第103話第 三人寄っても姦しくない
―――ガールズサイド
「行くぞ、大地」
「おぉ! そら、よ!」
「行ったぞ! 拓海」
「任せんしゃい!」
現在、砂浜では灼熱のビーチバレー対決が行われている。
行っているのは拓海、大地、空太、隼人の四人。
中々の白熱した戦いを繰り広げているためか、足を止めて眺める人たちもいる。
そんな中を同じようにレジャーシートから眺めていた玲子、唯華、永久の三人。
先ほどまで日焼け止めを塗りあってくんずほぐれつしていた三人は休憩がてらに眺めていた。
「ふふっ、拓海君活き活きしてるわ」
ビーチバレー―特に拓海―を見ながら微笑む玲子。
その笑みはまるで砂浜ではしゃぐ子供を微笑ましく見る母親のよう。
その態度を横目で見た永久は口を開いた。
「相変わらずあなたって拓海君が好きなのね」
「えぇ、そうよ」
「いよいよ隠さなくなったね、レイちゃん......まぁ、ほぼ確信に近いほどわかってたことだけど」
恥じることなしと堂々と言ってのける玲子に逆に感心する唯華。
こういった姿勢の一旦が彼女が玲子に憧れを持つ要因の一つなのかもしれない。
「今更隠したってどうなることでもないわ。
私の気持ちは変わらないし、それで周りが勝手に降りてくるならそれで結構。
もっとも、話はそんな簡単じゃないみたいだけど」
心当たりがあるように目を逸らす唯華と永久。
口がごにょごにょと何かを言いたそうだが、上手く言葉に出来ていないのか口から出てくることは無かった。
玲子は保冷バッグからドリンクを取り出し、飲んで火照った体を冷やしていく。
ついでに口も滑りやすくしたところで、永久に聞いた。
「白樺先輩は結局何がしたかったの?」
「どういう意味かしら?」
永久が玲子に怪訝な目を向ける。
あぐらをかく唯華も興味を持ったように耳を傾けた。
「そのままの意味よ。先輩が拓海君と結んでいた関係は、もとはあなたが開拓したがっていたラブコメ小説の疑似体験の一環のようなもの。
しかし、実際はそんな関係を度外視してまで、あなたは拓海君に何かを縋っている。
しかも、態度から見るに自分でも何に縋っているが理解していないみたいだし」
「......そうね、確かにわかってないわ。
ワタシは拓海君に重ねていた兄への想いを打ち明けることで、気持ちの整理がつくと思っていた。
だけど、実際はそれをやっても気持ちの整理がつかなかった」
「今って、それを解決するために拓ちゃんに相談して、それが私達の協力を必要とするまでに至ったわけですよね?」
「えぇ、そうね。本当にあなた達には迷惑をかけるわ」
玲子はチラッと横目で永久を見る。
永久は視線を落とし、ぼんやりと三角座りした足元を見ていた。
「ハァ、正直、あなたが何に悩んでいるのか全く分からないわ」
「それはそうでしょう。ワタシ自身にもわからないものを――」
「そういう意味じゃない。自分で自分の気持ちに蓋をしている人が、自分の気持ちがわからないって言ってる姿がわからないって言いたいのよ」
玲子は立ち上がると、近くに置いてあった浮き輪を抱える。
目の前で繰り広げられてるバレー対決もそろそろ決着がつきそうで、終わった流れで拓海を誘おうとしているのだ。
玲子のまるで自分の心を見透かしているような発言に永久は一瞬思考が止まった。
すぐさま立ち上がると玲子に尋ねる。
「あなたはワタシの気持ちの正体を知ってるの!?」
歩きだした玲子は立ち止まる。顔だけ振り返り、言った。
「答えてやる義理は無いわ。臆病者に何言ったって、自分を守るために嘘をつき続けるんだから」
玲子は一人砂浜を歩いていく。
彼女が一人になった瞬間を見計らったように、二人組のナンパ男が接近したが、華麗に無視して拓海達の方へ向かって言った。
玲子の無慈悲とも言える言葉に、永久はゆっくりと座っていく。
再び縮こまるように三角座りをした。
「ごめんね、レイちゃんの言葉がキツくて」
唯華が玲子のフォローを入れていく。
永久は力なく答えた。
「大丈夫よ。なんとなく言いたいことはわかったから......いえ、違うわね。
きっとワタシが気づいて無視し続けた事実を突きつけてきたかもしれないわ。
だからこそ、彼女の芯の強さがとても羨ましく感じるわ」
永久の言葉に唯華は笑って頷く。
「ホントだよね~、きっとあーいう人が自分を持ってるって言うんだろうね。
自分の考えを持って行動できる......やっぱ自信を持ってる人ってカッコいいもん。
まぁ、だからこそ、人を傷つけちゃう時もあるんだけど」
「それは誰しもが通る道よ。どれだけ寄り添うようにしても限界がある。
むしろ、ワタシ的にはあそこまでハッキリしてくれた方が助かるわ」
「でも、レイちゃんは傷つけようとして言ってるわけじゃないのは絶対だよ?
