第49話 二人が帰った後はぐっすり眠りました
俺の意志も何もなく進行してしまった「好きなところしりとり」の第2ラウンド。
今度の俺の対戦相手もとい自爆相手は突如として参加を宣言したゲンキング。
やめてよ......こっちはただでさえすでに致命傷なんだよ?
生きてるのが奇跡なんだよ?
しかし、女は強しというのか多勢に無勢というのか、女子陣は勝手に進めていく。
玲子さんが仕切るように口を開いた。
「それじゃ、始めるわよ。でも、同じ文字だと面白くないから『しりとり』の“と”からにしましょう」
「わかった」
ゲンキングが力強く頷いていく。
その顔は赤かったが、目に確かな意志が感じられた。
真剣な目で見られるとドキッとするが、それはそれとして心労がすごいのでリアクションが出しづらい。
「なんでそんなにやる気なのよ?」
そう聞いてみれば、ゲンキングは一瞬答えづらそうな表情を見せる。
しかし、すぐにキリッとした目で答えた。
「ムカついたから」
だから、一体それはどういう感情よ?
見てても聞いてても恥ずかしい妙な気分にしかならないでしょうに。
そんなことを思ってると、早速ゲンキングは言い始めた。
「と、とにかく頑張る姿勢がわたしは拓ちゃんの良い所だと思う」
ゲンキング恥ずかしそうにしながら言った言葉。
思ったよりもフワッとしていたおかげで、ダメージがあまりなかった。
そりゃそうか、実際に言う立場に立ってみればこんなもんだろう。ふぅー、助かった。
「えっと、この場合俺はまた“い”になるのか?」
「そ、そうだね......」
なら、俺もフワッとした感じで答えよう。
さっきも俺の発言の後に突然玲子さんが仕掛けて来たし油断ならないけど。
チラッと玲子さんを見てみれば、ふてくされたように頬を膨らませてこっち見てくる。
だから、ゲンキングといい俺何かしました?
「一途に憧れの人ために努力を続けるところ」
「ぅぐっ!?」
なんかゲンキングから妙な声が聞こえた気がしたが......気のせいではないみたいだ。
心臓を抑えて必死に内側から叫びたい何かを堪えている。
頑張れ、それを耐え抜いた先にはまるで何もないが、自分は耐え抜いたって自慢にならない自慢だけは生まれるぞ。
「レイちゃん、『続ける』の部分で切ると同じ文字ばかり続くから『努力』で区切っていいかな?」
「許可するわ」
「な、なら、愚直なほどにしっかりとした芯を心に持っていて、それでいて努力してる姿勢を自慢するわけでもなく――」
「ちょ、ゲンキング?」
「友達を助けることに一生懸命になって、その姿がわたしにとっても眩しく感じて――」
「ゲンキング、落ち着け! なんかもうしりとりとか関係なくなってるって!」
「いつの間にか心の中に輝いた存在としていて、なんだかそれがカッコよくてす――っ!」
ゲンキングは言葉を言いきる前に止まった。
随分と長々としゃべっていたが大丈夫か?
ちなみに、俺はだいじょばない。
心臓バックバクでもはや苦しいまである。
普通に自分の心音が聞こえてくるし。
心臓止まっちゃうよ。
俺まだ死にたくない。
ゲンキングは真っ赤な顔で俺を見る。
普段の作っている太陽のような感じではない眼鏡をかけたラフな感じだが、それでも彼女の素材はかなり高いので思わず目が吸い寄せられてしまう。
そうだった、玲子さんが際立ってるからアレだけど、彼女の隣に立とうと努力しているおかげかゲンキングも十分なほどに美少女だった。
それこそラブコメならメインヒロイン枠を張れるぐらいだと思う。
俺の無意識な友達フィルターで直視しないようにしてたから気が付かなかった。
ゲンキングは自分が言おうとしていた言葉に驚いた様子であった。
だが、俺の顔を見るとすぐに唇を軽く噛んだ。
そして、大きく言葉にするとハッキリと言った。
「好きだなぁって思いました!」
「っ!」
半分ヤケクソみたいな言い方だったが、それでも真っ直ぐ俺を見てくる。
これは......どっちなんだ?
