第50話 ビバ! 男だらけ遊び歩き!

 本日の俺はいつもより服装に気を遣っている。

 とはいえ、多少身なりがマシに見える程度だけど。

 洗面台の鏡の前に立ちながら、ダサいと思われないよなと確信が持てるようになるまで見ると、玄関に向かった。


「んじゃ、遊び行ってくる!」


「気を付けてね~」


 母さんがドアからひょこっと顔を出して手を振るので、その手を返しながら靴を履いていざ外出。

 ちょっと言うと、俺は今日という時間を楽しみにしていた。


 まさか突然誘われるとは思わなかったけど、こういう遊びに行く機会は一度目の人生も含めると何十年と無かったので純粋に嬉しいのだ。


 それこそ女子と買い物に行くより、今の俺にとってはそっちの方が嬉しいかもしれない。

 あ、今言った通り、これから会うのは玲子さんでもゲンキングでもないよ?

 待ち合わせの駅に向かえば、先に二人が来ていた。


「お、ここだ! ここー!」


「来たか、拓海」


 デカいタッパで存在が目印となっている大地と、その横で相変わらずクールキャラを演じてる空太。


 大地はなんてことない服装だが、空太は若干ダセェ......とりあえず、チェーンついてればカッコいいと思ってるタイプの中学生の服装だ。

 とはいえ、ジャラジャラとついてないのが幸いと言うべきか。

 いや、しかし......ダセェ、言葉にはしないけどね?


「まさか二人から遊びに誘われるとは思ってなかったよ」


「そりゃ、せっかく友達になったってのにどこにも行かないってのはな。

 それに単純に遊びたかったんだよ、一緒にな」


「大地の気持ちはわかるが、俺は正直別日にして欲しかった。拓海も筋肉痛が今だ抜けてないだろ?」


「ま、まぁ......」


 俺は普段の筋トレのおかげで回復力が高まってるけど、昨日は別の理由で疲労が凄かったからな。

 でも、久々のノンストレスで会話できる男友達での遊びなら断る理由がない。

 本当なら母さんの手伝いをするはずだったけど、母さんも「行かなきゃ怒る」とか言うし。

 ともかく、今の俺にとってこの集まりが一番の癒しですらある!


「で、俺は呼び出されただけでどこ行くかわかってないんだけどどこ行くの?」


「早速行きたいところだが......実はまだ一人来てない」


「え、誰か呼んでる?」


「おい、俺を忘れんな」


 そ、その声は.......!?

 俺がサッと振り返ればベジー〇もとい角が取れたベジ〇タがやって来た。

 う、嘘だろ.......お前、こういうの来るの?

 そう思えば、声が漏れていたのか隼人が答える。


「普段ならぜってぇ行かねぇよ。だが、今日は久々に機嫌が良かったからな。たまには行ってやろうかと思っただけだ」


「嘘つけ、昨日のレイソで『拓海が行くなら行く』って言ってたくせに」


「大地、テメェ! 勝手なこと言ってんじゃねぇ!」


「残念ながらガチです。証拠にスクショしてあります」


 え、隼人......お前、キモォ。

 俺の目つきから心の言葉を感じ取ったのか、隼人は若干恥ずかしそうにしながら荒々しく叫ぶ。


「くっ、この! オラァ、さっさと目的地案内しやがれ!」


「結局行くんだな」


 前の関係性なら絶対に出来ない隼人イジリをしつつ、俺達は早速電車に乗って隣町へ向かった。

 俺は電車に揺られつつ、隼人に先ほどの話題を掘り返して話しかけてみた。


「それにしても、本当にどういう風の吹き回しだ?

 今来てるお前にこう言うのもなんだが、別に無理して来なくても良かったんだぞ?」


「そうそう、お前も来たら良いとは思ってたけどよ。

 ぶっちゃけ断られる前提で送ったメールなんだぜ?」


「俺も色々考えてんだよ。だが、どんなに思考したってそれを実行出来なきゃ意味がない。

 俺がこういう付き合い方に順応できるか否かも検証があって初めてわかるもんだ。

 だから、これは言わば実験だ。俺がこういう関係性でどう認識が変わるかってのな」


 なるほど、なるほど――


「なんつーか、めんどくさいな、お前」


「ほんとそれな」


「うん、めんどくさい」


 俺の言葉に大地と空太が続く。

 全員の生暖かい目に隼人はすぐさま噛みついた。


「おい、全員して俺の評価をそんな風に決めつけんな。

 あと、空太! お前はいい加減似合ってもねぇクールキャラやめろ!」


 何言ってんだテメェ.....?


