることは避けたかった。
しかし、玲子さんの抽選で東大寺さんが選ばれた後、不正がないことを理由に隼人が抽選を東大寺さんに引かせ、そこで俺の名前が挙がったのだ。
『私はずっと
いえ、違うわね。読まれないように日常生活を偽り、水面下で行動してたのを気づけなかった私の落ち度というべきかしら』
「まぁまぁ、玲子さんはよくやってくれたと思うよ。実際、あの場面で俺は何も動けなかったし。
それに悪徳領主役でヒロイン役と関わるなんてそんなないだろうし」
ただ全く不安がないと言うと嘘になる。
なぜなら、東大寺さんが俺の紙を引いた時、チラッと見えた隼人の口元が笑って見えたから。
まるでこうなることも想定通りかのように。
「さすがに気のせいだよな.......」
****
クラス会議が終わってから数日後。
俺達のクラスは無事にクラスの出し物が演劇に決まり、早速それぞれ役割に分かれて作業を開始した。
「で、あなたは悪役になったのね」
そんな開始したその日の放課後、もはや当たり前のように空き部屋を占領している永久先輩に結果を報告すると、一番最初にそのような言葉が返ってきた。
「久川さんが上手くカバーしてくれたようね。手を組んだことは腹立たしいけど」
「そう言われても玲子さんしか相手がいなかったんだって。
ゲンキングは水族館以来ずっと不調だし、先輩は学年違い。
隼人は悪だし、大地に話すわけにはいかないし、空太はたぶんどこかで致命的なポンするし」
「わかってるわよ、それぐらい。だから、あなたが一年早く生まれて来ればいいだけだったことよ」
「そんななじられ方初めてです」
腕を組み足を組みでさらに頬まで膨らませてぷんすかな先輩。
そんな後輩に内側までネタバレされても不遜な態度は実に先輩らしい。
すると、先輩は机に置いてあった台本を手に取り、ペラペラ捲り始めた。
「でもまぁ、悪徳領主とヒロインの絡みなんてぶっちゃけほぼ後半だし、やり取り自体もそこまで多くない。だから、一矢報いられたって感じね」
「運が東大寺さんに味方したみたいですね」
何気なくそんな言葉をポロッと零すと、なぜか先輩は「運......?」と疑問形になった。
そして、彼女はさらに顎に手を当て、女性版考える人のようなポージングをし始める。
え、一体何がそんなに触ったというのだろうか。正直、全然わからん。
「ねぇ、悪役を引いたのは東大寺さんなのよね? その時、金城君は席についてた?」
「いや、玲子さんの番が終わった後にそのまま流れで東大寺さんが引いた感じで」
「なるほどね。だとしたら、たぶんしてやられたわ」
「......はい?」
やべぇ、またなんか変なこと言い出したよこの人。
でも、さすがの俺でもこう何度も経験すればわかる。
また、俺の考えもつかない所で新たな展開を迎えようとしてることぐらい。
俺にももう少し思考力があったのなら違ったのだろうか。
「どういうことですか? その言い方だとまるで隼人が意図的に玲子さんを動かしたみたいになりますけど」
「その通りよ。いえ、もっと言えばあの男は自分さえ介入出来れば、あなたや玲子さんが割り込んで来ようともどっちでも良かった」
おっとこれはまた推理パート始まるか? 関係者なのに外野の気分。
それから先輩は「これは推測なのだけど」と自分の考えを話し始めた。
先輩曰く、隼人にとって一番の目標は東大寺さんが引く抽選箱に如何に自分が関われるかだという。
隼人は東大寺さんとグルであるが、それとは別に何か自分なりの思惑を持っている。
そして、抽選に介入したのはその考えを実行するための地盤づくりだという。
そんでもって結果的に、隼人は無事に介入出来た。
「でも、その後玲子さんにやり返された後、なんだか不機嫌そうでしたよ」
「そういう演技の可能性があるわ。
ワタシも金城君とは少しだけ話したことあるけど、あの男はひじょ~~~~~~~~~~~~~~~~に厄介でめんどうでいけ好かなくて苦手なタイプ」
「よう溜めましたね。そんでそこまで言いますか」
「でも、頭の回転だけに関しては恐らく誰よりもグンを抜いている。
言っておくけど、ワタシの兄さんが一番よ!」
そこで引き合いに出された兄さんはびっくりだろうな。ブラコン発揮しなくていいです。
「ワタシが思うにあの男はたぶんこちらが思うよりも何手も先を読んでる。
そう考えると久川さんも上手くミスリードさせられた可能性が高いわね」
「さ、さすがにそこまでは......」
「なら、東大寺さんが悪役で拓海君を引いたことは?
言っておくけど、アレは偶然じゃないと思うわよ。
恐らく、手のひらにでも文章を書いておき、それをこっそりと東大寺さんに見せた」
ありえなくないと思ってしまうのがなんともなぁ。
「で、でも、それなら悪役よりもヒロインの父親役の方がまだヒロインと関わる機会多いと思いますよ!」
「そうなのよね......そこが少し引っかかるけど。
少なくとも言えることが一つあるとすれば、たぶんこの演劇は普通じゃなくなるわ」
「......」
......俺の求めていた青春はいつからこんな頭脳バトルみたいになったのか。
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