第102話 最終的に一番いいポジションになった
玲子さんからかけられた言葉に俺は耳を疑った。
俺はその言葉が間違っていたと思って確認してみた。
「なんて言ったの?」
「日焼け止めを拓海君に塗ってあげるわ」
間違ってなかった。
この人は急に何を言ってくるのか。
加えて、塗られる側ってそっちなんだ。
普通というかイメージだけで言えば、塗られるのはそっちではないのか?
「大丈夫、自分で塗れるから」
「遠慮することないわ」
「遠慮してないんだが」
無駄に圧が強い。真顔でこっち見ないで。無駄に真剣な目をやめて。
玲子さんが俺に日焼け止めを縫ってなんのメリットがあるって言うのさ。
恥ずかしさと気まずさで海へ逃げようと試みた。
しかし、腕を掴まれて逃げられなかった。
レジャーシートに引きずり込まれる。
玲子さんのニオイとほぼ裸のような恰好での距離感に頭がイカれてしまう!
「レイちゃん、そこまでだよ」
俺はその声に素早く反応する。
座る俺と玲子さんの目の前にはゲンキングの姿があった。
腰に手を当てて堂々と立っている。
太陽の光も相まって後光が差してるように見えた。
やはり神はいたんだ!
ゲンキングは目線を合わせるようにしゃがんだ。
彼女は意外と着やせするタイプなのか寄せられた胸に谷間が出来る。
やべ、目を合わせるな。石になるぞ、俺!
頬に熱を感じながら、なんとかそれとなく態度で誤魔化していく。
そして、ゲンキングへ声をかけた。
「ゲンキングか、良かった。ゲンキングからも何か言ってくれよ」
「そうだね、レイちゃんはもっと夏を楽しんできた方が良い。
だから、その役目はわたしが代わりにやるから」
違う、そうじゃない。その行為自体を止めて欲しかったんだが。
それだと結局俺のポジションはそのままで、玲子さんからゲンキングにチェンジするだけじゃん。
俺、別にゲンキングにはドキドキしないとは思ってないのよ。
むしろ、前に告白紛いな展開になってから、女子を微妙に意識しちゃってんのよ。
思春期特有の体も相まって、反応速度が著しいのよ。
だから、出来れば大人しくしてて欲しいというか。
いつも通りの距離感で居て欲しいというか。
そういう感情は俺にはまだ早いと思うのに!
「急に何を言い出すかと思えば、随分と強気な態度に出るようになったじゃない」
「レイちゃんのことは好きだよ。もちろん、尊敬もしてるし、憧れてる。
だけど、それはそれ。これはこれ。
レイちゃんがやるぐらいならわたしがやった方が良いと思う。
そういうわたしを認めてくれたのは他ならぬレイちゃんだしね」
「今になって私の行動に口を出すのね」
「友達の領域としてこれは違うと思う。
それにレイちゃんの場合は暴走して危なっかしいと思うしね」
あれ、おかしい? なぜか玲子さんとゲンキングが目の前でバチってる。
あなた達協力者じゃなかったの? 俺の勘違い?
玲子さんとゲンキングは互いに一歩も譲らない。
視線を合わせてはどちらも逸らす気配がない。
すると、これ以上の睨み合いは不毛と思ったのか、二人とも小さく息を吐いた。
「これ以上は埒が明かないわね。なら、決めて貰う方が早いわ。あなたにその覚悟があるかしら?」
玲子さんが暗黒微笑を浮かべる。
ゲンキングはムムムッと反応した。
あ、あの顔はゲームしてる時にスイッチが入った時の顔だ。
あの煽り言葉に本格的に負けず嫌いスイッチ入ったかも。
「やってやりますよ! これ以上、煽られてそのままなんていられないからね!」
出来れば我慢して欲しかったですよ、こっちとしては。
玲子さんとゲンキングは二人して横並びになると、レジャーシートにうつ伏せで寝転がる。
もちろん、ゲンキングは来ていたパーカーを脱いでまでだ。
露わになったきめの細かい肌と、プリンと効果音が鳴りそうなお尻。
もはや一生分の肌色を摂取したかのように、俺の目から大量の情報が送り込まれてくる。
意味もなくツバを呑み込んでしまうのは仕方ないことだ。
「こ、これは......?」
わかってるけど言葉に出た。
出来れば違って欲しかったのかもしれない。
「日焼け止めを縫って欲しいのよ。
どっちが先に塗られるかで、拓海君に塗る権利を得るの」
「俺はその権利を与えたつもりないんですけど......」
友達の女子の......それも美少女の背中がこんな目の前に。
小さく強張った肩甲骨に、キュッとしまったウエスト。
そこから主張する大きすぎず小さすぎずのお尻。
さらにそこから伸びる均整の取れた美脚。
俺の意識はまるでボクシンググローブで殴れられているかのように衝撃で飛びそう。
これってなんていう俺得? こんな状況、一体誰が望んで得られようか?
