第77話 バチが当たったんですよ
「賑わってるな」
「そ、そうですね.......」
カフェの窓際の一角。
俺とゲンキングは向かい合って座っていた。
コラボカフェだけあってお客さんの大半は「俺恋」のファンであり、そのゲームについて話したり、登場キャラをイメージしたケーキに舌鼓を打ったりしてる。
店内BGMも恐らくゲームのテーマソング的なやつなのだろう。
もちろん、内装にもこだわっている感じで、攻略対象の等身大パネルがある。
ご自由に撮影OKらしいので、等身大パネルと一緒に記念撮影してる人も多い。
そんな中、ゲンキングは最初こそ頼んだケーキの写真を撮っていたが、それが終わればパクパクと食べ続けている。
まるで火照った体を冷ますように。
だって、さっきからずっと顔赤いし。
ちなみに、俺が食べているのは西園寺輝彦というインテリキャラをモチーフとしたケーキだ。
そのキャラの髪が緑色ということから、このケーキは抹茶ケーキで出来ている。
これを選んだのは単に抹茶ケーキが食べたかっただけ。
抹茶を練り込んだスポンジから味わうほろ苦さとこしあんが絶妙にマッチしている。
加えて、そこにダイレクトに甘さを与える生クリームの大波。
俺の舌で抹茶スポンジのサーフボードでこしあんがサーフィンしている。
ふはっ、美味んまい! 生クリームよ、普段は天敵のお前だが今日だけは見逃してやろう。
ひとしきり味わったところでゲンキングを見る。
「なぁ、ゲンキング、まださっきのこと気にしてるのか?」
「へぇ、なんのことでごぜぇましょうか!?」
「その態度で明らかなんだよな~」
ゲンキングがこんな調子なのは俺が不用意な質問をしてしまったからに他ならない。
というのも、俺が彼女を視線だけで追い詰めてしまった後、彼女は一応一度は平静を取り戻したのだ。
しかし、メニューを注文した後に「そういえば、なんで男女ペアって嘘ついたの?」と何気なく聞いてしまった。
だって、そりゃぁ、ね? 別に普通に二人で来たかったのなら、友達だし付き合ってあげたさ。
わざわざ嘘つく必要なんてどこにもないのよ。
にもかかわらず、ゲンキングはした。
となれば、何かしら理由があるのではないかと思ってしまうわけで。
ほら、カップル割とか。そんな理由ならわかるけど、特に何もないし。
そしたら、こんな感じになってしまったわけで。
食べてるアイスも全然味わってる様子ないし。
「別にゲンキングが話したくないならそれ以上は聞かないよ。だから、もとの調子に戻ってくれ」
俺はそう言って、ケーキを食べる。
すると、ゲンキングはコップに刺してあるストローを指でつまみ、かき混ぜ始めた。
コップの中にある氷がカランと音を立てる。
「いや、別に言いづらいってことじゃないんだけどさ? その......」
「でも、明らかに言いづらそうにしてるじゃん。視線はそっぽ向いてるし」
「な、なんというか、恥ずかしいというか......」
「なら、聞かないや。別にちょっと気になっただけだから」
「待て、少しは興味を持て!」
ゲンキングがギリッと睨んでくる。
しかし、赤らめた頬のせいで威圧感は半減してしまっている。
とはいえ、本人が言いづらそうにしてるのに興味を持てと言われてもな~......っ!
頬杖をついてゲンキングを眺めていれば、突然ゾッとした空気に襲われた。
急に周囲の温度が2,3度下がった気がする。
形容し難い悪寒が俺を包み込んでいる。
その視線は窓の方から感じる。
俺がギギギと油を差し忘れた機械のように首を振れば、すーっと息を呑んだ。
「......」
窓の向こう側に永久先輩がいた。
地雷コーデとはいわないが、少し着せ替え人形の服に近いフリフリ多めの服で。
肩に持ち手が長いバッグをかけながら。
無言の圧を俺にかけてくる。
俺は全身からブワッと冷や汗をかいた。
口が半開きになり、口の端がヒクッと一定間隔で動く。
俺、知ってる。この展開......母さんの好きな昼ドラの再放送で見た。
浮気現場を恋人に目撃された彼氏の図だ。
―――1分後
「あら、拓海君、良い御身分ね。あなたが存外のプレイボーイだと思わなかったわ」
永久先輩、参戦! とス〇ブラのキャラ登場かのように容赦なく店内に入ってきた先輩。
加えて、自分が有利なポジションを良いことに、余裕の笑みを浮かべて頬杖を突きながら、俺をたしなめる目線を送って来る。
実際、俺は先輩と疑似とはいえ恋人関係ではあるので、不利なポジションにいることは確か。
チラッとゲンキングを見れば、彼女は彼女で突然の乱入者に縮こまってしまっている。
完全に陰キャモードだ。
彼女のスキル<臨機応変>は使い物にならないだろう。
「それでどんな気分? 付き合ってるワタシを差し置いて他の女の子とカフェに行くのは。
気負いせずに話せる相手で楽しかった? こんなことになるとはって困惑した?
