第100話 何やらバチバチな雰囲気
「それにしても、どうして二人はここに?」
駅に向かう道中、俺は玲子さんとゲンキングに尋ねた。
あの時は母さんの手前、指摘しなかったが、普通は気になる。
約束したなら未だしも、その連絡すら何もしてないんだから。
「拓海君に素敵な夏休みを提供してあげたいと思ってね。迷惑だったかしら?」
玲子さんがサラッと答えて来る。
あ、そうか、玲子さんは俺のイジメられた頃の話を知っているから、当然この夏休みが俺にとって良い思い出がないことを知ってんだっけ。
そう考えると、玲子さんは俺に気を遣ってくれたわけか。
それでも一言ぐらいは欲しかったな。断るなんてしないから。
となると、ゲンキングは玲子さんに呼ばれたクチか?
「ゲンキングも呼んだんだね」
そう言うと玲子さんはキョトンとした顔をする。
視線をゲンキングの方へ向ければ、彼女は何やら必死に頭を縦に振っていた。
「そ、そうなんだよ! せっかくだからどう? 的な風に誘われて」
やっぱりそうなんだ。
玲子さんと二人って慣れたけど、微妙に会話が続かない時があるんだよな。
なんというか過去以外で触れる話題が思ったよりないとか。
まぁ、大抵玲子さんが話しかけてくるのを聞き役になってるだけだけど。
「そういえば、拓ちゃんは泳げる? ほら、体育の授業って選択だったじゃん? 拓ちゃん達はサッカー選んでたし」
「言われてみればどうだろう」
俺が最後に泳いだ記憶があるの中学二年までの時だった気がする。
その時の水泳の授業が最後で、それっからずっと泳いでないな。
俺の精神年齢で計算すれば数十年ぶり。
だけど、こっちの体なら一応二年ぶりぐらいだしイケるんじゃないかな? 知らんけど。
「ま、大丈夫だろ。たとえ泳げなくても浮き輪だって持ってきたしな」
「なら、もし泳げなかったら泳ぎ方教えてあげるわ」
玲子さんからの素敵な提案。
確かに、水難事故とか怖いしな。
そう考えるとこの申し出はとてもありがたい。
俺が玲子さんの優しさにじんわり感動していると、ゲンキングがむくれた顔をしていた。
見つめる相手は玲子さんで、対して玲子さんは勝ち誇ったような顔をしている。
この二人は一体何をしてるんだ?
「俺にそう聞いてくるが、ゲンキングの方はどうなんだ?
オフの時のあの感じだととても泳げる印象がつかないんだが」
そう聞いてみれば、ニヤッと口元を歪めるゲンキング。
「ふふ~ん。こう見えても中学の時はエースだったんだよ。県大会にも出たことあるし」
ほぉ~、すげ~。
「実際、唯華は速かったわ。後少しで負けるところだった」
「だった? ってことは......」
「えぇ、私の方が速いわ!」
誇らしげに胸を張る玲子さん。いつもよりテンション高いな。
そんな彼女の態度にゲンキングはムキ―ッと嫉妬を剥き出しにした。
「レイちゃんの場合、速すぎるんだよ! 一体レイちゃんは天に何物与えられたのさ!」
「欲しいもの手に入れるための努力をしただけよ。
数々の
実際に、初期能力値の差はあるでしょうけど、それを才能うんぬんで片づけてる時点で負けよ」
「だってよ、ゲンキング。この意識高い系は相手が悪いぜ」
「ぐうの音も出ない......!」
ゲンキングに特大ダメージが入っている。
たぶん瀕死ゲージまで行ったな。
そういう俺も大ダメージ入ってるけどな。
俺も努力してますガードを張ったけど、努力を目的のように捉えてる時点でダメやわ。
「ゲンキング、ここは協力してぶっ倒さないか?」
「!? いいね、協力プレイ嫌いじゃないよ」
正直、具体的なプランはない。
ぶっ倒すみたいなことを言ったが、これも正確にはギャフンと言わせるぐらいだ。
パッと思いついたのは、テストの成績に玲子さんに勝つぐらいか。
俺がゲンキングと仲良くしていれば、俺達の顔を交互に見ていく玲子さん。