サッサとこの場を離れようとしていた意識も消し飛んだ。
正常な肉体年齢をしているこの体が一歩も動かないのだ。
同時に、性欲もあまり湧いていない。
いや、正確に言えば、この肌を俺が塗って汚していいのかとすら思っている。
さっきの水着を見た時も思ったが、本当に奇麗なものや美しいものを見た時、思ったよりも性欲が湧かない。
その意識が今の俺のほとんどだ。
「どうかしたのかしら、拓海君?」
「拓ちゃん、早めに。こっちも恥ずかしいから」
二人が覗て来る。その仕草が俺の意識に余計に拍車をかける。
その時、玲子さんがハッとした様子で何かに気付いた。
「わかったわ。外すのは抵抗があるのね。これならどう?」
玲子さんが首にあったビキニの紐を解いた。
その瞬間、ビキニはひらひらっと両側に開き、横乳が露わになる。
あ、あぁ、あ......!
「そ、そうなの? んぐ~~~~、えい!」
ついにはゲンキングも外した。当然、結果は同様だ。
俺はついに見てられなくなった。
見たら俺の意識が爆発しそうだったから。
しかし、俺がいつまで経ってもこの状態なら、二人とも困るだろう。
せっかく海へ遊びに来たというのに、一日がこの状況で終わってしまう。
なら、俺がやるしかないのか? え、本当にやるしかないのか?
何か考えろ、この状況を脱出する方法を。
もうこれ以上は無理だ。何が無理って......そりゃもう色々とだ。
世の作品で日焼け止めを塗ってきた男達の精神力はどうなってんだか。
フィクションとしてもあまりにも性欲コントロールが強すぎる。
美しいものを見た時、あまり性欲は湧いてこないと言った。
しかし、湧かないわけじゃない。
チョロチョロと流れ出る水もやがてはコップを満杯にする。
それが今、俺に起きようとしているのだ。
「せめて、二人とも前向いて......」
顔を手で押さえながら言った。
チラッと確認すれば、前を向いてくれた。
しかし、状況は変わらない。
その時、俺の肩にポンと手が置かれた。
「ひゃっ! ぬ、塗られてる!?」
ゲンキングの背中に手が置かれる。
ぬりぬりぬりぬり。隅々までしっかりと。
「くっ、まさか唯華に後れを取るなんて!」
「ひゃわっ! 拓ちゃん、そこは.....んっ、ダメ」
「拓海君、あなた何をして――ひゃいっ!」
玲子さんは漏れでた声に対し、慌てて手で口を覆う。
塗られる感触に体が耐えきれないのかビクッと反応していた。
「拓ちゃん、レイちゃんにまで......んひっ!」
「拓海君、嬉しいけどこれは勝負なんだからしっかりと決めてもら......ん!」
「あら、どうして拓海君に塗ってもらえていると思ってるのかしら」
「「っ!?」」
突然の声変わりに玲子さんとゲンキングは慌てて振り返った。
そこにいるのは俺の代わりに日焼け止めを塗った永久先輩。
俺はその横で眺めてただけ。いや、そりゃ......見るでしょ、ね?
「あ、あなたどうして!?」
「ふふっ、久川さんもそんな慌てたような表情をするのね。なんだかさらに見たくなるわ」
「やめ.....んん!」
「いつの間に、拓ちゃんから先輩に?」
「あんまりにも困ってそうだったから助けたのよ。
それにワタシが少しの間メールチェックしてる間に、仮にもワタシの恋人を誘惑しないでくれる?
これはその罰よ、とくと味わいなさい」
「あひゃっ!」
それからどことなくインモラルな雰囲気を纏いながら、先輩による日焼け止め塗りは行われた。
俺はその光景を最初から最後まで見てました。
その後、二人から反撃を食らう先輩の姿もしっかりと見てました。
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