ワタシに対して後ろめたい気持ちがじわじわと感じてきた? ねぇ、教えてくれる?」
先輩がニタァとした顔で見て来る。
実に良い笑顔。もちろん、悪い意味だ。
今の俺はまさにカモがネギしょってる状態なんだろうな。
クソゥ、ほんとになんでこんなことに。
俺が答えられずにプルプル震えていると、先輩は標的を変えた。
ニヤニヤした顔を咳払い一つで元に戻し、ゲンキングに対し自己紹介を始める。
「そういえば、初めましてだったわね。ワタシは白樺永久、キラキラネームの二年生よ」
その自己紹介って俺と初対面の時もやってたな。
意外とその紹介の仕方気に入ってる?
「そして、今は拓海君の恋人をしてるわ」
せ、先輩!? それいう必要ありました!?
先輩の言葉にゲンキングがビクッと反応する。
すると、ゲンキングが腕に力を入れて、先輩に言い返した。
「わ、わたしは二人の
その言葉に先輩は目を大きく開けば、ゆっくり元に戻し「そう」と答える。
「てっきり、あの男に話したと思っていたけれど、違かったのね」
あの男? 隼人のことか?
「ですので、マウントを取ろうとしたってそうは行きません!」
瞬間、先輩がニヤッと笑った。あ、やばっ。
「マウント? ふふっ、あなたにはこれがマウントに見えたのかしら。
となると、あなたは随分と拓海君と仲が良いという関係性にこだわりが強いのね」
「え、あ、それは......」
「でなければ、ワタシが疑似とはいえ事実を述べてることに関して、それほどまでにキッチリと否定することなんてないものね」
「違っ、そうじゃなくて......」
「大丈夫よ、無理に否定しなくて。
ワタシだって自分のおもちゃが他人に好き勝手に遊ばれることは好きじゃないもの。
それと一緒でしょ? ただそこにどれだけの好意が含まれているかの違いがあるだけ」
「~~~~~っ!」
ゲンキングが顔を赤らめ、涙目でこっちに目線を送ってきた。
あの顔は明らかに言っている、「助けて」と。
そんな彼女に先輩は実に良い笑顔だ。ツヤツヤしてる。
傍から見たらただのステキなスマイルなのに、俺からしたらただの悪女にしか見えない。
これ以上はゲンキングがちい〇わになってしまう。
それにこのまま先輩を野放しにも出来ない。
なれば、ここで身を張るのは俺しかいないよな。
「先輩、大人げないですよ」
「体は未成熟よ。好きでしょ? この体系」
ゲンキングがサッと俺を見る。
待て、早まるな、先輩の術中だ。
「はいはい、後輩をからかうのが大好きな一つ上の大人は黙っていてください」
「ふふっ、なら、大人の先輩に手取り足取りされないようにね。最近、手取りしただけだし」
ゲンキング、こっち見るな! ステイ!
「手を繋いだだけですよ」
「ダメよ。今のは失言」
「え?」
先輩がこっちを見ながら、指をさす方向はゲンキング。
指先に視線を追って見れみれば、ゲンキングは頬を膨らませて顔を真っ赤にさせていた。
こころなしか睨まれてる気がする。
「ダメよ、女の子の気持ちはしっかりと捉えなきゃ。勉強代に奢ってあげるわ」
そういって、しばらく先輩は滞在した後、会計する際に思ったより高くついていたことに少しだけしょんぼりした顔をしていた。
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