さっきだって一見圧のある言葉に聞こえたと思うけど、アレはアレで実はレイちゃんなりのアドバイスだったりするんだから」
「あの言葉の強さをアドバイスと冷静に受け取れるかは受け手の技量が試されるわね」
「アハハハ......」
唯華は乾いた笑いしか出なかった。
そこら辺は彼女にも思う所があるのかもしれない。
永久はひざに顎をのせると、横目でチラッと唯華を見る。
視線を正面に向ければ、大型水鉄砲を両手に抱える拓海、そんな彼に守られながら拳銃タイプの水鉄砲を持つ玲子、それぞれ異なったタイプの水鉄砲を持つ悪役三人がいた。
「今、とても楽しそうよ。混ざって来ないの?」
「そうだね。でも、先輩を一人にはしておけないかな」
「随分優しいのね。ワタシは一人でも問題ないのに」
「一人だとつまんないし、ナンパ被害にだって遭うかもしれない。
それに、こういう時に一人にしてくれない人のせいで、わたし自身の考え方も変わっちゃったのかもね」
「拓海君かしら」
「わかってるなら口に出さないでください......」
唯華は頬を赤くしながら、恥ずかしさを誤魔化すようにヘラヘラと笑う。
その表情をなぜだかじっと見つめる永久。
「ほら、来ましたよ。超お節介が」
唯華の言葉に永久は視線を正面に向ける。
正面から拓海が小走りで走ってきた。
「ふぅー、海気持ちいいっすよ。二人は来ないの?」
「ん~、インドアだからな。暑さ天敵なんよな~」
「ワタシはいいわ。今も十分楽しめてる」
唯華と永久の言葉を聞き、拓海は少し考えると永久の横に座った。
「なら、俺も休憩しよっかな」
「遊びたいなら遊んで来ればいいのに」
「それもいいですけど、きっと別にこれが最初で最後ってわけでもないと思いますし」
永久は首を傾げた。
「あなた、またワタシ達と来たいの?」
「ん? 当たり前じゃないですか」
永久は大きく目を見開いた。
小さく息を呑むのを感じ、顔を拓海からそっぽ向ける。
しかし、その方向は唯華からは丸見えだった。
「太ってるくせに......」
「ハハ......これでも痩せた方なんですけどね。
来年こそはパーフェクトボディになってみせますよ!」
「大丈夫? 拓ちゃん、なんだかんだで皆の誘いに付き合っててリバウンドしない?」
「......大丈夫、ダイジョーブ!」
「明らかに間があったわよ。リバウンドの方が太りやすいのだからね」
落ち着きを取り戻した永久はこれまで重かった腰をようやく上げた。
数歩歩き、ビーチパラソルの外へ出る。
憎いほど眩しい太陽に手をかざしながら眺めた。
「仕方ないわね。水泳はダイエットに効果的って聞くし、少しぐらいなら手伝ってあげるわ」
「お、マジすか!? 行きましょう!」
「あ、待って、わたしを一人しないで! わたしも行く!」
そして、三人は海へと向かって行った。
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