第105話 エロ同人未遂
ギュルルルル~~~。
盛大の腹の音が鳴った。
平たいタイプの浮き輪に寝そべりながら、そっとお腹を押さえる。
「腹減った~~~」
原因はゲンキングを怒らせてしまったこと。
せめてもの優しさが紙コップに入った唐揚げのみ。
こういう体形してる人は食べれば余計に腹減って来るんだよ。
故に、ゲンキングの優しさはかえって俺にとっては重たい罰だ。
このままでは太陽の日差しで干からびてしまう。
......この場合、やはり水分が先に抜けてしまうものだろうか?
脱水症状という言葉がある通り、脂肪が代わりに燃焼されることは無いんだろうな。
世知辛い世の中だ。トホホ.....。
「拓海君、お腹空いた?」
浮き輪で浮かんでいると、ザバァンと海面から玲子さんが顔を出してきた。
水も滴る良い女とはこういう人をさすのだろうな、と一瞬にして思ったね。
夏場に流行る水に濡れても大丈夫系のサンオイルのCMに出てきそう。
玲子さんは前髪をかき上げ、浮き輪に腕をかけながら見て来る。
普段の玲子さんよりなんかカッコよさというか、大人っぽさが増えてる気がする。
確か、額の見える面積でパッと見の年齢が変化するんだっけ。
額が隠れてれば実年齢より幼く見られがちで、額が出てればその逆。
カッコいいと可愛いのバランスが完璧で究極の存在になってる。
「どうしたの、玲子さん?」
「拓海君がお腹を押さえていたからね。
それに唯華がなぜか固くなり拓海君に昼ご飯を与えようとしなかったし。
何かあった......かは、まぁ、おおよそ予想がつくわ」
玲子さんが見る砂浜の方には、今スイカ割りが開催されてる。
メンバーは俺達以外がやってるみたいだ。
でた、夏でよく見られる光景。
でも、実際やって食ってみれば、スイカが生ぬるくで美味さが半減してるやつ。
「というわけで、私がこっそりめぐんであげるわ」
「え、本当か!?」
「えぇ、もちろん。というわけで、バレないようにあっちの岩場の陰にでも移動しましょ。
安心して、人目に付きにくい場所だから安心して食べられるわ」
玲子さんが浮き輪を押しながら泳ぎ始める。
少しすると、岩場に到着し、俺は浮き輪から降りた。
玲子さんが食べ物を取りに行ったので、その間に熱をもった体を海水で軽く冷ます。
しかし、夏の日差しの威力は半端なく、あっという間に体表の水分は乾いてしまった。
「おまたせ。これ、焼きそば」
「ありがとう。それじゃ早速、いっただきまーす」
ゲンキングには申し訳ないが、この日差しの中でエネルギーを摂取しないのは逆に危ない。
というわけで、俺は美味しくいただきます。うめ~~~~!
「ふふっ、そんな慌てなくて大丈夫よ。ほら、口元汚れてる」
玲子さんはビニール袋から取り出したポケットティッシュで俺の口周りを拭いた。
なんだか自分が小さい子になった気分で恥ずかしい。
やはり玲子さんからすると俺はそう見えてるってことなのか。
俺が夢中になって焼きそばを食べていると、玲子さんはフラフラと波打ち際へ歩ていく。
そして、ゆっくりと海の中へ体を沈めていった。
「玲子さん、海が好きなんだね」
「どうしてそう思うの?」
「なんかさっきからずっと泳いでるからさ」
昼ご飯を食べ終えた後、他の連中がある程度固まって動く中、玲子さんは一人泳いでた場面もあった。
「そうね、それはたぶん初めて家族で海に来た時が楽しかったからね。
といっても、小学生の時の一度きりだったけれど」
玲子さんからそんな話を聞くのは初めてだ。
あんまり自分のことを話さないからな。
まぁ、こっちが聞いてないからってのもありそうだけど。
「逆に拓海君は泳がないわね。あまり姿を見かけないわ」
「お恥ずかしい話、カナヅチなもので」
というか、泳ぐことは好きだけど、皆で泳ぐには苦手意識あるんだよな。
中学の時、それで周りからバカにされたことあったし。
もちろん、今の皆がバカにするとは思わないんだけどね。
そういうのって意外と踏ん切りがつかないことが多くて。
「なら、私が教えてあげるわ。二人っきりでね」
「ありがとう、助かるよ」
まぁ、いずれは理想の自分に近づけるためには、苦手は潰しておきたいしな。
泳ぎが上手い玲子さんの力を借りれるならきっと大丈夫だろう。
喉に張り付いた焼きそば脂っぽさをドリンクで流していく。
その時、小さな悲鳴が聞こえた。
「キャ!」
「んっ!? 玲子さん、どうしたの......」
一瞬むせかけながらも、慌てて玲子さんの方を見る。
すると、そこには両腕で胸を覆い、頬を赤らめる玲子さんの姿があった。
見ただけでわかる。玲子さんの水着が......無い!