「バッキャロウ! 空太のこの如何にも上手く言ってるでしょ感を醸し出してるキャラづくりが良いんでしょうが! 失敗してるけど!」


「そうだ、そうだ! コイツとは幼馴染だけど、昔っからずっと何やってんだろうな、アホなのかな、いやバカなんだなって思ってみてたんだから! 失敗してるけど!」


「おい、お前ら! フォローしてる風にかこつけて俺をディスるのやめろ!」


 そんなガヤガヤとした口うるさい会話が続いた。

 たまに電車にいる部活帰りの中学生グループの会話みたいな感じだ。

 ちょっとうるさくし過ぎたかもしれない。

 しかし、そんなやり取りが実はすっごく楽しく感じてる。

 今、俺、青春してる!


 電車を降りれば、改札を通るまでに一体何人の若い女性が俺達集団を振り返ったことだろうか。

 もちろん、ほとんどの視線を集めたのは隼人だ。


 相変わらず、もう暑く感じるような時期にもかかわらずニット帽を被っているが、それでも溢れ出るイケメンオーラがすれ違う若い女性を魅了しているようだ。


 そんな隼人に嫉妬している大地であったが、たまたま聞こえた会話の中では大地の話題も出ていた。

 コイツも隼人ほどの美形ではないが、それでも人の良さそうな顔をしているのでそこだろう。

 後はマジで背がデカいところか。


 デカくてガタイいいから男らしく見えるもんな。

 そこに都合よく俺という良い比較対象がいるから余計に目立つんだろうな。

 むしろ、あのメンツの中でよくお前入れたなみたいな視線と会話が来る。


 しかし、ここは俺の玲子さんとのデートで鍛えられたメンタルとスルースキルがあるので、そこまでダメージは負ってない。

 後は単に男友達と遊びに行けてるというバフもある。


 ちなみに、ここで空太を話題に上げなかったのは彼もまた人気だったからだ......女性に。

 もっとも女性は女性でも“おばあちゃん”と呼ばれる年齢の人から、「孫に似てる」という理由でなんかパンとか貰ってた。


 あれ? 空太いなくね? と思って振り返って見ると、大抵おばあちゃん世代の人から何か貰ってる。

 それはそれでスゲーと思ったね。


「さて、着いたぞ。俺達の決戦の場――ラウンドXに」


 そこは言わばボーリング施設なのだが、ボーリング以外にもゲーセンだったり、別のアクティブゲームが出来る大型施設である。


 そこに辿り着いた俺のテンションは表にこそ出さなかったが、内心は遊園地に来た時ほどの感動があった。

 ボーリングなんか一度目の人生の小学生の時の町内会のイベントぐらいだぞ。


 俺達は早速ボーリングをしに移動していく。

 色々な準備を済ませると、大地が全員に声をかけてきた。


「そういや、ここに経験者はいるか?」


「俺は小学生の時ぐらい。隼人は?」


「俺はここに来たのが初めてだよ」


「ふっ、聞いて驚け。その昔漆黒のパーフェクトゲ――」


 空太が何か言い始めたが、言葉を遮って大地がしゃべる。


「俺は空太と遊びに行ってそこそこかな」


「おい、大地、話を遮るな。いいか、もう一度言うぞ、その昔漆黒のパ――」


 なんか長そうだし俺もいいや。


「なら、ここはバランス良くチーム分けて罰ゲームありの勝負と行かないか?

 罰ゲームは負けたチームが昼飯驕りで」


「拓海まで! 仕方ない、俺は漆黒――」


「ハッ、なんだか分からねぇが要は球転がして全部倒せばいいだけだろ? 楽勝じゃねぇか。

 おい、拓海! コイツらを任してテメェの底なしの胃袋を見せてやれ!」


「し――」


 ついに隼人にまで遮られてるじゃん。粘るな~。ま、聞かんけど。


「お前、酷いこと言うなよ。ついついやる気見せるために今日をチートデイにしたくなるじゃないか」


「ねぇ、あの聞いて――」


「いいぜ、だったらこっちは最強の空太様がいるんだからな!

 なんせコイツは昔漆黒のパーフェクトゲーマーって言われてたんだからな」


「それ、俺のセリフ――」


「漆黒の愚か者でも敗北者でも何でもいいさ、どうせ勝つのは俺達だからな。な、拓海!」


「なぁ、そんな俺をイジメて楽し――」


 大地がガシッと肩を組む。


「その言葉忘れねぇぜ。なんせこっちは空太がいれば勝ったも同然! やってやろうぜ!」


「......ぶっ潰してやらぁあああああああああ!」


 なぜかもうすでに泣いている空太の咆哮を聞きながらゲームはスタートした。

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