言い方的に告白のようにも聞こえるし、好感を持ってることを伝えただけのようにも聞こえる。
しかし、さすがに前者は俺の自意識が過剰すぎる反応だろう。
とはいえ、色々衝撃的過ぎてどう反応したらいいものか。
普通にしりとりを続けるべき?
それとも何らかはその言葉に答えるべき?
いや、でも......玲子さん推しのゲンキングが俺なんかに告白なんて、さすがにありえないか。
「え、えーっと、俺は――」
「もう終わり!」
俺が続きのしりとりの語尾を確認しようとしたところで、玲子さんがパンッと手を叩き、強制的にゲームを終わらせた。
彼女はそっとゲンキングの肩に手を置いていくと伝えていく。
「唯華、落ち着きなさい。
確かに助けてもらった恩義はあろうとも、きっとそれは一時的な感情のふ膨らみによる勘違いだと思うわ。
時間を置いて冷静に見極めて行きなさい。ここで事故を起こすことはないわ」
「レイちゃん......」
正直、玲子さんが言ってることがさっぱしわからない。
というか、考える余裕もない。
心臓痛い。
二人の間で何か共通認識の話題があって、それに関して言ってるんだろうってのはわかるけど。
それよりも、俺はこの地獄のようなゲームが終わったことに酷い安堵感を感じていた。
もうこんなの続けたくない。
何度も言っているがとてもじゃないが羞恥心が持たない。
世のカップルが実は裏でこんなことをしているのかと思うとゾッとする。
まぁ、俺がそっち側の立場につく未来があるのかどうかは知らんけどな。
心の底から疲れた息を吐くと同時に、チラッと時計を見てみる。
時刻は12時を回った。つーか、午前中からこんなことやってたのか。
時間が長げぇよ......あれだけの時間で起きてまだ2時間しか経ってないのかよ。
ハァ、なんだろう今から寝たら明日の朝まで起きない自信がある。
「ぐぅ~~~~」
おいおい、嘘だろ......? 俺の腹の虫がお腹減ったと言い始めたぞ?
朝食が10時ごろだったからいくら何でも早すぎる。
確かに、多大なるエネルギーを使うようなことをしていたとしても!
その音を聞いた玲子さんは「やっぱり」とでも言いたげな顔で俺に言ってきた。
「拓海君、全然足りてないじゃない。もっとたくさん食べれば良かったのに」
「アハハ......」
こんなに早くお腹が減ったのはこのゲームをやり始めたせいだ、とは口が裂けても言えないな。
その一方で、ゲンキングがそそくさと帰ろうとするので、それ自体は止めないが昼だしと思って聞いてみた。
「ゲンキングも昼済ませていきなよ」
「え、いいよ。そこまでしてもらうのは」
「大丈夫よ、一人増えようと大した手間ではないから」
玲子さんがそう答えれば、ゲンキングは動きを止めた。
相変わらずこの人は玲子さんのこと好きだなぁ。
「玲子さんもこう言ってることだし遠慮なく食えって。
食料のことは気にしなくていいから。
この前の泊めてもらったお礼だと思って」
作るの俺じゃないんですけどね。
ま、俺が作るよか推しに作ってもらった方がいいか。
そう伝えればゲンキングも「そこまで言うなら」って感じで昼ご飯を食べてくことに。
玲子さんがキッチンに行けば、手伝うようにゲンキングも向かっていく。
その二人が一緒に料理する姿はまるで百合漫画のワンシーンを見てるようで、疲れた心が癒えていった。
どこかの誰かが言ってた「百合は世界を救う」って言葉は存外嘘ではないみたい。
そして、二人が作った料理を皆で一緒に食べ、食べ終わればせっかく複数人いるのでパーティーゲームを誘ってみれば、結局日が暮れ始めるまで遊びつくした。
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