第51話 やっぱ男友達との遊びは最高だぜ!

―――ガッシャーン!


「うぉっ! マジで三連続パーフェクト! やべぇな、空太!」


「ふっ、だから言っただろ。俺は昔漆黒のパーフェクトゲーマーと呼ばれていたことを」


 俺が興奮した口調で言えば、空太は案の定調子乗った様子で答えてくれた。

 しかし、実際やってるからわかるけど、ボーリングでストライクとかマジムズい。


 まず投げてもボールに体を遊ばれるような感覚があるし、それに真っ直ぐ投げたつもりでも意外と斜めっていく。

 未だスペアを取れる気配はない。

 ちょくちょくガーターもしてるし。


「おい、拓海! もっと点数取れよ!」


「隼人だって俺とどっこいどっこいじゃねぇか」


「ハッ、これは勝負あったかな」


 空太の活躍に大地が自分のことのように天狗になってやがる。ムカつく。

 しかし、大地がそこそこやったことあるって言ってた割に、俺達よりもちょい点数が高いぐらいなので、どっちかが空太と戦えるようになればまだ望みがある。


「隼人! 空太に投げ方を俺も教わるから教われ!」


「は?」


「いいから! 空太師匠、ご教授お願いします」


「ふっ、いいだろう。このままじゃ張り合いがないからな」


 俺は隼人の手を引くと、空太から上手く投げるコツのようなものを聞いた。

 正直、カーブとかはすぐには理解できなかったので真っ直ぐ転がす術を聞き、隼人はなぜかカーブのやり方まで聞いていた。


 そしてやってきた俺の番、俺は空太のアドバイスを意識して球を投げていく。

 すると、ほんの少し曲がったがおおよそ真っ直ぐ転がり、一気に8ピンまでぶっ飛ばすことに成功した。おぉ、気持ちいい!


「拓海! スペアだ!」


「任せんしゃい!」


 俺は球を投げた。それはゴロゴロと転がり、1ピンだけ弾いて流れて行ってしまった。

 くっ、スペアとならなかったか!


「すまん、隼人。どうやら俺はここまでのようだ......」


「ハッ、まだ4ゲーム目だろ? 次活かせ。それよりも、見せてやるよ。本物の才能ってやつを」


 隼人はこれまで適当だったフォームから、空太の普段からボーリングに通ってるようなキッチリとしたフォームになると、まるでプロのようにスッと投げた。

 瞬間、コイツはまるで結果が分かり切ってるように後ろを向き、ポケットに手を突っ込む。


 弾は斜めに回転しながらレーンを転がり、僅かに弧を描きながら中心のピンに座れるように動いていく。

 そして――


「もう理解した。楽勝じゃねぇか」


―――ガッシャーン


『ストラーイク! 素晴らしいプレイングだ!』


 ゲーム画面から音声が流れると同時に隼人の決め顔が突き刺さる。

 強者だ。強者がいる。俺、どこかの漫画かアニメで見たことあるよ。

 あの、居合斬りの達人みたいな人が刀を納刀して数秒後に敵がバラバラになる奴。

 このストライクはそれを彷彿とさせた。やっぱ、コイツのスペックやべぇ。


「ま、まさか、俺が言った言葉を一瞬で理解して......!?」


「隼人、やっべぇな。さすがに真似できん」


 隼人の衝撃的プレイングに空太も大地も驚いた様子だ。

 そんな二人を見て実に嬉しそうな顔をして席に座れば、足を組んでそれはそれはイキった。


「どした? そんなんで驚いてちゃ先が思いやられるな」


「くっ、舐めるな!」


「そうだぞ、うちの空太を舐めんな!」


「いや、お前も頑張れよ」


 そんな隼人の覚醒から空太の動揺でゲームは一気に熾烈を極めた。

 二人の得点は最終ゲームまで同じ得点という結果になり、残すは子分同士の対決となった。

 先に投げた大地の点数的に、俺が勝つにはスペアにストライク。うっは、キッツ。


「これは勝っただろ」


「イキがんな、大地。俺が見出した人間はやるぜ。気合入れろよ、拓海!」


「めっちゃプレッシャーかけてくんじゃん」


 しかし、勝つにはここで負けてはいられない。

 俺は一度大きく深呼吸すると一投目を投げた。

 結果は7ピン。だが、残りの3ピンが密集してるのでスペアを取れないことはない。

 気合入れて、教わったことを意識して投げればスペアになった。

 これでラスト一投のチャンスを得た!


「マジか、ここでスペアを出すとはな。だが、最後はストライクだ。

 今まで一度も出したことがないお前には無理だな」


「知ってるか、大地。それ、フラグって言うんだぜ?」


 俺はラスト一投、全神経を集中させて投げた―――


―――数分後


「ガハハハ、残念だったな! 俺達の勝ちだ」

 

 勝ち誇る大地。ぐぬぬ......ほとんどお前の実力じゃないくせに。

 そう思ってると空太と隼人が慰めてくれた。


「だが、ラスト9ピンまで倒したことは素直に称賛しよう。下手な大地より、凄い成長速度だ」


「ハァ、ま、今回はダメだったが次は確実に勝てんだろ。大地、ザコだったし」


「おい、俺を合間にディスるのやめろ」


 怒る大地。そうか、俺は大地よりも出来るのか!


