第152話 騒動の真相
―――ガールズサイド(東大寺琴波&安達莉子)
「ハァ、上手くしてやられたわね......」
琴波の部屋で苦々しい顔をしながらそう呟くのは莉子だ。
そんな言葉の発言理由は知っているが、イマイチ状況が呑み込めてない琴波は改めてその言葉の意味について尋ねた。
「それってクラス会議んことばいね? アレ、金城君が話に割って入って来てからようわからんっちゃけど」
「あぁ、金城君はこっちの仕込み。というか、協力者」
「......え? えええぇぇぇええぇぇえ!?」
突然の莉子からのカミングアウトに動揺が隠せない琴波。
一体いつから!? いつの間に!? というか――
「うち、協力者がおることは聞いとったばってん、金城君やったなんて聞いとらんのやけど!?」
琴波にとって隼人は苦手分野に入る存在だ。
ルックスこそイケメンだと思っているが、彼がかつて拓海をイジメていた不良グループにいた一人だ。
いくら拓海が今では仲良くしていようとあまり関わりのない琴波からすれば、拓海のおかげで少しだけ印象は減ったものの対して昔と大差はない。
そんな存在が協力者であることに初耳の琴波はすぐさま莉子に問い詰める。
すると、莉子は説明するのを面倒くさそうな態度を取りながらも、最終的には話した。
「しばらく前から協力の打診を受けてたのよ。で、あたしはその協力を受けた。
水族館の件なんて琴波に言ったことの大半はあの男からの受け売りよ」
「そ、そうやったんだ......それじゃあ、莉子ちゃんがうちに対してムカつくとか言うてくれたことも?」
「いえ、それは本心よ。でもまぁ、今回のことに関してはこれまで想定通りの流れで上手く行ってたから、手痛いしっぺ返しを食らった感じね。
......いや、正直アレがただのミスじゃなくて別に思惑があったとしたら気味が悪いけど」
「莉子ちゃん.......?」
心配そうに首を傾げる琴波の様子に気付いた莉子は「なんでもないわ」と答えると、この話の本題へと触れた。
「それじゃ、琴波にもわかりやすいように始めっから順を追って説明していくわね」
そう言って、莉子が話し始めた内容をまとめるとこうだ。
まず初めに拓海が委員長としてクラス会議を仕切り始め、話の流れで文化祭でやる演劇の主役級のキャストを選出することとなった。
その際、拓海は自前の抽選箱を既に用意しており、それでもって抽選を行おうとした。
しかし、その抽選箱はすでに仕組まれた抽選箱となっており、キャスティングは偶然を装った出来レース。
そのまま行けば拓海の思い通りのキャスティングになると思ったが故に、金城の力を借りた莉子は先手を打った。
それが東大寺が先に見せた抽選箱だった。
当然、その抽選箱も莉子の入れ知恵で細工がしており、抽選は不正が働いている。
そして、その抽選箱を先に出すことで、拓海が持っていた会話の主導権を奪取したのだ。
「当たり前の話だけど、同じ抽選箱AとBがあって、中身が同じと考えたならどっちも一緒だから先に出したAでいいって話になるでしょ?」
「確かに......」
その心理を利用するために莉子は琴波に先手を打つように指示し、琴波は見事に先手を取った。
その後、拓海が自分のを出して抗ってみせたが、その行動も読んでいた莉子は自らが“もっともな理由を一般生徒代表として言う”ことで阻止。
なぜなら、生徒にとって重要なのはどちらの抽選箱でやるのではなく、その抽選箱で誰が選ばれるのかということだから。
「で、うちが話ば受けたんなそんままうちが抽選箱ば引くって流れ。ばってん、実際は金城君が介入してきた」
「ま、それはわざとなんだけどね。下手にあなたに言うとどこかでボロを出すか、語るに落ちる結果になりそうだったし」
琴波に対し内緒で作戦に介入した隼人の行動は莉子の言葉の通りだ。
猪突猛進ガールである琴波には感情の起伏で突拍子もないことを言ってしまう悪癖がある。