彼女は焦ったように言った。
「ズルいわ! 私も入れなさい!」
「「それだと意味ないじゃん」」
そんなこんなで会話を続けること数分。
俺達は駅へと辿り着いた。
集合場所の噴水場所には人目を惹く集団があった。
わぁ、なんてわかりやすい目印であることでしょう。
集合場所にはすでに大地、空太、隼人、永久先輩の姿があり、通り過ぎさる男女は必ずと言っていいほど流し目で通っていく。
何度も言うが、俺以外の顔面偏差値が普通に異常なんだよな。
隼人は言わずもがな、大地だってサッパリした感じだし、空太も上の中ぐらいはある。
永久先輩は見た目から人形のような可愛さがあるし、そこに加わるゲンキングは元気っ娘(見た目)。
玲子さんに至ってはもはやポケ〇ンの色違いみたいな感じでレアリティがおかしい。
そこにいるだけでこれからモデル撮影が始まるの? みたいな感じになる。
聞いてみれば、もうこの時点で結構なナンパ男やスカウトマンに声をかけられてるらしい。
そりゃ、こんな人物見つけりゃ普通は見逃さないよな。
しかし、本人は全てをブロックしてるらしい。さすが鋼メンタル。
そう考えると、平凡な男子に惚れる美少女っていう王道のラブコメラノベは、如何に夢を見続けているかって思うよな。
まぁ、好きなんだけどさ、そういうシチュ。やっぱ、男としちゃねぇ?
そこに加わる俺、一気に周りのコソコソ話の数が増えた気がする。自意識過剰かな。
ま、慣れたけどね、さすがに。今はそれを糧に反骨精神で頑張っております、えぇ。
「ようやく来たか......って、なんだ一緒だったのか?」
大地が気さくに声をかけて来る。
俺が「二人が迎えに来てくれた」と言おうとすると、それよりも先に玲子さんが答えた。
「私が迎えに行ったの。せっかくだから最初から最後まで楽しい思い出で過ごして欲しいと思って」
「ですです!」
玲子さんの言葉にゲンキングが子分のように同調する。
まぁ、実際本人的にもそういう位置づけだと思うけど。
それに対して、反応したのは隼人だった。
「へぇ~、迎えにね。っていう話らしいけど、恋人さん的にはどうなの?」
「そうね、前まではそこまでだったけど、今だと少し気に食わないわ。
ってことで、拓海君、あなたにはもう少しワタシの恋人であるという自覚を持って欲しいものね」
永久先輩は隼人の鬱陶しい視線に小さくため息を吐けば、腕を組んでそんなことを言ってきた。
「え、でも、もう皆知ってるんですよ?」
「それでもよ。ここにいる人達が知っていたとしても他の人は知らない。
どこに目があるかわからない以上、余計な疑念を持たせない行動を取るのが一番じゃない?」
「それはまぁ」
永久先輩の言葉は一理あると思う。
高校生のカップルってのは所構わずイチャイチャしてると思うし(超偏見)。
少なくとも、普通の友達の距離感ではないことを示すべきなのか?
それにしても――
俺はチラチラッと玲子さん達と永久先輩の方を見比べた。
隼人がいつの間に永久先輩と仲良くなってるのか気になる節はあるが、それ以上になんでこんなバチバチとした視線が見えるのだろう。
玲子さん陣営と永久先輩陣営で何か起こりそうな、そんな剣呑した雰囲気がある。
それが俺の勘違いであればいいのだが......。
「それじゃ、早く移動しましょう」
玲子さんの合図に全員が動き出す。
俺が最後尾で歩いていれば、両サイドから大地と空太がやってきた。
「なぁ、傷害沙汰だけは起こらないように見張っててくれよ」
「まぁ、拓海が一番の地雷原なんだけどな」
言わんとすることがわからなかったが、伝えない内容は分かった気がする。
つまり、俺があの両陣営を取り持てってことか。
これから海なのに......?
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