「くっ、ザコで下手でバカみたいに笑うことしか出来ない大地に次は絶対に負けない!」


「なぁ、俺って勝ったんだよな? なんでこんな悲しい気分になるんだ?」


 そんなこんなでボーリング対決を終えて、大地と空太に昼飯を奢った後もそのまま遊び続けた。

 チームを変えてバトミントンをやったり、バッティングをやったり、卓球をやったり、ビリヤードなんかも初めてやったな。


 それはもう素晴らしく充実した時間でした。

 えぇ、これこそ青春だと思えるほどには。

 たくさん汗をかいたし、普通に動きっぱなしで疲れることもあったけど、その疲れすら楽しいと思う日が来ようとは。


 俺の暗黒だった高校時代とは大違いも良い所だ。

 なんかもう、怖いね。幸せ過ぎて。


 そんな時間を過ごし、俺が一人トイレを済ませたところで、UFOキャッチャーの一回無料引換券を貰っていたことを思い出した。


 正直、こんなものを貰ったところで一回で取れないだろうと思う人がほとんどだろう。

 だが、この俺こと早川拓海はUFOキャッチャーは大の得意分野である。

 ぶっちゃけ自分でもよくわからんが、なんか上手く取れる。


「さ~て、何か取れそうな台ってあるかな~......ん?」


 さっさと一つぬいぐるみでもゲットして戻ろうかと思っていたその時、ベレー帽のような帽子を被り眼鏡をかけた中学生くらいの女の子が野郎三人に絡まれていた。

 態度的にも拒絶気味なのに、中々どうして強い押しでジリジリと壁際に追いやっている。


 昔の俺だったら、正直見てみぬフリも強い選択しとして存在していた。

 しかし、俺のような存在が率先して動かなくてどうする!

 やらない善よりやる偽善! 殴られることは慣れてる! 突撃じゃー!


「す、すみません! 友達が嫌がってるのでやめてもらえないでしょうか!」


 ひ、日和ったー! 声もどもったし、本当は「おい、彼女が嫌がってるだろ!」とか言ってやるつもりだったのに!

 精一杯出してる大声がむしろ全力で虚勢を張ってるように見えて仕方ない!


「あぁ? 誰だ、このチビデブは?」

「コイツが友達とかだいぶ終わってんな」

「おいおい、コイツとヤるぐらいなら俺達とヤろうぜ」


 こいつら、むしろ最近からすれば絶滅危惧種に入りそうな正真正銘な害悪男三人組だ!

 見た目のガラ悪そうで実はいい人とか、物わかりのいいナンパグループとかでもなく!

 単純に吐き気を催す邪悪のタイプだー!


「ほら、こっち来いよ」


「い、嫌っ!」


「う、うらああああ!」


 俺は女の子の手首を掴んだ男の手を強引に振り払い、彼女の前に立った。

 俺よりも若干小さいぐらいの女の子が怯えてる。

 こちとら毎日筋トレしとんじゃー! 舐めんなボケー!


「チッ、調子乗りやがって――っ!?」


「おい、俺の連れに何しやがんだクソども」


 男の一人が殴りかかろうとしたところで、その手を隼人が止めた。

 あらやだ、ここに乙女ゲーに出てきそうな攻略対象キャラがいるわ!


「なにしや......がんだ.....」


 野郎どもよりも若干デカい隼人とさらにデカい大地が眼圧で怯ませていく。

 そんな三人の姿は鎧の巨人と超大型巨人を見た時の幼少期のエ〇ン達のようだった。

 あ、あと、二人の威圧に紛れ込ませるように空太も威圧的な顔してたね。

 まぁ、隼人と大地の戦力差に比べれば、お前は頑張って強気な目をするちい〇わだけど。


 野郎どもは尻尾撒いて逃げて行った。

 それはそれは小物クサそうに。

 そんな野郎どもの姿をしり目に見つつ、三人に感謝の言葉を告げていく。


「ありがとう。助かったよ」


「別に大したことじゃねぇよ」


「それよりもその子はお前の知り合いか?」


 大地がそう聞けば、女の子はビクッとした様子を見せる。

 この子が小さいせいでデカい男が威圧的に映ってしまうんだろうな。

 なら、ここにいっちょ安心材料を与えてあげよう。


 俺は女の子に「ちょっと待ってて」と言うと、スタッフを呼んですぐ近くの大きなぬいぐるみの台に無料券を使った。

 そして、サッと大きなイルカのぬいぐるみを取ると、女の子に渡していく。


「これ、迷惑かけたお詫びにあげるよ」


「......っ!」


 女の子は何も答えなかったが、そのぬいぐるみを受け取り抱きしめれば、ぺこっと頭を下げてこの場を離れていった。

 そんな女の子の姿を見ながら隼人が茶化してくる。


「なんだ? 随分と気概のある行動すんじゃん」


「お前らにイケメンムーブされると俺の立つ瀬が無いからな。俺もカッコつけたかった」


「それを言わなきゃカッコついたのにな~」


「ま、ある意味拓海らしいが」


 大地と空太からもコメントを貰いつつ、俺達は再び残りの時間を遊びに費やした。

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