特に隼人が関わっていることなんて拓海側には知られたくない事実だ。
だからこそ、あえて琴波には隼人の存在を知らせず、クラス会議でもって介入した。
そして、隼人の介入の意味はクラスメイトから疑心の芽を取るためのパフォーマンスである。
「まぁ、普通に考えて抽選箱に不正してると皆が考えるとは思いづらいけど、あたし達のクラスには人気者がいるから一応ってところね」
抽選箱を引こうとしている琴波を隼人がいちゃもんつけて指摘する。
その状況を客観的に見たのなら、二人は対立しているような構図となる。
その対立構図の印象を与え、さらにいちゃもんをつけた隼人が抽選箱を引くことで、その抽選箱には不正がない、もしくは隼人の
そして、その作戦はつつがなく成功――したかと思われたが、玲子の介入によって流れが大きく変わることになった。
「久川さんが介入してることは想定外だったわ。いえ、考えられてたけど、行動に移すのはあくまで早川君の方だと思ってた」
「どげなこと?」
「あなたと金城君がグルだってことを早川君が指摘するってことよ。
早川君が抽選箱の作戦を一人でやるとは思えない。必ず味方がいる。
で、金城君、元気さん、久川さんの中だったら消去法で久川さんになる。
だけど、彼女はあくまで早川君を下から支えるだけだと思ってた......でも違った」
実際、拓海がグルを指摘するだけだったらどうにかなった可能性はある。
というのも、仮に拓海が指摘したとしても、琴波は隼人とグルという事実は知らない。
そして、感情の出やすい琴波のことだ。すぐにその言葉の意味に驚く。
その感情は嘘などない混じりっけない真実の感情だ。
となれば、色んな事を経験し熟考することを覚えた拓海はまず自分の考えを見直し、さらに新たに得た情報でもって再度推理を始める。
そこに友人である隼人の悪魔のささやきが加えられるのだ。
その言葉は何でもいい。真実味があれば尚更いい。
例えば「俺がここ最近でお前に何かしたか?」など。
すると、拓海にとって隼人は友人であり、さらに言った言葉に真実味があればその言葉を信用するだろう。
「そうなれば、もはや早川君はこっち側に抱き込んだも同然。不正はし放題だった」
「はぁ~~~、なんか難しゅうてあんまりわからんやった。
にしたっちゃ、なんか裏でバチバチやっとーとってなんか面白かね!」
「のんきな感想ね。忘れてないでしょうね? それによってもたらされた結果を」
「うっ......はい......」
拓海が介入するルートであれば良かったが、結果は玲子が介入してくる事態となった。
隼人がいちゃもんをつけ始めた時点で動き始めた玲子は、隼人の言葉を逆手に取って無理やり莉子の企てた作戦を介入し、結果姫役の相手である獣役を大地にした。
「そこがようわからんっちゃけど、なんで久川さんな都合よう薊君ん名前が書かれた紙ば引けたと?」
「引いてないわよ。あの時、彼女が引いて見せた紙は恐らくノートの切れ端でしょうね。
それを上手く袖の中に隠し、抽選箱に手を突っ込んだ状況を利用して袖から紙を取り出し、偶然薊君の名前が書かれた紙を取り出したように演じてみせただけ」
「な、なんやって!? 久川さん、凄か.......」
本気で驚いている琴波に呆れ顔をする莉子。全くこの友人はことの重大さを理解していない。
「琴波、どうして久川さんが薊君の名前を出したかわかる?」
「え? 獣役としてピッタリやけんなんやなかと?」
「本気でそう思っているならバカ以前に脳のしわが無さそうね」
「そこまで言うことなかろうもん! 脳年齢で40代ぐらいはあったばい!」
「そこはせめて20代でありなさいよ......じゃなくて、これから導き出されることは薊君はあなたのことが好きなのよ!」
「.......え? えええええぇぇぇぇええぇぇええええ!?!?」
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