第57話 もはや誰にも手を付けられない存在ではないか?
「――でさ、そのモーションがめっちゃエグいわけ。正直、あんなの避けられるかって感じで」
「それは単に大地が下手なだけだ」
「空太の言葉にオールベット」
「おい、お前ら俺は別にそこまでゲーム下手じゃねぇぞ」
天気がいい日の昼休み、俺はいつも通り東屋に来ていた。
俺の横ではいつの間にか仲良くなっている大地、空太、隼人が他愛もない会話をしている。
林間学校以来、何かと一緒に昼食を取るようになったが、その影響だったりするのだろうか。
まぁ、仲良くなってくれてることは嬉しいのだが、なんだか最近俺が若干疎外感を感じる。
別に俺がグループの中心となって動きたいという願望は一切ないのだが......ほら? なんか人数増えるほどポジションとか気になるじゃん?
もちろん、そんなことは三人は全く気にしてないんだろうけど......悩ましい。
「そういや、拓海は放課後何してんだ?」
俺が一人考え事をしていれば、水筒を片手に持った大地が素朴な様子で聞いてきた。
何とは何だろうか。やっていることと言えば、読書感想文コンクールだけど。
もっといえば、ゲーム始まる前のゲーム操作チュートリアルみたいなの。
でも、それはもう数日前の話だし、確か前に言ったはずだけど忘れてんのかな?
俺が答えようとすれば、俺の代わりに隼人が答えてくれた。
「読書感想文コンクールのやつだろ? 前に話してたろ」
「そうだっけ。空太は覚えてるか?」
「.......覚えてる」
「今の間は絶対隼人に合わせただろ」
そっと目線を逸らす空太に大地が細めた目で見ながら言った。
この感じは覚えてないな。
恐らくジ〇イアンに味方するス〇夫の如く素早く強者に迎合したんだろう。
きっと空太からすれば隼人の方がヒエラルキーが高いのかもな。
まぁ、何度か普通に幼馴染を見捨ててた瞬間見たことあるし。
「で、それってどんなことをしてるんだ?」
「珍しく興味をもってるな」
「そりゃ、普通に気になるだろう......まぁ、久川から依頼されたとは言えんが」
最後に何か呟いた気がしたが気のせいだろうか。
こころなしか大地の目線が下を向き、乾いた笑みを浮かべてる気がする。
でもまぁ、大地の気持ちは分からなくもない。
俺も友達が知らないとこで何かしてれば強く興味があるわけじゃないけど、それとなく聞きそうだし。
特にやましいことがあるわけでもない。答えても問題ないだろう。
「俺は今読書感想文コンクールで題材にする本だったり、書き方だったりの指南を受けてる」
もっとも、ずっとしているのは単なる会話だけだけど。
これまでの流れを振り返れば、単純に白樺先輩の目的に付き合ってるような気しかしない。
今の所指南の“し”の字も見つかっていない。
もはや何にしに行ってるのかレベル。
「指南ってことは誰か先生に教えて貰っているのか?」
空太がリスの方に頬を食べ物で膨らませて言った。
お行儀が悪いからよしなさい! ちゃんと話してあげるから!
「いや、先生じゃないね。そういう方面に詳しい先輩」
「先輩ってマジか。それは男か? それとも女か?」
「妙に食いつきがいいな、大地よ。
もしかして二人で何かしてるのか気になるのか?」
「まぁ、そうといえばそうなのかもな。
今後の拓海の人生が面倒になるかならないかがかかってる」
「どういうこと?」
大地が随分と聞いてくる割には目を逸らすんだけど。
口元が明らかな苦笑いで、なんなんだコイツ。
一方で、隼人はずっとニヤニヤした顔で俺を見てるし。
この質問の答えに一体どういう結果が待っているというのか?
「どっちなんだ?」
「空太まで......女の先輩だったよ。それがどうしたの?」
「「......」」
空太と大地が目元を手で覆い、片や顔を俯かせ、片や顔を上に向ける。
なんだかよく分からないが、非常に殴りたいと思わせるような反応なのは確かだ。
そして、隼人に至っては急に興味無くなったようにスマホ弄ってるし。
コイツはコイツでなんだとは思うが......お前ら二人は少し隼人を見習え。
「とりあえず、俺はお前に会えて良かったと思ってるぞ」
空太が肩にポンと手を置いて、まるで親友の死期を見送る兵士のような顔つきでサムズアップしてくる。
なんだ? 俺はこれから死ぬのか?