「れ、玲子さん......水着......もしかして流された?」
そう聞けば、玲子さんはそっとそっぽ向き小さく頷く。
これは緊急事態だ! 泳いでた最中に流されたとなれば、ある場所は海の中!
しかし、俺は悲しいことに泳げない!
「ちょっと待ってて、皆をゲンキングと永久先輩に協力を仰いでみる!」
俺は急いで岩場から離れ、皆がいるビーチに動き出す。
「待って!」
瞬間、玲子さんに両肩を掴まれ、そのまま背後でみっちゃ、み、みみみ、ちゃく、ちゃちゃちゃ。
あわわわわ、なんかものすっごい柔らかい物体が背中から感じる。
これはアレだ。まず間違いなくアレだ。
だって、状況的にアレしかないもの!
少しひんやりしたようなスベスベな肌が肩から背中にかけて感じる。
逆に、俺の体温は急上昇していく一方なのだが。
神経がまるで背中にあるかのように......意識が!
「待って、行かないで」
「で、でも、水着を回収しないと......」
「わかってるけど、このまま一人にされるのも......」
そ、それも、そうか。
こんな所に半裸の玲子さんを一人置いて、万が一ここにどこぞの野郎が来たとなれば、俺の嫌いなエロ同人みたいな展開が始まる可能性がある。
そう考えるとむやみに動くことは止めた方がいい......のか?
でも、それだと助けを呼べなくなる。
それに水着もどんどん今の地点から遠くへ流される。
一歩、また一歩。俺の足は意思に反して歩いていく。
向かう場所な岩場の奥の方......って、なんで俺はこっち向かってんだ?
アレ? なんか、うわっ!? 背中の密着度合いが!?
やっぱこれ押されてないか!?
意識が女性の神秘の方へ注がれてしまう。
人類が皆、偉大なる母の恩恵で育ってきたように。
だけど、こっちの方向はビーチから離れてるわけで。
「拓海君......」
玲子さんの熱のこもった吐息が耳元に感じる。
囁くような声。不意にくるゾワッとした感覚。
これは......俺がエロ同人の竿役になりかねない!
「問題......ないわ」
玲子さんが背中から離れた。
振り返れば、そこには――
―――ビシャアアア
後頭部から盛大に水をぶっかけられている玲子さんの顔があった。
「へぇ、日立君から借りたこの電動水鉄砲。結構な威力を連発で発射できるのね。
それでそこの発情期のメス猫さんは、一体こんな岩場で何をしようとしてるのかしら?」
先輩がデカい水鉄砲を掲げながら、立っていた。
玲子さんの顔は先輩の方へ向いていて表情こそわからないが、言い得ぬ恐怖が出てる気がする。
だって、肌がピリつくもの。
「それにご丁寧に水着が引っかかてたわよ。あの位置じゃとても流れそうにないわね」
「どうやら戦争がしたいようね。受けてあげるわ」
「勝てるかしら。少なくともこの武器がワタシの方にあるうちは」
玲子さんは颯爽と走り出すと、先輩につき返された水着を回収し、逃げた先輩を追いかけ始めた。
なんかよくわからないけど――
「助かった......」
無論、しばらく“自然回復”のためにその場に留まった。
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