第101話 海の魔物
常夏の浜辺というのはこういうことを言うのだろうか。
太陽光を反射して白くキラキラ光る砂浜。
潮の香りを運んで来るやや温い海風。
そんでもって照り付ける太陽。
これぞまさに―――
「「海だああああ!」」
俺と大地は盛大に叫んだ。
見ただけでテンションが上がってる辺りはとても子供っぽいが、俺にとっては(精神的に)何十年ぶりの友達との海。
テンションが上がらないはずがない。
周囲を見渡せばすでにたくさんの人達で賑わっている。
友達連れやカップル、夫婦、家族などその形態は色々だ。
そんでもって、ついつい視界に収めてしまうのがビキニの女性というべきか。
こう考えると、どれだけ精神が衰えてても結局それなりの性欲は抱えてるんだなとわかるな。
なんだかひと昔前の海でナンパする主人公の気持ちが分かってしまう。
夏の魔物にテンションが爆上がりだー!......ん?
突然視界が暗転した。
もちろん、意識が途絶えらわけじゃない。
これは......誰かの手?
「ダメよ、拓海君。これ以上は目に毒よ。わざわざ視線を合わせて狼を誘う必要はないわ」
言ってきた相手は玲子さん。
これって前に言ってたことも合わせると、この場合の意味は、狼は“女性”のことを指す。
なんだか玲子さんは俺が他の女の人に言い寄られることを警戒してるようだけど、そんな心配は微塵もする必要ないからね?
むしろ、俺の周りの奴らの方が声かけられるよ。
「それを言うだったら、玲子さん達の方が気を付けるべきだよ。
夏の陽気に惑わされて変な奴らが出て来ないとも限らないんだから」
「大丈夫よ、私は拓海君から離れるつもりはないから」
「それはそれでどうなのよ。もっと皆と遊びなよ」
相変わらず玲子さんは確固たる意志を持っていってる気がする。
そんな力強い目をしてる。それが断りづらくして若干困る。
「あら、それを言うならワタシの方が一緒の方が良いんじゃない?
こんなに可愛くて幼気な容姿にどこの変態が湧いてもおかしくないからね」
永久先輩が話に割って入ってきた。
その言葉に反応したのは玲子さんだ。
「大丈夫よ、誰もあなたのような貧相な体には興味ないわ」
「自分の方が魅力的と語るなんて随分と傲慢な考え方ね。
そういう押しつけが束縛に繋がってるんじゃない?」
バッチバチ。そりゃもう、バッチバチよ。
俺の後ろで溶接現場のような火花の散り方してる。
大地、ゲンキング、頼むから俺に「どうにかしてくれ」って視線を送ってくるのは止めてくれ。
俺にもどうしたらいいのかわからないんだ。
あなた達友達なんですよね?
「なぁ、さっさと海行かないか?」
その時、声を出してくれたのは空太だった。
こやつ、
「俺は! 海で! 泳ぎたい‼」
ふぅー、さすが空太パイセン! 欲望に忠実だー!
俺の空太に対する好感度が上昇する中で、その提案により各々水着に着替えていく。
俺はもちろん中学時代からのカーキーの海パンだ。
大地は普通だったが、隼人がなぜか競泳用水着で、空太は案の定青い稲妻がデザインされた海パンだった。
空太はまぁわかるとして、隼人.....お前はなぜそのチョイス?
「隼人、普通の海パン無かったのか?」
「買うほどでもなかっただけだ。一年で履くかどうかも分からない物に、デザイン性だけで買うなんて不経済だ。
だったら、中学の時から使ってたもんで代用的には十分だろ」
「見てくれは大事だろ。お前はそういうの気にするタイプだと思ったけどな」
「ある程度長期間誰かに見られるだったら未だしも、この時ぐらいにしか見られないやつに合わせる必要はない」
「お前の姉貴は気にしそうだけどな」
「あぁ、心底ウザってぇほどに海パン買ってきやがって」
イライラした隼人は大きくため息を吐いた。
そのため息から垣間見える疲労感は俺が母さんから感じたものに通ずる気がする。
そっか、お前も苦労したんだな。
一足先に着替えた俺達はせこせこと拠点を作っていく。
レジャーシートやビーチパラソルを設置して、さらにはビーチボールや浮き輪に空気を入れていく。
足踏み式空気入れでもって交代しながら空気を入れていると、周囲がちょっとばかし騒がしくなった。
なんやなんやと視線を向けてみれば、そこには美少女三人の姿があった。
右サイドを歩く可憐な少女は永久先輩。
白髪のツインテールに合わせた水色のビキニに、花柄のパレオを巻いている。
結局、俺が選んだやつを着て来たか。
左サイドを歩くのは茶髪のポニーテールが輝くゲンキング。
黄色い水玉のビキニに、パーカーを合わせた姿がどことなく
そして、中央を歩くのがゲンキングと合わせたようにポニーテールの玲子さんだ。
銀髪をなびかせて、高校生でありながら圧倒的スタイルを持つ肉体をより象徴するような大人な白ビキニ。
パレオやパーカーを纏うわけでもなく、ただ堂々たる姿で歩いていた。
周囲の人達が目が釘付けになったように通り過ぎる。
どこかでナンパしてたであろう男達も、彼女達の美貌に見惚れて立ち尽くしているようだ。
女三人寄れば姦しい。ただし、この場合正しい意味ではなく、うるさいのは周りの方だ。
だから、今の状況を正しく表現するなら、女三人寄ればモーセの海割りだ。
「お待たせ。待たせたかしら」
玲子さん達が目の前にやってきた。
ここまで来れば流石の俺のフィルターも壊される。
眩しい。まるで後光が差しているような。
否が応でも見惚れてしまう。
その反応を示したのは俺だけではなかった。
「俺、初めて生きてて良かったと思ったかもしんねぇ」
大袈裟なことを言う大地。
「あ.......あ......」
言葉がちい〇わまで言語退行する空太。
気持ちはわかるぞ、二人とも。これは間違いなく素晴らしい光景だ。
隼人だけは相変わらずそっぽ向いてるが。
「それでどうかしら感想のほどは?」
童貞感丸出しの俺達に、頬をほんのり赤く染めた玲子さんが容赦なく聞いてくる。
その言葉に両サイドはビクッとした様子で彼女を見る。
玲子さん以外の二人はそれぞれ片腕に手をかけて、恥じらいを見せる表情でそっぽ向く。
されど、何かしらの期待は持っているかのようにチラッと視線を送って来る。
「と、とてもよくお似合いだと思います!」
「右に同じく!」
「......(コクリコクリ)」
俺は勢い任せに声を張り上げた。
その言葉に大地が続き、空太が全力で首を縦に振る。
蛇に睨まれたカエル......というと表現はおかしいが、少なくとも魅了されて動けなくなってるのは確かだ。
性欲とかそんな感情よりも、目の前にある芸術作品を見て脱帽している感じ。
感嘆の声しか漏れ出ない。それが今の本当の感想。
「とても素直な感想をありがとう。拓海君達も似合ってるわ」
「あ、あざーっす!」
大地が野球部ばりの鋭い礼儀姿勢を見せた。
俺も合わせて頭を下げておこう。
「それじゃあ、早速海行こうぜ」
若干状況に飲まれていた俺達に隼人が声をかける。
その声に反応して俺達は海に向かおうとすると、俺は何かを隼人に押し付けられた。
「お前も塗っとけ。やらないよりはマシだ」
渡してきたのは日焼け止め。
隼人って意外と日焼けとか気にするんだな。
肌が焼けやすいのか?
その時、俺は見ていた。
隼人が不自然な笑みを浮かべてることに。
「拓海君」
「え、はい」
声をかけられて振り向く。
そこには力強い目をした玲子さんがいた。
「日焼け止め塗ってあげるわ」
.......え、俺に?
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