俺が大地よ空太を怪訝な目で見て入れば、突如二人はピクッと反応した様子で俺の背後を見る。
その目線のままに広げていたお弁当を片付けていく手の動きは、まるで工場で箱に物を奇麗に詰める作業を何十年とやってきたベテラン作業員のようであった。
え、なになに? 俺の後ろから何が向かって来るっての?
その時、俺のポケットに入っているスマホがピロンと音が鳴る。
スマホを取り出してロック画面を見てみれば、レイソの通知で相手はゲンキングから。
なんのようだろうと開けて確認してみれば、ただ一言――グッドラックとだけ。
当然ながら、俺は首を傾げたよ。
「今の話、本当!?」
「っ!?」
突然聞こえた声にビクッとしてしまった。え、この声、まさか!?
すかさず後ろを振り向けば肩を上下させた玲子さんが立っていた。
走ってきたような様子で、うっすらと汗をかいている。
え、え!? なんでここに玲子さんが!?
まさかゲンキングのってそういうこと!?
「れ、玲子さん、どうしてここに......」
「そんなことは今はどうでもいいわ。それよりも話は本当?」
突然手をギュッと握られ、真っ直ぐした目で見て来る。
嘘偽りは許さないと言外に伝えてるみたいだ。
普通ならこれほどまでに真剣な目で見られたならドキドキするだろう。
いや、ドキドキするにはしている。だたし、恐怖的な方だけどね!
玲子さんの質問になぜかすぐ答えることが出来なかった俺は助けを求めるように背後を見る。
いなかった。
先程まで話していた俺の味方は影も形も無くしていた。
目線を遠くに向ければ、全力で距離を取る大地と空太。
二人の後ろを追いかけて、時折こっちを見ながらニヤニヤ笑う隼人。
み、見捨てられた......!? え、俺達、友達のはずだよな!?
「拓海君」
「ひゃい!」
変な声が出た。体が強張ってるのを感じる。手汗も凄い。
玲子さんはひたすら答えを待っているかのようにじっと見てくるんだけど。
え、待って待って、とにかく今の状況を整理させて!
「あ、あの......玲子さん? 俺が玲子さんの求める質問に答える前に一つ伺っても?」
「何かしら?」
「今の話とはどういう話?」
じっと見て来る目に俺の顔が引けていく。
単純に顔が近いのもそうだが、無意識に体が警戒してるみたいだ。いや、そりゃするでしょう。
その質問に玲子さんは少しだけ首を傾けて答えた。
「それは当然、拓海君の指南相手の先輩が女性だった件のことよ」
「なんで当たり前のように男子だけの会話の内容知っているんですかね?」
まるで透明人間の姿で俺達の会話をしれっと聞いてたみたいじゃないか。
未来の大女優の存在感を消せるはずないから、きっとどこかで情報が漏れ......あ、
玲子さんは周りの野郎どもがいなくなったこと良いことにしれっと横に座れば、相変わらず俺の手を握った状態でじっと見て来る。
だんだんと握っているその手は、俺が走り出して逃げ出さないための手錠かなんかじゃないかと思え始めてきた。
「そんなことは些細なことよ。それよりも内容が本当なのかイエスかノーで答えて」
「そ、それに関してはイエスだけど、別に玲子さんがそこまで気にするような......ヒッ!」
玲子さんの目線が下を向き、同時にオーラに迫力が増した。
俺の脳の勝手なイメージが、彼女の背後に業火を背負わせ、重力に逆らうように髪の毛をゆらゆらさせるという幻を見せて来る。
ともかく、わかることは――これはヤバいということ。
玲子さんは俺の手をギュッと強く握れば、再び目を合わせて来る。
瞳の奥に燃え滾る炎が見えた気がした。
彼女はその状態で言った。
「その人に会わせてくれない?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます